第122話 救世主は監督らしい(酔っ払い)

 監督の鹿島に居酒屋に連れて来られた海里達は席に座ったのだが、話題がない為に黙々と料理を食べていた。


「やあ、君たち食べているかい?……って、そんだけしか頼んでいないのか。もう少し頼んでもいいんだぞ?」


 そんな中、監督の鹿島(救世主)がやって来た。

 綾佳たちがどのくらい頼んだか気になっていたようだが、思ったより少なかったようで首を傾げながら言ってきた。


「鹿島監督、美味しいここの居酒屋さん美味しいですね!」


「私もそう思いました。特に焼き鳥が美味しいですね」


「そうかそうか!それは良かった。いや、高校生だから居酒屋はダメかな〜って入ってから思ったんだけど、喜んでくれてよかったよ」


 鹿島は陽気に笑いながら言ってきた。

 彼の顔は少し赤くなっていたので、酔い始めているのだと一瞬で分かった。

 そして、お酒臭かった。

 

 綾佳と柚月は、鹿島の台詞を聞くと苦笑いしながら、あはは…っと、苦笑いをしていた。


「という訳で、高校生組は夜九時?くらいまでだから、残り三十分までに色々と頼むといい。それじゃあ、私は席へと戻るよ」


 鹿島は手を振ると、座席へと戻って行った。


「それにしても、残り三十分って急すぎるだろ」


「まぁ、高校生が居酒屋にいる時点であまり良くないんだろうね。ほら、法律とか色々ね」


「確かに、時間は少し早いと思いますが、監督は私たちのことを心配してくれているのでしょう」


「そうだよな… トップアイドルに売出し中の女優を、こんな事で不祥事出す訳にはいかないもんな」


「そうですよ。私たち超人気芸能人なのです。不祥事は命取りなので、気をつけてくださいよ」


 柚月は焼き鳥を食べながら、海里にジト目を向けながら言ってきた。


(焼き鳥を食べながら言うなよ…(笑) 真面目な話をしているのに、なんだか面白い…)


 海里は少し笑みを溢しそうになり我慢していると、それに気づいた柚月は眉間に皺を寄せた。


「海里先輩、変な笑みを浮かべないでください。気持ち悪いです。食べ物が喉を通らなくなります」


「それはそれで酷くない?!」


 あまりの辛辣な言葉に、海里は驚いてしまった。

 その横で綾佳は、うふふ… っと笑っていた。


「それよりさ、何か頼まないの?私は別に頼まなくてもいいのだけど」


 綾佳は腕時計を見てから、二人に尋ねた。


 なんだかんだ話をしていたら、あっという間に十分経っていた。

 

「そうだな… 俺も別にお腹いっぱいになったから、頼むことはないかな」


「なら、私も別にいいですよ。家に帰ったら軽食を食べるつもりでいたので」


 満場一致で頼まないを選んだので、時間まで飲み物と会話だけで過ごすことにした。


 だけど海里だけ無言で、綾佳と柚月は二人で仲良く話していた。


◇◆◇◆


「さて、高校生組はこれにてお開きだ。私はまだまだ飲むから、二人ともお疲れ様。海里くん、また会おうね!」


 夜九時になると、監督の鹿島はよろよろしながら、海里たちがいる席へとやって来た。


 先程よりもさらに顔が赤くなっており、お酒が回っていることが一眼で分かった。

 あと、ろれつが回っていないので、聞き取りづらかった。


「監督、本日は打ち上げにお呼びいただきありがとうございます。私と柚月ちゃんで作ったCMがどのように完成されるのか、今から楽しみです!」


「鹿島監督。私もお呼びいただきありがとうございます。私もCMの完成を心待ちにしています」


「うんうん。二人ともいい子だね。よし、CM出来たら、すぐに白箱を送ってあげよう」


 白箱とは、映像業界において作品が完成した時に制作スタッフに対して、確認用に配布されるビデオテープのことである。


 監督の鹿島は、陽気に笑いながら言ってきた。


「ほんとですか!!柚月ちゃん、私の家で試写会でもしちゃう?」


「……!!それ、私、行きたいです!!」


「よーし、それじゃあ、白箱は綾佳ちゃんの事務所に送っとくよ」


「監督、酔って忘れたとかは無しですよ〜!!」


 綾佳は鹿島の方に近づき、腰に手を当てながら言ってきた。


「あはは… 綾佳ちゃんは怖いな〜 ちょっと、待っててね」


 そう言うと、鹿島はポケットから携帯を取り出してポチポチと打ち始めた。

 そして数秒が経つと、彼は、「うん」と頷き、画面を綾佳に見せた。


 それに合わせて、柚月と海里も横から覗き込んだ。


『CM完成したら、白箱を瀬倉綾佳の事務所に送る。忘れたら、綾佳ちゃんに嫌われるよ。by 酔っ払っている鹿島』


 鹿島は綾佳との約束を守る為に、携帯のメモ欄にメモをしていた。


 だけど…


(綾佳に嫌われるって… 監督がそんなことを言わないでくださいよ。それと、自虐みたいに書くのは辞めてくださいー!!!)


 心の中で海里は叫んだ。


「監督、私の名前は?私のことはどうでもいいのですか?」


 メモ欄に自分の名前がないことに気に入らなかったのか、柚月は指を指しながら指摘してきた。


「おっと、それは悪かったね。えっと、柚月ちゃんにも嫌われるよっと… これでいいかい?」


「………完璧です!」


 柚月は満面の笑みをしながら、サムズアップしてきた。

 それを見た鹿島も、彼女の機嫌が良くなったことに安堵しているように見えた。


(てか、酔っ払っていても、その辺は真面目にやり取りできるのか… 凄いな…)


「はい、三人とも帰りますよ」


 すると、北島が手を叩いてやって来た。 


 彼女は車で海里たちを家まで帰すのも仕事なので、お酒は控えていたようだ。


「「「はい!」」」


 海里、綾佳、柚月は返事をして、改めて鹿島の方を向いた。


「鹿島監督、今日はありがとうございました。自分も、次会えるのを楽しみにしています」


「私も楽しかったです。白箱楽しみにしていますね!」


「監督!私、もっと頑張るので、また私のことを使ってください!!」


 柚月は胸の前でガッツポーズをして、今後のやる気を伝えていた。

 鹿島は、「活躍を楽しみにしているよ」と言って、飲みに戻っていった。


「うぅ… あれって、どうゆうこと…?」


 柚月は軽くはぐらかされたと思ったのか、下を俯きながら ボソッと呟いた。

 そんな彼女に綾佳が近づき、肩をトントンと叩くと口を開いた。


「大丈夫だよ。きっと、すぐにオファーしてあげるから、頑張れよと応援をしてくれたんだよ!」


「……そうですよね… 私、それを信じて頑張りたいと思います」


「そうそう、その意気で頑張ろう!」


「はい!」


 海里は、「綾佳と柚月は友情が深まった」と、どこかのゲームにある台詞が聞こえてきた気がした。


「三人とも!早く、車の所に行きますよ!!」


 北島が少し機嫌悪そうにしながら言ってきたので、三人は互いに顔を見合わせながら微笑み合い、北島の元へと向かった。

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