第108話 アームの力はもっと強くなって欲しい
カフェで昼食を終えた三人は店の外に出て、このあとの予定を話し合っていた。
「それで、このあとはどうする?」
「そうだね… 目の前のゲームセンターでも行く?」
「俺はどこでもいいぞ」
綾佳が目の前にあるゲームセンターを指差した。
二人も指された方を向いた。
「いいね!久しぶりにUFOキャッチャーでもやろうかな」
「颯斗くんは得意な方なの?」
「中間かな〜 取れる時は取れるんだけど、ダメな時は全く取れないんだよ」
「そーいえば、以前も颯斗が欲しかったフィギュア取れてなかったもんな」
「そうなんだよ〜」
以前、二人でゲームセンターに行き、颯斗の欲しいフィギュアが置いてあった。
颯斗は挑戦すると言って、海里に鞄を預けてお金を投入した。
アームは箱をきっちり捕まえて持ち上げたが…
上がった瞬間にボトッと落ちた。
それから千五百円を超えた段階でも取れなかったので、海里が止めて諦めていた。
「私、UFOキャッチャー苦手なんだよね」
「それなら、俺が何か取ってあげようか?」
「嬉しいけど、私は海里くんに取って欲しいな〜」
「何故、俺?!」
「だって、颯斗くんに取ってもらったら楓ちゃんに申し訳ないじゃん。でも、海里くんなら問題はないでしょ?」
「それはそうだけど…」
海里はチラリと横を見た。
颯斗は首を振りながら、「確かに、楓に取るのも悪くはないな」と呟いていた。
「分かった。頑張るけど、取らなくても文句言うなよ」
「言わないよ。軍資金はある?」
「ちょっ、颯斗がいる前でそれは言わない方が…」
「大丈夫だよ。颯斗くんはもう楓ちゃんの為に物色している所だから」
「物色って… ゲーセンで気にいる物はあるのかよ」
「さぁ?」
お互いに顔を見合わせ苦笑いをした。
「軍資金はバイト代から出すよ。流石にここまでお金を貰うのは… 俺のプライドがね」
「分かった。じゃあ、千五百円で取れなかったら終わりにする事いい?」
「分かった。俺もそれ以降やったら沼ることを見たことあるから」
綾佳からの忠告を真摯に受け止めた。
そして、海里は「それで」と言葉を続けた。
「綾佳は何が欲しいんだ?」
「う〜んとね… 」
綾佳は一言言うと、辺りを見渡した。
一つ一つケースの中身を見ながら動き回り、その後ろを海里が着いて行った。
そして一つの台の目の前で立ち止まり、「これ!」と言って海里に伝えた。
「よし、頑張ってみるよ」
「ファイト!」
綾佳の応援でやる気が上がりお金を投入した。
頼まれた物はペンギンのぬいぐるみだ。
アームの本数は三本で、見た感じとても緩そうだった。
慎重にぬいぐるみの真上まで持っていき、下降ボタンを押した。
アームはぬいぐるみをガシッと掴み持ち上げ、ゆらゆらと揺らされながら取り出し口へと向か———
———ボトッと落ちた。
「な… なんでそこで落ちるんだよ!!!」
「惜しかったね〜! さぁ、次!!」
綾佳は励ますと、お金を投入した。
何故綾佳がお金を入れたのかと言うと、海里は軍資金を全て綾佳に預けたからである。
こうすれば、投入する時間を省けると考えていた。
「よし、今度こそ…」
二回目も同じようにガシッと掴み上に持ち上げようとしたら、持ち上げる寸前にスルッと抜けた。
「嘘だろ…」
「あらら。今度は綺麗に抜けたね」
綾佳は頬を掻きながら言うと、三回目のお金を投入した。
「これ、どうすれば取れるんだ?」
「普通に取るしかないと思うよ。あとは運だよ!」
「運か… 俺、運ない方なんだよな」
「大丈夫!私と共にいるから運気上司してるはず!」
「そうかな?」
半信半疑のまま、ケース内に視線を戻し、ボタンを押してアームを動かした。
三回目となれば少しはコツを掴む。
だが、取り方は前回と同じなのであまり変わらない気もする。
その結果、同じように上に持ち上がった瞬間にボトッと落ちた。
「海里くん、違う所に行こうか。このままやっても取れないと思うから、別のを探すよ」
「ごめん… 俺の力不足で…」
「そんな事はないよ。海里くんがいるからかなり助かってるし!」
励ましの言葉を言って、綾佳は再度辺りを見渡した。
そして、次に見つけたのは手のひらサイズのぬいぐるみだった。
これは、ここ最近人気がある、とあるアニメのぬいぐるみだった。
「これでお願いします!!」
「これなら取れるはずだ…」
気合を入れて、アームを動かした。
今回の手のひらサイズのぬいぐるみは、アームに掴まれると全体的に覆われて安定感があった。
この安定感があれば大丈夫だろうと思った海里は、期待を込めて取り出し口を見守っていたが
———ドン ゴロン
あと一歩の所でアームから離れて元に戻った。
「だーかーら、なんで抜けるんだよ!!!」
「ふっ、ふふふ… 綺麗に抜けたね(笑)」
「笑わないでくれよ。やる気がなくなるよ」
「海里くんから頑張れるよ!ほら、次!」
取れるまで終わらないのではと思いながら、ボタンに手を置いた。
あれから十回の挑戦が終わった。
全て同じような抜け方をして、海里のイライラが溜まってきていた。
「海里くん、まだあと二回あるけど、次で終わりにしようか。流石にお金が勿体ない気がして…」
「うん… 綾佳の言う通りだと思う。次で最後にするよ」
ラスト一回、そう心に決めて台に向き合った。
ボタンを押しながらアームを動かし、ぬいぐるみの真下まで来ると、今度は下方向に動くボタンを押した。
アームは綺麗にぬいぐるみを掴み取り、ブレることなく順調に取り出し口へと向かって行った。
そして毎回落ちる場所を通過して、ついにぬいぐるみを手に入れることが出来た。
「あ、綾佳!!取れたぞ!!!」
「うん!見てたよ、よかったね!」
「ラスト一回と決めてよかった… 違かったら取れてなかったと思う」
「ほんとだね!それでも、取れたんだから喜ぼう!!」
「だな!」
海里はしゃがんで取り出し口からぬいぐるみを取り出した。
そして綾佳に渡した。
「はい。ご注文のぬいぐるみです。お待たせしました」
「ありがとうございます!大事にしますね!」
綾佳は嬉しそうにぬいぐるみを受け取った。
「海里〜 瀬倉さん〜 二人ともいいの取れた?」
二人だけの空間を作っていると、颯斗が声を掛けてきた。
そして、颯斗の右手には何かの箱らしき物を持っていた。
「取れたが、その箱は?」
「よくぞ聞いてくれました!これは楓にプレゼントしようと取った、アニメキャラのフィギュアだ!」
「楓ちゃんって、アニメ好きなの?」
「もちろん!フィギュアはあまり買わないらしいが、俺からのプレゼントなら喜んでくれるだろ」
「そ、そうだね… あはは…」
「まぁ… そうだな」
颯斗らしさ全開の台詞に、二人は苦笑いをした。
「ということで、俺は早速私に行くことにしたから、これにて解散させてもらいます」
「分かった。気をつけてな〜!」
「バイバイ、颯斗くん」
颯斗は手を振りながら、楓の元へと向かった。
「さて、俺たちはどうしますか?」
「最後にプリクラ撮らない?」
「プリクラか… 撮ったことないからな…」
「それじゃあ、決まりだね!」
綾佳は嬉しそうに言うと、海里の手を掴んでプリクラがある場所まで連れて行った。
プリクラは数台置かれていて、その内の一つに入った二人。
海里は全くの初心者なので、全て綾佳に任せていた。
「これをこうして、こうやって、こうだね」
綾佳は独り言を呟きながら、黙々と設定をしていった。
そして、全ての設定が終わると海里にポーズをするように言ってきた。
「海里くん、ここのカメラだからね」
「分かったから」
二人がポーズをすると、同時にカメラのシャッター音が鳴り、次のポーズを指定してきた。
それから三回のポーズ指定を受けながら、二人は難なくこなして行き、全ての撮影を終えた。
その後、タッチ画面で綾佳が撮った写真に落書きをして現像を待った。
「はい、これが海里くんの分。大切に保管してね!」
「これは大切に保管しないとだな」
そう、この写真を落としたら、アイドルとしての不祥事になってしまう。
だって、一枚の写真にハートマークの悪戯をした落書きがあるからだ…
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