第118話 俺の案でいいの…?!

 海里、綾佳、柚月の三人はスタジオの中にある座席に横並びに座っていた。

 北島は海里と綾佳をスタジオまで送ると、少し用事があると言ってどこかに行ってしまった。


「おーい、そっちは準備できているか?」

「はい。カメラ設置大丈夫です」

「こちらも、準備完了しています」


「グリーンバックは大丈夫か?」

「はい、画面も合成ちゃんと出来ています」


 スタジオ内にはスタッフ同士の呼び掛けが至る所から聞こえてくる。


「いよいよ、CM撮影か〜 この時の為に、私スポンサーの飲み物を買ってでイメトレしてきたんだ!」


「確かに家でそんなことをしていたな」


 綾佳は時々、買ってきた飲み物を一口飲むと、ペットボトルを前に出し、一言呟いていた。


「私… 何もしてない… 綾佳先輩の力になりたいのに…」


 二人の会話を聞いていた柚月は、俯きながら落ち込んでいた。


「大丈夫だよ!私と柚月ちゃんなら、いろんなパターンをすぐに出せるから!ねっ、海里くん」


「そうだな。柚月ちゃんは綾佳と相性がいいから、今回の撮影は完璧にこなせると思うぞ」


「………ありがとございます。綾佳先輩と、か…海里先輩の応援でやる気が出ました」


 柚月は未だに自分の名前を呼ぶのを、嫌そうな顔をして呼んでいた。

 だが、ここで仲良くしてるアピールしていないと、綾佳から無視されてしまうので頑張っているのだと感じていた。


「よし、柚月ちゃん。二人で頑張ろうね!」


「はい!!」


 綾佳と柚月はお互いにガッツポーズをしながら、顔を見合わせて意気込んでいた。


「よーし、綾佳ちゃん、柚月ちゃん、こちらの準備が終わったからリハーサルをしようか」


 監督の鹿島は撮影前の準備確認を終えたので、二人に声を掛けてきた。

 綾佳と柚月は同時に、「はい!」と言い、スタジオの中央へと向かった。


 今回は撮影はフルCGを使って行われる。

 なので、スタジオの中央には長方形のグリーンバックがある。


 そして主役となる二人は爽やかな衣装で撮影を行うのだが、リハーサルなのでいまはまだ着の身のままだった。


「では、リハーサルを行いたいと思います。最初は二人とも軽く走ったあと、飲み物を一口飲んで、お互いに顔を見合わせて商品名を言ってみようか」


「「はい!」」


 監督の鹿島の指示通りに、二人は動き出した。

 グリーンバックの端から端まで軽く走り、そして一口飲むとお互いに顔を見合わせて商品名を言った。


「うん、いいね」


 監督の鹿島は満足したような顔をしていた。

 だが鹿島は、「だけど」と続けた。


「もう少し、ひねりが欲しいんだよね〜」


 その一言で、綾佳と柚月も一緒に考え出した。


「ひねりか… ひねり… ひねり…」


「これ以上の何か…」


 二人の考えでいる姿を見ながら、海里も一緒に考えることにした。


「爽やか系で飲み物の変わったCMか…」


 海里は二人とグリーンバックに目を向けた。


(映像が確か海だったような… そしてひねりとなると水着だが、今回は無しだから…)


「ダンスして、爽快的な感じでやるとか?」


 ボソっと呟いた海里は、あっ…! としながら口に手を当てた。

 だが、監督の鹿島はその台詞を聞いて、すぐに海里の方を向いてきた。


「いいね!その案、使わせて貰ってもいいかな?」


「えっと… その、はい…」


 鹿島の圧力に負けた海里は、顔を引き攣りながら返事をした。


(まさか、俺の案が通るとは… この監督、恐るべし)


 そして恐る恐る二人の方を見ると、綾佳はサムズアップしながらニコニコしていて、柚月はジト目で見つめていた。


「よし、綾佳ちゃん、柚月ちゃん、ダンスしてから一口飲んで、お互いに一言言って商品名でお願い」


「分かりました!海里くんの案だから、私、やる気上がってきたよ!!」


「はぁ… 海里先輩の案ですが、仕事なので頑張ります」


 そして鹿島の合図で二人は指示通りに動き、撮影後のカメラチェクで鹿島のOKが出た。


「いいよ!二人とも最高だよ!!よし、二人とも着替えて、本番もこのまま撮っちゃおうか」


「「はい!」」


 リハーサルはこれにて終わり、いよいよ本番の撮影が始まることとなった。

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