第121話 サラリーマンの注文かよ
海里、綾佳、柚月たちは監督の鹿島に連れられて、居酒屋に行くことになった。
目の前にお店が見えてくると、綾佳は海里の横で大きなため息をつくと、自分の腕を引っ張り小声で呟いてきた。
「(ねぇ、海里くん。高校生の私たちに居酒屋ってどう思う?)」
「(まぁ、お酒は飲めないから、あまり楽しめないかもな)」
「(そうだよね… 私、お酒のんじゃおうかな…)」
綾佳は悪い顔をしながら、ニヤニヤしていた。
流石にそれはダメなので、海里は止めることにした。
「(綾佳、それはダメだぞ!未成年飲酒は法律で違反されている。それにトップアイドルなんだから、不祥事として誰かに取られたら困るでしょ!)」
海里は綾佳の頭にチョップをいれた。
彼女は、いてっ…!と可愛らしい声をあげると、自分の方を睨んできた。
すると、前の方から声が聞こえてきた。
「おーい、お二人さん中に入るよ〜!」
監督の鹿島が海里と綾佳を呼んでいた。
「はーい。今すぐに向かいます」
綾佳が返事をして、海里と共に中へと入った。
「えっと…」
お店へと入店した一行は、店員に案内をされて席へと座ったのだが———
今回参加した人数は六人(海里、綾佳、柚月、北島、鹿島、助監督)で、ボックス席が多いお店。
つまり海里、綾佳、柚月、北島が一ボックスで監督の鹿島と助監督が一緒の席になるはず。
だけど、北島は何故か監督たちの方に座ったので、三人だけで座ることになった。
「海里くん私の隣に座ってよ〜!」
「いや、この場合は柚月ちゃんがいいのでは?」
「別に、私は目の前で綾佳先輩のことを眺めていますから、ご遠慮なく」
「ほらね、柚月ちゃんもこう言ってるんだし、海里くんは私の隣に決定〜!というより、強制!」
そう言いながら、綾佳は海里の腕を引っ張り、席の奥へと押し込んだ。
海里は押されながら転ばないように席へと座り、ふと柚月の方を見た。
柚月は綾佳の行動を楽しそうに見ていて、自分のことに対しては無関心だったので安堵していた。
「そちらの御三方、好きな物を頼んでいいからね〜!だけど、頼みすぎには注意してね」
監督の鹿島は陽気な笑みをしながら、海里たちに語りかけてきた。
(好きな物を頼んでいいが、頼みすぎには注意って、矛盾しているような…)
とりあえず、海里はメニューへと手を伸ばした。
「それで、綾佳たちは何を頼む?」
「う〜ん… 私、ウーロン茶にしようかな」
「私はオレンジジュースでお願いします」
「「………」」
海里と綾佳はお互いに顔を見合わせて苦笑した。
その理由は柚月がジュースを頼んだからだ。
「なによ…」
「柚月ちゃんって、可愛いな〜って思って」
「なんと言うか… ギャップ萌え?」
「綾佳先輩、その可愛いってありがとうございます… 海里先輩は黙っててください」
柚月は綾佳には満面の笑みで返事をして、海里にはジト目で対応してきた。
海里は、ごほん… っと咳払いをして、話を進めることにした。
「それで食事はどうする?」
「食事っていっても、ここ焼き鳥が多い居酒屋だから頼む物も限られるよね」
「そうですね。では海里先輩のおまかせでいいですよ。変なのは頼まないでくださいよ」
「それじゃあ、私も海里くんと同じ物にする〜!」
二人は海里に注文を委ねて、話を始めた。
海里はタッチパネルを使い、一つずつ注文をする料理を選んでいった。
一つ目、胡瓜の浅漬け×2
二つ目、お任せ焼き鳥×2
三つ目、ウーロン茶×2
四つ目、オレンジジュース
海里は注文確認画面を見て、ふと思った。
(頼んだ物がどっかのサラリーマンかよ)
そんな事を思いながら、注文完了を終えた。
ややあって。
店員さんが全ての料理を持ってきて、机の上にはずらりと商品が並んでいた。
「海里くん、これって、サラリーマンが頼む物だよ…ね?」
「私も、そんな事をふと思いましたね」
「えっと… その… すみませんでした」
海里は涙目になりながら、自分の分である胡瓜の浅漬けを一つ食べた。
綾佳と柚月はそれを見て、うふふ… っと微笑むと、二人で仲良く分け合いながら食べ始めた。
「うん、美味しい〜!!さてと、乾杯しますか」
「はい!綾佳先輩、お願いします」
「任せなさい!」
綾佳は胸を張ると、コップを手に持ち高く掲げた。それに合わせて、柚月と海里もコップを持ち上げて、綾佳の言葉を待った。
「皆さん、これからも頑張っていきましょう!乾杯♪」
「「乾杯」」
三人でコップを、カーン… っと合わせて、飲み物を飲み始めた。
「で、私たちだけ別の席になったけど、特に話すことないから困ったね(笑)」
綾佳は、ボソっと呟いた。
「「確かに」」
海里と柚月は同時にハモリ、お互いに顔を見合わせた。
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