第116話 卑怯をして仲良くなるしかない

 柚月の一日マネージャーとして着いてきた海里は、グラビア撮影を見学していた。


「いいよ〜 かわいいよー!柚月ちゃんポーズしちゃおうか」


「はい!」


 柚月は撮影スタッフの指示に従い、様々なポーズをしていた。

 そんな姿を見ていた海里は、「凄いな…」とポツリと呟いた。


「柚月さんの見る目変わりましたか?」


「そうですね… 学校や家では生意気な奴ですが、やはり女優なんだなって思い知らされましたね」


「それじゃあ、綾佳さんが望んでいる『仲良くして欲しい』はすぐに叶いそうですね」


「どうでしょうかね」


 柚月とそう簡単に仲良くできたら、今頃仲良くなっていたであろう。

 だけど、海里と彼女は馬が合わないから今も喧嘩腰に話し掛けられている。


「とりあえず、綾佳さんに途中報告でもしときますね」


「そんな事をしていたのですね」


 海里は苦笑いしながら、北島がメールを打つのを見ていた。

 

「ふふふ… 綾佳さんらしいですね」


「なんて返ってきたのですか?」


「えっとですね、『柚月ちゃんに海里くんと仲良くするように伝えてください。海里くんには真面目にやってね!』だそうです」


「綾佳… 俺は真面目にやっているんだけど、柚月ちゃんが話を聞いてくれないだけなんだよ…」


「何言っているのですか?私はあなたの話を、ちゃーんと聞いてあげようとしているのですが?」


 休憩の為、海里の元に戻ってきた柚月は、二人の会話に割って入ってきた。


「どこがだよ。そして急に話し掛けてくるな。驚くだろ」


「あら、ちゃんと撮影を見ていないあなたが悪いのですよ?」


「見ていたのですが…?」


「はぁ… ほんと、あなたとは話が合わないですね」


 そして、続けて柚月が話そうとした時、北島がため息をつきながら割って入ってきた。


「柚月さん。綾佳さんから伝言があります」


「綾佳先輩からですか!!」


 自分の時と明らかに態度が違うので、海里は呆れ顔をしながら柚月を見ていた。


「はい。綾佳さんが寺本さんと仲良くしないと、これから話をする機会を減らすよとのことです」


 北島は携帯を見ながら、柚月に伝言を伝えた。


(あれ…?綾佳の伝言って、それじゃないよな?)


 海里は首を傾げながら北島の方を見ると、彼女は口元に指を添えて内緒ですよとジェスチャーしてきた。


「そ… そんな… 綾佳先輩と話が出来なくなるなんて… でも、あの人と仲良くするのも嫌だ…」


 柚月は葛藤していた。


「(あとは海里さんの腕で決まりますね)」


「(勝手に決めないでくださいよ… 柚月ちゃんって扱いが難しいし…)」


 小声で話しながら二人で話をしていたら、柚月は何かを決意したような顔をして海里の方を向いた。


「綾佳先輩の下っ端さん。この撮影が終わるまでには答えを出しますので」


 柚月は一言伝えると、鹿島に呼ばれて撮影を再開した。


「し… 下っ端さんって…」


「レパートリーが多いですね(笑)」


「笑いごとではないですよ…」


「とりあえず、頑張りましょう!さぁ、柚月さんの為にお弁当を用意しましょう」


「話を変えないでくださいよ… はぁ、分かりました」


 海里と北島は共に控え室に行き、彼女の為にお弁当などを準備をした。


◇◆◇◆


 お昼を食べ終えた柚月は、衣装チェンジをして撮影を再開していた。

 午前中は水着など肌が露出している撮影だったが、午後は昼食を食べたことによりお腹が出てしまうと考え服を着ての撮影になっていた。


「寺本さんお疲れ様です!撮影も順調に進んでいるので、残り数時間で終わりそうです」


「分かりました。数時間後には柚月ちゃんから答えが聞けるのか…」


「私の直感ですが、柚月さんは仲良くしますと言うでしょう。綾佳さんとの時間を取る為に」


「でしょうね。俺もなんとなくですが、そんな気がしています」


 柚月は綾佳のことが大好きだ。

 そんな彼女だからこそ、綾佳との時間が減るのは嫌だと思うので、苦渋な決断で仲良くするを選ぶはずだ。


「やはり寺本さんもそう思ってましたか。とりあえず、残りの撮影を見守りましょう」


「そうですね」


 二人は柚月がいる方に目を向けて、彼女の撮影の風景を眺めていた。


 ややあって。


 全ての撮影を終えた柚月は着替えをしていた。

 更衣室の目の前には海里がいた。


「何であんたが更衣室の目の前いるのよ」


「別に覗く為にいる訳ではないからな。北島さんからここでボディーガードでもしといてと言われたんだよ」


「あの人がそんな事を言う訳ないでしょ!もしかして、私の着替えの音を聞く為に… 変態ですか?!」


「だからさ、何で話がややこしくなるんだよ」


「やはり私とあなたでは馬が合いませんね。なので、仲良くすることはで———」


「———綾佳が仲良くしなかったら、撮影後は週一しか会わないよだとよ」


 綾佳はそんな事は一言も言っていないが、柚月の為を思って嘘を言った。


 着替えを終えた柚月が出てきた。


「………ちっ。わかりました。CM撮影の時までは、仲良くしましょう。その後はまた考えさせていただきます」


「そんな事でいいのかよ。綾佳はずっと仲良くしてほしいって言っているのに、途中までって… 綾佳にバレたら面倒くさいことになるぞ」


「まぁ、バレなければいいだけなので」


 柚月は馬鹿にしたような顔をしながら、海里に向けて言ってきた。


(俺が綾佳に伝えるって思わないのかな?)


 仕方がないかと思いながら口を開いた。


「分かった。一旦、それで話を通そうか。CM撮影の時までは仲良くしましょう」


「ふふふ… あんたの割には話が通じるじゃない」


 腕を組みながら満足したような顔をしてきた。


(ふふふ… 今に見てろよ。俺は綾佳に伝えるからな。卑怯をしてでも、柚月ちゃんと仲良くなってやるからな)


 海里は悪い顔をして柚月を眺めた。


 一方、壁に隠れて全ての会話を聞いていた北島は、不敵な笑みを浮かべながら携帯を手に持っていた。

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