第120話 北島さんは本当に何者なの?

「北島さん、急に話し掛けてこないでくださいよ。びっくりしましたよ」

 

 突然現れた北島に、苦笑いしながら言った。

 一応、マネージャーとしては上司になるので、ここで生意気な態度を取ったら後々大変なことになると考えたからだ。


「あらら、そんなにびっくりしますか?寺本さんは根性が足らないのでは?」


「今のは根性の問題ではないと思いますが…」


「まぁ、どっちでもいいですね。そんなことより、綾佳さんの行動面白くなってきましたね」


 北島は綾佳の方を見ながら、またニヤニヤしていた。


「それって、俺に話すのは違うのでは?」


「そうですか?当事者である寺本さんだからこそ、話しているのですが?」


「いやいや、当事者だからこそ、恋バナ系は聞かない方がいいのでは。てか、綾佳が俺のことを好きって言っているようなものですが?」


「はい。綾佳さんは確実に寺本さんのことを好きになってますよ。間違いなく」


 北島は真顔で爆弾発言をした。


(まじかよ… この人、簡単に言いやがったよ)


 北島に言われたことは、自分でも気づいていた。

 ここ数日の綾佳の行動を見てれば何となくだが、気付くものだ。てか、以前からそんな雰囲気があったから。


(だけど、マネージャーが担当アイドルの恋を、当事者に伝えるのはどうなのか…)


「それは察していましたよ。ですが、北島さんからそれを言ってもよかったのですか?」


「別に告白をしてる訳ではないので、大丈夫でしょ。それに、綾佳さんから告白されたら、寺本さんは二つ返事で受けるでしょうし」


 確かに自分は受けるだろう。

 綾佳と付き合うことは、自分にとって幸せに違いない。


(ただ、普通の恋愛は出来ないが…)


 そんなことを考えながら、海里は返事をした。


「もちろん。公私混同、支えていける人になりたいですね。ですが、付き合うのはまだ先かもしれませんね」


「そうなのですか?私としては、今すぐにでも付き合ってもいいのですが?仕事に差し支えがなければ」


「そこなんですよ。綾佳はいま人気上昇中で、仕事も沢山来ると思います。それなのに恋に現を抜かして、仕事が身に入らなかったら意味がありません。重要なのは時と場合なのです!」


「なるほど… それ以外にも何かありますか?」


 どうやら北島は海里の話し方に、まだ何か悩みがあると感じとったようだ。


「す…」


「す?」


「スキャンダル… 綾佳にスキャンダルが出たら、今までのキャリアが…崩れると思い」


 スキャンダル。

 それは芸能人にとっては名誉を汚すような不祥事。

 特に人気暴露雑誌などに載ったら、一気に世間の評判は下がり記者会見になる。


「あー、確かにそれは怖いですよね。ですが、よく考えてみてください。あの綾佳さんが、そんな不祥事で地に落ちると思いますか?寧ろ、それを活躍してさらに飛躍しそうな気がしますが?」


 北島にそう言われて、海里は綾佳の方を見た。


「確かにそうですね。自分の不祥事を活用して、さらに売り込む。綾佳の考えそうなことですね」


 海里は苦笑しながら言った。


「ですが、恋は本人同士の気持ち次第。つまり、タイミングは自分たちが決めるもの。もし寺本さんから告白するのであれば、決意した時にするといいでしょう。まぁ、綾佳さんから恋の相談されたら、余計なことを伝えるかもしれませんがね」


 北島は てへっ…としながら伝えてきた。

 海里はいい大人が何してるんだと思いながら、「その言葉、心に受け止めます」と言った。


 そして、タイミングよく綾佳が戻ってきた。


「あれれ?二人とも何の話をしていたの?」


「ん?仕事の話だよ。ほら、綾佳は人気が出てきているから、次の仕事はどれにしようかって」


「ほんとー?北島さん、どうなの?」


「もちろん、ほんとですよ。綾佳さん、撮影の方はどうでしたか?」


 北島は質問を簡単に受け答えて、彼女の仕事の話へと話題を変えた。


(……プロだ!流石、綾佳マネージャーだな。さっきまでの雰囲気とはまるで違う)


 ずっと、恋バナ好きなどっかのおばさんみたいな雰囲気だったのに、いまはアイドルのマネージャーだ。


 と思っていたら、北島に凄い形相で振り向かれた。


(う… 北島さんも超能力者かよ)


「ふ〜ん… まぁ、いいや。んで、撮影は完璧に終わりましたね!」


「それはよかったです。では、私も確認してきますので、少々お待ちください」


「「はい」」


 北島は監督の鹿島の元へ行き、撮影された映像を見に行った。


「それで海里くんは、北島さんと何の話をしていたの?」


 北島がいなくなると、綾佳は顔を近づけて呟いてきた。


「ほんとに、仕事の話だから」


「怪しいな〜!!海里くんが嘘をつく時って、目が泳いでいるよね」


 綾佳は海里の目の前で指をくるくるしながらニコニコしてきた。


(嘘だろ…俺って、そんなに分かりやすいのか?)


 海里はさらに動揺していた。


「そ、そんなことはないぞ。うん、何もない!」


「うふふ… 海里くん、最高だね!」


「笑い事ではないだろ…」


「それじゃあ、海里くんが本当のことを話したくなるまで待つとしましょう!」


「………分かった。時が来たらな」


 それを聞いて、綾佳は満足そうな顔をしながら頷いた。


「綾佳先輩、どうやら全てOKらしいですよ」


 すると、今度は柚月が綾佳を呼びにやってきた。

 柚月は海里のことを見ると、何か言いたそうな顔をしたが、ぐっ…っと我慢をして綾佳の方へと顔を向けた。


「ほんと!それじゃあ、これにて撮影は終わりかな?」


「はい。ほとんど一発OKだったので、早く切り上げられたと喜んでいました。なので、監督が皆んなで夜ご飯でも食べませんかと言ってましたよ」


「なんと!それは魅力的な提案ですなぁ!海里くんもそう思わない?」


「……えっ、うん、そうだね」


 二人の事を、ぼっーっと眺めていたので、突然話を振られて驚いた。


「とりあえず、二人とも参加でいいのですね?」


「うん!北島さんも多分行くよね?」


「はい、行くと言ってましたね。なので、聞くまでもなく、すでに三人入ってますけどね」


 柚月はてへぺろとしながら、綾佳に抱きついた。


(何故、そこで綾佳に抱きつくのだ?意味がわからん)


 綾佳は彼女の頭を撫でながら、離れるように促していた。

 そして泣く泣く離れると、ため息をつき監督の元へと戻った。


「というらしいので、夕食代が浮いたね!」


「だな。どんなお店に連れて行ってくれるのかも、ワクワクするな」


「だよね!焼肉がいいな〜!」


 綾佳は鼻歌をしながら、監督の元へと向かった。

 そして海里は、目の前で楽しそうにしている彼女の後を追いかけた。

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