第105話 動物園 (後編)
レッサーパンダのいる展示場所は、先程いた場所から橋を渡った反対側にある。
ここまで行くのに、レイナは地図を上下左右に回しながら見ていた。
それを見ていた麗音が「貸しなさい」と言い、先頭に立ち他の四人を引っ張って行った。
「ほら海里。お待ちかねのレッサーパンダだぞ」
麗音は海里の顔を見ながらニヤニヤしてきた。
「確かにレッサーパンダは見たいと言ったけど、そこまで待ってないから」
「そう言わずに、ほら、レイナ達みたく前に行って楽しんでこいよ」
この言葉にレイナと柚月は「なっ?!」と驚き、そして顔を赤く染めていた。
「俺は別に前に行かなくてもいいし…」
「ふ〜ん。とても見たそうにしているのに?」
「後ろから見るのが好きなんだよ」
「それじゃあ、私と一緒に前で見に行こうよ!」
二人の会話を交互に見ながら聞いていた綾佳が、海里の袖を引っ張って言ってきた。
「そうだな。海里、瀬倉と共に見てくるといい。そこの二人は私が見てるから」
「まるで麗音さんが保護者みたいですね。分かりました、綾佳行こうか」
「うん!」
海里と綾佳はレッサーパンダを見に前の方へ向かって行った。
◇◆◇◆
「ここのレッサーパンダって後ろ足で立つんだっけ?」
手すりに手を置きながら見ていると、綾佳が質問してきた。
綾佳は以前テレビの特集で、レッサーパンダが立つシーンを見ていてそれを思い出していた。
「俺達がいる動物園ではないかな。でもタイヤで遊んでいる姿も可愛いから、俺はこれでも満足だな〜」
「海里くんがそう言うなら私も満足だな」
「その… 俺に合わせなくてもいいんだぞ?」
「違うよ。私は本当に満足しているの。ここまで来るのにいろんな動物見れたし、麗音ちゃん、レイナちゃん、柚月ちゃんともお出掛け出来たから」
その言葉を聞いて海里は「そうだな」と言って微笑んだ。
それから数分で展示場所から離れて、皆んなの元へ戻った。
「どうだった?楽しめたか?」
戻ってきて早々、麗音に感想を求められた。
「楽しめたよ。ありがとな」
「なーに、私は特に何もしてないさ」
「そうですか。麗音さんは変わってるね」
「それは違うよ海里くん。麗音ちゃんは意外と気配りが出来るんだよ!」
海里と麗音の気まずい雰囲気になりつつ所に、綾佳が横から話をしてきた。
「———っ?!瀬倉、それは違うだろ!!」
「えー、でも麗音ちゃんってクールでいるけど、気配り上手でもあると思うよ」
「そうですわね。麗音さんは自覚なさそうですが」
「レイナまで何を言っているのだ?!」
ずっと柚月と静かに見ていたレイナが割って入ると、麗音は顔を赤く染めた。
「事実を言ってはまでですが?ですよね、綾佳さん?」
「そうですね、レイナちゃん」
綾佳とレイナはお互いに顔を見合わせて話し合った。それと同時に麗音は、「やめてくれー!!」と叫んでいた。
一方、海里と柚月は犬猿の仲にも関わらず、この時だけお互いに顔を見合わせて「やれやれ」とした感じに苦笑いをしていた。
◇◆◇◆
それから一行はお土産があるお店へ移動した。
レイナ、柚月、海里のそれぞれは見たい動物を見れて満足していたが、綾佳と麗音は結局何を見たいのか言わなかった。
それで海里が二人に聞いてみると
『私は海里くんとレッサーパンダ見れたし、歩きながら他の動物も見れたから満足したよ』
『私は特に見たいのはいなかったが、その…なんだ、皆んなと回れたから満足した』
と綾佳と麗音は答えた。
という訳で、そろそろ帰宅時間も近づいてきたので、お土産を見に行くことになったのだ。
お土産があるお店はギフトショップであり、園内には二箇所ある。
その内、海里達がいる場所から近いのが池の側にあるショップになる。
店内に入り、海里&綾佳&柚月と麗音&レイナの二チームに分かれて買うことになった。
「海里くん、北島さんと社長のお土産は何がいいかな?」
「そうだな… クッキーが無難だと思うが?」
「バイトさん、それは違います。綾佳先輩!ぬいぐるみなんてどうでしょう?事務所が華やかになりますよ?」
「バイトさんではないって何度言ったら分かるのかな?」
「………。それで、綾佳先輩どうでしょうか?」
柚月は海里の方を数秒見ると、ぷいっとして綾佳に質問の答えを聞いた。
(こ、こいつ… やっぱり、俺はこいつが嫌いだ)
海里は柚月の邪魔をしてやろうと近場にあったクッキーの箱を手に取り、綾佳に見せた。
「綾佳、北島さんにこのクッキーはどうかな?」
綾佳は苦笑いをしたあと、口を開いた。
「あはは… 二人とも張り合わなくても一人ずつ答えてあげるから。まず柚月ちゃんだけど、ぬいぐるみは事務所には合わないかな。だけど、柚月が欲しいぬいぐるみを一つプレゼントするから選んできな?」
「あ…綾佳先輩!!ありがとうございます!!」
柚月は小走りしながら他のぬいぐるみを探しに行った。途中、店員さんに「走らないでください」と注意されていた。
「そして海里くんだけど、そのクッキーを買おうか。あと社長のお土産も選ばないとね」
「………それだけ?」
柚月の時みたいにダメだしされると思っていた海里は、綾佳の言葉に首を傾げた。
「もしかして、『それじゃダメだよ』と言われると思ったの?」
海里は首を縦に振った。
「柚月ちゃんのは本当に合わないと思ったから断ったの、海里くんのはちゃんと考えてあったからいいねと判断したの。それだけ、分かった?」
「分かった」
「よろしい!それじゃあ、残りもさっさと決めちゃいますか」
「そうだな」
海里と綾佳は一つずつ見て行き、社長のも決まったのでレジでお会計を済ませた。
その時に、柚月のぬいぐるみも一緒にお会計をした。
一方、麗音とレイナはクッキーを数点、ぬいぐるみを一点買っていて、先に外で待っていた。
外に出て、出口なら向かいながら話をしていた。
「今日は楽しかったね〜♪」
「えぇ、綾佳さん、今日は誘っていただきありがとうございます」
「私も楽しかったぞ」
「レイナちゃんも麗音ちゃんも楽しんでくれてよかった!また機会があったら遊びたいね」
「だな。その時は桐崎や水瀬も入れてだな」
「人数多いのは私、嫌ですわ」
レイナは嫌そうにしながら言った。
レイナの話から大人数での行動は好きじゃないのだと分かるのだが、今日も大人数ではと思ったが海里は口には出さなかった。
「まぁまぁ、その時はまた考えよ!」
綾佳は苦笑いしながら、レイナに言った。
「そうだな。おっ、私とレイナはこっちだからここで解散だな」
「そうですわね。皆さん、また会いましょう」
そう言って、麗音とレイナは踵を返して帰っていった。
その背中を見ながら、海里、綾佳、柚月は手を振って見送った。
「柚月ちゃん、今日は楽しめた?」
「はい!とても楽しかったです!」
「よかった!また今度、皆んなでお出掛けしようね」
「こちらこそ、お願いします!」
柚月と綾佳は顔を見合わせて微笑んだ。
その光景を見て、海里は自分の携帯を二人の方に構えて写真を撮った。
写真はとてもいい仕上がりに撮れていた。
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