第111話 女子会 (前編) ①

 土曜日。

 綾佳は佐倉レイナの家に来ていた。

 メンバーは家主のレイナ、綾佳、麗音の三名。


 集まった理由は、綾佳の悩みについてだった。


「それで、悩みって言うのはなんだ?」


 紅茶を飲みながら、麗音が尋ねてきた。


「実は、ラッキースケベを起こしたいんだけど、その… タイミングが合わなくて何も起きないの…」


 あの日の夜も海里が先にお風呂に入ってしまったので、綾佳は何も出来ずに終わっていた。


「なるほどな… 確かにあいつはヘタレそうだから、何も起こそうとしないわな。やるとしたら、気を抜いたタイミングを狙うしか?」


「そうだよね。気を抜いたタイミングとしたら、先に学校から帰ってきて、玄関の前で着替えをするとか?」


「それは、ちょっとアレだけど、瀬倉がやりたいって言うなら私は止めないぞ」


「ありがとう!他にも案があったら、どんどん言ってね!メモするから」


「メモするのかよ。まぁ、考えとくよ」


 苦笑いしながら、麗音は う〜んっと考え出した。


 そんな二人を見ていたレイナが、「ちょっと、待ったー!!」と手を挙げながら言ってきた。


「なに?」「どうしたんだ?」


 彼女の方を向いて、二人は首を傾げた。


「あの〜 海里さんはマネージャーなんですよね?」


「そうだよ」


「それで、同じ学校なんですよね?」


「そうだね」


「てことは、綾佳さんは彼のことが好きなんですか?」


「………」


 最後の質問をされた瞬間、綾佳は下を俯き黙ってしまった。

 

 質問に答える気はあるのだが、突然恥ずかしくなってしまい顔が真っ赤になりそうになったからだ。


 それを真横で見ていた麗音は、ニヤっとしながら口を開いた。


「レイナ、それは禁句だぞ。綾佳が恥ずかしくなって、話さなくなるだろ」


「それはごめんなさい。だけど、トップアイドルの綾佳さんが恋ですか… いいものですね〜」


「だな。だが、情報漏洩には気を付けろよ。綾佳は更に人気が上がっている。ここで週刊誌に撮られたら終わる」


「そうですわね。ちなみに、このことを知っているのは私と麗音さんの他に誰がいのるですか?」


 レイナがそう思うのも無理もない。

 

 先程の麗音が言った通り、情報漏洩には気を付けなければいけない。

 他にも知っている者がいるなら、その人にも強く言わないといけないと考えていた。


「綾佳、私、レイナと… あとは誰かいるのか?」


 麗音は未だに下を向いている綾佳に尋ねた。


「………多分、社長とマネージャーと柚月ちゃんは知ってるんじゃないかな… って言うより、社長とマネージャーは応援しているね」


「だそうだ。つまり、私たちが黙っていれば問題はないってことだな」


「分かりました。私はお口にチャクをして、この秘密を守りますわ」


「それで、レイナはいい案はあるのか?」


 レイナは秘密を守るって聞けたので、麗音は話の本題へと戻った。


「私は… お風呂上がり… そう、バスタオル一枚でリビングに行き、ちょっとした気の緩みでバスタオルがパサっと落ちる… って、私何を言ってるのでしょうね」


「いや、いい案だと思うぞ。それをやられたら、男子はガン見だな。ヘタレでも、少しは見つめるだろ」


「そうですかね?」


「そうに決まっている。実際に見てみろよ。綾佳は真剣にメモをしているぜ」


 綾佳の方を向くと、メモ帳にレイナが言っていた台詞を書いていた。


 よく見ると、二人の案の他にもいくつか書いてあった。


「本気なのですね」


「あの花見の時なんかバレバレだったと思うけど」


「えっ… 私、全然気付きませんでしたわ」


 レイナは口を押さえて驚いていた。


「嘘でしょ… 私って、そんなに顔に出ているの?」


「それはもう。私にはバレバレだな」


「……… 以後、気をつけます」


 綾佳は頬を赤く染めながらつぶやいた。



「それで、私たちの話は参考になったか?」


「もちろん!だけど、まだまだ案は募集しているから、どんどん出していってね!」


「どんだけ求めるんだよ(笑)」


「私の知っている綾佳さんではないですわ…?!」


「ここからの私はもう止まらないよ!次の仕事が終わったら、すぐに行動に移して行くんだから!」


 綾佳はガッツポーズをしながら、決意をした目をしていた。


「はいはい。分かったから、不祥事だけは起こすなよ。私の永遠のライバルなんだから」


「もちろん!それに海里くんはマネージャーだから、一緒に歩いていても問題なし!」


「確かに… それは考えたな」


「それは良くても、家まで見られたら終わりですわよ?」


「「………確かに」」


 レイナの言葉に二人は頷いた。


「はぁ… 私、貴方たちは頭がいいのだと思っていたのですが、馬鹿でしたのね」


「麗音ちゃん、レイナちゃんが私たちのことを馬鹿って言ったよ!!」


「あぁ、私も聞いたぞ。あのレイナから馬鹿という言葉が出るとは… 私も驚きだ」


「あの… そんなに驚きますか?」


 二人の驚き方が以上だったので、レイナは思わず聞いてしまう。


 ファンの前ではないが、他のアイドル仲間の前では自分はよく言ってた気がすると思っていたからである。


「うん… 私の清楚なレイナちゃんが…」


「新たな一面が見れて、私は嬉しいぞ」


 綾佳はウルウルした目をしながらレイナを見つめて、麗音はニヤニヤしながら彼女を見つめた。


「もう、なんですか!!私、そんないい子じゃないですよ!!」


 投げやりな言い方をしながら、ぷいっとした。


 二人は「ごめんね」と言い、レイナのご機嫌を取った。


「はぁ… とりあえず、お昼なので何か食べましょうか。何か食べたい物ありますか?注文しますので」


「女子会と言ったらピザでしょ!」


「たこ焼きもいいよな〜」


「とりあえず、適当に頼んでおきますわね」


 レイナは二人の案を一旦スルーして、携帯を取り出して操作しだした。


 どうやらデリバリーを頼んでいるように見えるが、その他にメールで誰かに送っているようにも見えた。


「あとは来るのを待つだけですわ」


 携帯を置き、レイナは二人の方に向き直した。


「ねぇ、私たちの案は通ったかな?」


「どうだろう。レイナのことだから、そんな酷いことはしないと思うが」


「だよね」


 二人はコソコソと話していたが、全てレイナの耳には聞こえていた。


「とりあえず、二人とも来るまで大人しくしてください!!」


 レイナは二人にそう言うと、キッチンへと向かった。

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