第117話 綾佳は超能力者?
柚月の一日マネージャーを終えた海里は、リビングにてゆったりして… 出来ていなかった。
帰って来て早々に綾佳に捕まり、机を挟んで一日の報告会が開催されていた。
「さて、海里くん。私が出したクエストは達成することはできたかな?」
綾佳のクエスト…
つまり、『柚月と仲良くする』ことだ。
確かに自分は柚月と仲良くする為に頑張った。
だが、彼女は納得しないまま一時休戦状態になった。
(これは達成したと言えるのか?寧ろ、クエスト失敗で俺まで罰ゲームが来るのでは…)
「うん、分かってるよ。達成できなかったんだよね。全て北島さんから聞いたよ」
「んな?!それじゃあ、何であんな質問したんだよ」
「だって、海里くんが困っている顔が見たかったから(笑)」
「そーゆうのなんて言うか知っているか?悪趣味だって言うんだぞ綾佳」
「そんな事ないもん!」
否定しながら、海里の肩に一発軽いパンチをした。
そのパンチは全然痛くなかった。
「で、北島さんから全て聞いたって言ってたけど、どこまで知っているんだ?」
北島から聞いたと言っても、撮影までの間というのは知らないはずだ。
帰り道でもその話はしてないので、最終的なことは知らないと考えていた。
「CM撮影の時まで仲良くして、それから先はまた考えさせていただきます。ってところかな」
全て知っていた。
海里が綾佳に告げ口をしようとしていた話まで、彼女は知っていた。
(……なぜ?北島さんいつ聞いていたの?!)
あの時、北島はいないことは知っていた。
なのに、綾佳に伝えられたのは自分が伝えようとした話だった。
(えっ… 北島さんって、有能なマネージャーじゃん)
今度から北島に逆らわないように決めた。
「えっ…?私、何か違うこと言ってた?」
海里が反応がないので、綾佳は首を傾げながら聞いてきた。
「綾佳の言った通りです」
「だよね!それで、私に告げ口をして柚月ちゃんと必ず仲良くしようと考えていたんだよね?」
「!?」
綾佳の台詞に、海里は目を大きく見開いて驚いた。
自分は口には出してないし、柚月以外あの場所に誰もいなかったのに。
それなのに、自分が思ったことまで伝わっていたことに少し恐怖を覚えた。
「何もびっくりすることはないでしょ〜 海里くんと数ヶ月、一緒に暮らしていれば、何でも分かるよ」
「いやいや、それはそれで怖い。普通の人は数ヶ月で、他人の心を読むことは出来ないぞ?てか、普通は出来ないからな」
「それが出来てしまうんだよね〜 やっぱり、トップアイドルだからかね」
冗談混じりで言ってくる綾佳に、ため息をつきながら海里は目を細めながら苦笑した。
「ちょっと、馬鹿にしたような笑みはやめてよ!」
「馬鹿にしてはないぞ。ただ、人の心を読めるなんて、トップアイドル様は凄いな〜って」
「それを馬鹿にしているって言うんだよ!」
綾佳は海里の顔に指を近づけて、めっ!っとしてきた。
そして彼女は、「それで」と続けた。
「柚月ちゃんと仲良くする作戦は第二フェーズへ移行するでいいんだよね?」
「………はっ? 第二…フェーズ?なにそれ、俺何も聞いていないのだけど?」
「そりゃ、いま考えた作戦だから」
「いきなりすぎて、話がついて行けないのだが… それで、第二フェーズの内容は…?」
自由奔放の綾佳に慣れたと思っていたが、自分はまだまだだと思い知らされた。
とりあえず、作戦の内容を聞くことにした。
「この作戦はCM撮影の時に行います」
「はぁ…」
「私と柚月ちゃんが撮影をします。そして、休憩中などに私が柚月ちゃんに海里くんの話をします」
「………」
「それでも反応がなければ、私が海里くんと仲良くする様に促します。例えば、海里くんと仲良くしてくれたら、一日デートしてあげるとか?」
「それは確実に柚月ちゃんは乗ってくるな」
柚月ちゃんは綾佳のことが大好きだ。
例え、海里と仲良くする条件を出されたとしても、泣く泣く了承するであろう。
だが、これには一つ欠点がある。
「だけど、その場で柚月ちゃんが「仲良くします」と言っても、デート後に元に戻ると思うのだが?」
「確かにそれはあり得そうだね… う〜ん…」
綾佳は虚空を見上げながら、顎に手を添えて考え出した。
それを見習って、海里も一緒に考えることにした。
「………」
「………」
室内には時計の針の音が響いていた。
数分後、綾佳が ぽん!っ と手を叩き「これだ!」と口を開いた。
「一つ目が一緒にコスプレしてあげる。二つ目が連絡先ブロックする。三つ目が三ヶ月口を聞かない。この中だと、どれがいいかな?」
一つだけだと思ったら、三つも出てきた。
自分は一つも浮かんでいない。
そして彼女の考えた案が、振り幅が大きすぎて驚いてしまった。
「えっと… とりあえず、コスプレをしてあげればいいのかな…?仲良くするのは、俺が頑張るから」
なんだか柚月が可哀想に思えてきた海里は、結局自分から仲良くする方向へ動くことにした。
(綾佳とのコスプレで柚月ちゃんが機嫌を良くしてもらえるといいな…)
そんな事を考えながら、綾佳の方を見て微笑んだ。
「海里くんがそう言うなら、そうするよ… あと、急に微笑んだのはきも… びっくりしたよ」
綾佳はドン引きしたような顔をしていた。
(おい、いまキモいって言おうとしたよな?よな?)
心の中で叫びながら、口を開いた。
「それは、ごめんなさい…」
「えっと、その… 私もなんかごめんね」
綾佳の謝罪は明確にはしていないが、きっと自分に対して言いかけた言葉のことだろう。
だけど、その台詞は自分は聞いていないので、ここはこう言うのが正解だと思う。
「綾佳が謝ることはないと思うけど?だから、話はここで終わりだね」
「……うん。ありがとう」
「それじゃあ、CM撮影の時に俺頑張るから見守ってて」
「もちろん!私も撮影頑張るから見守ってね!」
「もちろん!!あっ、困った時は頼らせてもらうね」
「はぁ… 海里くん、せっかくカッコ良かったのに、いまので全て台無しになったよ」
綾佳はため息をつきながら、呆れられた目を向けられた。
「ですよね…」
海里は苦笑しながら答えた。
自分でも、いまのはかなりダサいと思ったから。
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