第110話 綾佳の野望?

 事務所にて仕事の話を終えて、海里と綾佳は帰路に着いていた。


 帰り際に国見から、『夜ご飯を一緒に食べないか』と聞かれたが綾佳は断った。

 珍しいなと思いながら見ていた海里に、気づいた綾佳は理由を教えてくれた。


『こーゆうのは、大きな仕事の後に奢って貰うのが一番なの!だから、次の仕事が終わったら思う存分食べるよ!』


 とのことだった。


 ………そして、今に至る。


「それにしても、北島さんのビシバシって凄く怖いんだけど…」


「北島さんの新人教育か… 厳しかった記憶しかないな…」


 綾佳は遠くを眺めながらポツリとつぶやいた。


 実際、彼女が新人の時にアイドルの極意や礼儀作法など様々なことを教えてもらっていた。


 その日々は新人の彼女にとって辛く、何度も心が折れそうになっていた。


 それでも諦めずに頑張ったので、今のトップアイドル瀬倉綾佳がいるのだ。


 そんなことを知らない海里は、綾佳の言葉に体を震わせていた。


「えっ… あの温厚そうな北島さん、厳しいの…」


「うん、厳しいね。仕事一筋の人だから、熱が入るとやばい… 今は少し穏やかだけど、あの台詞は久しぶりに熱が入っていたね」


「俺、生きて帰れるかな…」


「大丈夫だよ!心が折れなければ、乗り越えられる!私が応援してあげるから!」


「それは贅沢な応援だな」


 トップアイドルがファンの為ではなく、一個人の海里に応援となれば贅沢以外何もない。


 なんなら、お金を取れるだろう。


 だけど彼女は自分に対して、好意から応援してくれているから有り難く受け取ろうと思った。


「これで、海里くんも元気でるでしょ?」


「あぁ、元気100倍を超えて、200倍だな」


「うんうん、それは元気が有り余るね!」


 綾佳は、「うふふ」と微笑んだ。


 海里は恥ずかしくなり、顔を少し赤くしていた。

 ギャグをした訳ではなかったのだが、結果的にギャグぽくなってしまい、綾佳にかるーく受け流されたからだ。


「とりあえず、頑張ります」


「そうそう、それが一番だね!!」



 夕飯を食べ終えた二人は、リビングのソファーにてゆっくりドラマを見ていた。


 ドラマは神山麗音がヒロイン役をやっている、恋愛ドラマだ。


 麗音はヒロインなのだが性格がクールで、格好がロック…

 もう、『イケメン彼女ですか?』と言いたくなるほどだった。


「麗音ちゃん、ヒロインっていうよりW主人公の一人にしか見えないんだけど」


「だよな。これって、恋愛ドラマだよな?ヒロインが恋するような展開になるのか?」


「きっとなるんだよ!!それがドラマだし、監督さんも何かしら考えがあるんだよ!!」


「そうだよな。最終回直前で告白とかあるよな」


 海里と綾佳は苦笑いをしながら顔を見合わせた。


「でも、恋愛ドラマって憧れるな〜 私って、恋愛ドラマは未だにやったことがないんだよ」


「そうなんだ。なんか意外だな」


 綾佳のドラマ経験はあまりない。

 基本的にはアイドルとして活動していて、その次に舞台、最後にドラマって順だった。


 彼女が唯一ドラマに出たのは、学園モノの一生徒役。それは恋愛ドラマではなく、事件に巻き込まれる話だった。


 だけどイベントで優勝した彼女は、物凄い数のオファーが来ているので、チャンスはすぐに来るのかもしれない。


「まぁ、機会が有ればやりたいな!」


「きっと来るよ!CMの仕事だって来たんだし」


「だね!ワクワクしながら待ってみる!!」


 海里の方を向き、満面の笑みを浮かべた。


「さてと、ドラマも終わりそうだしお風呂の準備でもしてくるよ」


「あー、確かにもう時間二十二時前だもんね。早く入らないと、ご近所に迷惑になっちゃうね」


「そうそう。だから、沸かしてくるよ」


「ほーい!」


 海里は追いだきをしに、お風呂場へ向かった。


「お風呂か〜 海里くんがここに来てから数ヶ月経つのに、未だにラッキーを起こしてくれないな〜」


 綾佳には少し野望があった。

 

 それは彼女がお風呂に入っている時に、海里が入ってきて『きゃー、海里くんのえっち』って言うことだった。


 普通はそんなことを思うことはないのだが、携帯で恋愛マンガを読んだ時に憧れてしまったのだ。


「う〜ん… どうするか… 私から行くしか…」


 そんなことを思うも、すぐに首を大きく振った。

 自分がそんなことをしたら、海里はどう思うだろうと思ったからである。


 と、ここで海里が戻ってきた。


「追いだきをしてきたよ。まだ時間掛かりそうだけどね… って、顔が真っ赤だけど、どうしたの?」


 戻ってきたら綾佳の顔が真っ赤になっていた。

 それを不思議に思い、海里は訪ねた。


「な、なんでもないよ。うん、なんでもない」


 綾佳は大きく手を横に振った。


「そ、そうか。とりあえず、飲み物でも飲む?」


「そうだね。私、紅茶でお願い!」


「分かった。ちょっと、待ってて」


 海里は立ち上がり、キッチンへ向かった。


 綾佳は彼の背中を見ながら、「はぁ…」と溜息をついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る