第107話 秘密にするのは難しい
「実力テスト終わったー!!」
四月恒例の実力テストが終わり、颯斗が海里の元へ喜びながらやって来た。
海里はというと、今回のテストは成績には関係ないので適当に終わらせた。
「元気って事はテストは自信あるんだな」
「自信はない!だって、毎年の事だから気にしてないのだ!」
「ないのかよ。まぁ、俺も適当にやったから人のことは言えないけどな」
海里は苦笑いしながら頬を掻いた。
「二人とも成績に関係ないとはいえ、ちゃんとやらないとダメだよ!」
二人の会話を聞いていた綾佳が、"めっ!"としながらやってきた。
「そーゆう綾佳はどうだったの?」
「瀬倉さんの実力、俺気になるな」
「手応え的にはそこそこ取れていると思う。だけど、結果が来るまでは分からないね」
「そうだな。だけど、今の段階でその自信は流石綾佳だな」
「瀬倉さん… 凄い…!!」
海里と颯斗は彼女の言葉に感心しながら答えた。
「それで、このあとどうする?」
綾佳は海里の方を向いて訪ねた。
今日は実力テストだけで、午後は授業がない。その為、部活に入っていない人はお弁当を持ってきてないので、寄り道したりそのまま帰宅する人が多い。
「久しぶりにどこか寄って帰るのもいいし、家でお昼食べるかだな」
「海里の新しい家か〜 少し気になるな…」
この言葉を聞いて、海里は"はっ"とした。
颯斗には自分が綾佳の家に住んでいることを伝えてない。ましてや、アイドルの家に居候していると分かったら颯斗は何をしでかすか分からない。
そのため、ずっと秘密にしていたのだが、気を抜きすぎていて思わず口に出してしまった。
恐る恐る綾佳の方を見ると、「あーあ」という顔をしていた。
「いや、俺の家は今はダメだ。なので、駅前のカフェにしよう」
「え〜 俺、海里の家に遊びに行きたいよ。瀬倉さんだっ行きたいよね?」
「えっと… その、海里くんが嫌だって言ってるから、今回は辞めといてあげようか」
困惑しながら、その場の最善の言葉を選びながら綾佳は言った。
「瀬倉さんにそう言われたら俺、何も言えないな… 仕方がない、瀬倉さんに免じて今回は見逃してやろう!」
「上から目線すぎるだろ。それじゃあ、カフェ屋でいいよな?」
「いいぜ!」
「うん!私もカフェ屋で賛成!!」
何とか行き先を変更できたことに、海里はホッとしていた。
もし、このまま家に来られていたら一体どうなっていたんだろうと頭の中で
「あっ、後日家に伺わせてもらうからね!」
一瞬にして安心感がなくなった。
(これって、何かしら対策しないとだな…)
そう思いながら、綾佳の方を見た。
綾佳はただ苦笑いをしているだけだった。
「後日は無理だから、タイミングが出来たらな」
「分かってるって〜!」
分かってないなと思いながら、三人は駅前のカフェ屋に向かった。
◇◆◇◆
カフェ屋に着いた三人は席を確保してから注文しに注文口へと向かった。
店員さんと目が合うと、よく通っていることもあり笑顔で挨拶をされ、後ろには既に頼もうとしていた飲み物が用意されていた。
(まぁ、毎回同じ物を頼めばそうなるか)
苦笑いをしながら、いつも通りの注文をした。
「「「いただきます」」」
注文も終え、三人の料理が揃うって声を合わせて挨拶をした。周りの人に迷惑にならないよう小さめの声で。
食べ始めると、いきなり颯斗が口を開いた。
「日曜日にさ、楓と花見を行ってきたんだけど、人混みが多くて疲れたよ」
「そうなんだ!私も土曜日だけど、皆んなと花見をしに行ったよ!」
「マジ?!うわ〜 タイミングが合ってたら会えたかもしれないってことじゃん」
「いやいや、場所が違ったら会えないぞ?」
海里は首を傾けて聞いた。
「俺たちは上野の桜見に行ったよ」
「凄い!!私たちも上野の桜を見に行ったんだよ」
「一日ずれてれば会えてたじゃんー!!!」
颯斗は下を俯いて落ち込んだ。
そんな颯斗を目の前にして、海里は驚いていた。
(危なかった… こんな所でバレる可能性があったのかよ)
そう思いながら、携帯のメモ欄を開き、文字を打って綾佳に見せた。
メモをいきなり見せられた綾佳は首を傾げた。
『俺が綾佳たちに着いて行ったことは秘密な』
その文を読み、綾佳は親指と人差し指で丸を作った。
「それで、瀬倉さんは誰と行ったの?さっきから"たち"って言ってるけど」
「えっとね、麗音ちゃんとレイナちゃんと柚月ちゃんとか… じゃなくて、その三人で行ったんだよ。ほら、写真もこの通り」
証拠写真として、花見の時に撮った写真を颯斗に見せた。
「ほんとだ。それにしても、この写真を撮るのによく瀬倉さんたちってバレなかったね?」
「意外とバレないもんだよ〜!レイナちゃんなんかこの格好していてもバレなかったし」
綾香の言葉を聞きながら、海里は頷いていた。
話には参加できないが、あの時のことを思い出していたら必然的に首が動いていたのだ。
「そうなんだ。それならさ、今度出掛けない?」
突然の提案に、海里と綾佳は驚いた。
そして二人とも、「颯斗、彼女がいながらナンパとは…」と思っていた。
「違うよ。ナンパではなくて、楓が遊びたいなって言ってたの。もちろんダメなら伝えるけど、どうかな?海里もセットでいいから」
「おい、おまけみたいな言い方やめろ」
「うふふ… 海里くん、一緒に行く?」
顔を近づけられた海里は顔を赤くしながら、コクント頷いた。
「海里くんも行くらしいので、私も参加します!」
「それじゃあ、時間と場所は海里にメールするから。もし、仕事の予定が入ったら教えて。俺や楓はその辺は承知の上で誘っているからさ」
「ありがとう!でも、海里くんにメールしても私のメアド知らないから伝わらないよ。だから、学校で決めようね!」
「そうでした!なんで俺、海里に伝えてって言ったんだろう…」
「偶々だろ」
ここでも詮索を避ける為に一言で終わらせた。
その時に綾佳は横でホットドッグを美味しそうに頬張っていた。
(秘密にするのは難しいな)
そんなことを思いながら、海里はパンを口へ運んだ。
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