第115話 珍しい組み合わせ

 CM撮影まであと一週間と迫った、ある日の土曜日。


 海里は柚月の二人は車に乗っていた。

 運転しているのは、綾佳のマネージャーである北島だ。


「私は綾佳先輩について来てほしかったのに、よりにもよってこの人だなんて」


「すみません。綾佳さんが来てしまうと、撮影が進まない気がして… もうすぐで一緒に撮影できるので我慢してください」


「はぁ… 分かりました。我慢しますよ。仕方がないので!!」


「柚月ちゃん、今日一日だけよろしくね」


「…ふん」


 海里の挨拶にそっぽを向いた柚月。

 どうして自分は好かれないのかと思いながら、苦笑いすることしかできなかった。


 そもそも、何で二人が一緒にいるのかと言うと、話は昨日に戻る。


 夜、突然家にある固定電話に連絡が掛かってきた。滅多に電話が来ないので、誰だろうと思い受話器を取ると北島からだった。


『夜分にすみません。北島です。実は一ノ瀬柚月さんのマネージャーが突然体調崩したらしく、代わりの人を呼びたいらしいんですよ』


『はぁ… それって、事務所が違うから俺たちには関係ないですよね?』


『そうなんですが、柚月さんが綾佳さんを要求してきて…』


『あー、なんとなく想像つきました。綾佳を一日マネージャーにしてほしいって我儘を言ったら、臨時のマネージャーを受ける人がいなくなったと』


『ごもっともです。それで、特例で受けることにしたのですが、綾佳さんは行かせられないので、寺本さんお願いします』


『…………えっ?』


 海里が驚いていると、横から綾佳がちょんちょんしてきた。

 どうやら内容が気になったらしい。


 海里は彼女に聞いたことを全て伝えた。


『お願いって言っても、社長命令なので決定ですね!』


『北島さん!綾佳です!その話、乗りました!海里くんには何がなんでも行ってもらいます!』


『ちょっと… 俺、まだいいって…』


 海里が了承する前に、綾佳が全て快諾して、受話器を元に戻した。


『いい、これはチャンスなんだよ!』


『どうゆうこと?』


『柚月ちゃんは未だに海里くんの事を好きじゃない。このマネージャーの仕事で好感度を上げれば、今度の仕事もやり易くなるかもよ』


『う〜ん… どうだろうな』


『なるなる!』


 という感じに、綾佳に無理矢理送り出された。


 改めて、柚月の方を見るもそっぽを向いたまま、窓の外を眺めていた。


(綾佳… 好感度を上げるのは難しそうだ…)


 泣きそうになりながら、バックミラーを見ると、北島が口を動かしていた。


【がんばってください】


 そんな風に言っているように見えた。


◇◆◇◆


 車に乗って一時間弱。

 海里と柚月が着いたのは、都内にあるスタジオだ。


 車内で北島から話を聞いたところによると、とある雑誌のグラビア写真を撮るとのことだった。


 車から降りた三人は、スタジオの中へと入って行った。


「皆さん、おはようございます。今日はよろしくお願いします」


 スタジオの中に入ると、柚月は室内に響く大きさで挨拶をした。


 それに気づいたスタッフは、それぞれ挨拶をしていると、一人の男性が近づいて来た。


「やぁ、柚月ちゃん。今日はよろしくね!」


「はい!よろしくお願いします」


 男性は柚月に挨拶をすると、横にいた海里に目を向けた。

 

「おや…? 君は確か、綾佳ちゃんの所のマネージャーの確か…」


「寺本海里です。鹿島さんお久しぶりです」


「そうそう、海里くんね。んで、何でここにいるのかな?」


 鹿島がそう思うのも無理もない。

 海里は瀬倉綾佳のマネージャー(バイト)である。

 なのに、一ノ瀬柚月の側にいるのは不自然。


「それはこちらからお話させていただきます」


 海里が困っているのに気づいたのか、北島が横から話してきた。


 北島から話を聞いた鹿島は、「なるほどね〜」と頷きながら海里の方を向いた。


「話は分かったよ。それじゃあ、今日一日よろしくね」


「は、はい!こちらこそ、よろしくお願いします」


 海里は深いお辞儀をした。

 

「ちょっと、なんであんたが鹿島さんのことを知っているのよ」


 鹿島がいなくなったのを見計らうと、柚月が話しかけてきた。

 どうやら、自分と鹿島が知り合いなのが気に入らないようだ。


「以前、綾佳の仕事で会ったんだよ。だから、知っていてもおかしくはないだろ?」


「なるほど… 綾佳先輩のおかげで人脈が広がっていると… 」


 すると、柚月は はっ…! として海里の方を勢いよく向いてきた。


「もしかして、私の仕事についてきたのは、人脈を広げるためですか…」


「それはない!絶対にそんなことはない!」


「じゃあ、私の体目当てですか…」


 柚月は両手で反対の腕を掴み、嫌そうな顔をしながら竦めていた。


「何でそうなるんだよ!? あのな… アイドルにそんな事する訳ないやろ。仮にも、バイトだけどマネージャーだ。見習いなんだよ。こっちだって生活が掛かっているんだから、下手な事はしない」


「なーんだ。つまんないの。あなたはもう少し、冗談とか覚えた方がいいですよ」


「どーゆう事だ?!」


「もう説明することはありません。今日は私のマネージャーなんですから、ちゃんとしてくださいよ。海里先輩」


 柚月は手をひらひらさせながら、メイクルームへと向かった。


「……えっ?今、名前を呼んだよね…?」


 名前を呼ばれて、海里はその場で立ち尽くした。


 だが、一部始終を見ていた北島に、「柚月さん、少しだけ気を許せたみたいですね」と言われて、苦笑するしかなかった。

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