第104話 動物園 (中編)

「はぁ〜!!パンダ可愛かったですわ!!」

「子パンダのゴロゴロ可愛かったね!」

「はい!パンダ見ている綾佳先輩も素敵でした」

「それは瀬倉への感想じゃないのか?」


 パンダを見る時間は僅か数秒だったが、見終わったあと他の人に迷惑にならない所で女子四人はそれぞれ語り合っていた。


 その一歩後ろで海里は自分が撮った写真を確認していた。


「やっぱり歩きながらだと写真がブレて撮れてしまうな…」


 パンダの写真は一枚ずつ適当に撮っていて、数えたら合計で二十枚撮っていた。

 その内、確認していくと九枚はまともに撮れていた。四枚が親パンダで、五枚が子パンダだ。


(子パンダの写真が多ければ、綾佳も許してくれるよな… たった一枚差だけど…)


 そんな事を思いながら海里は、ダメだった写真をもう一度確認することにした。

 望みは少ないが、奇跡の写真があるかもと思ったからである。


「海里くん、パンダの写真どうだった?」


 確認しようとした時、綾佳がやってきた。

 そして頼んでいた写真について言ってきた。


「えっと、二十枚の写真を撮りました」


「うん」


「それで歩きながら撮ったことにより、かなりブレている写真があって…」


「もしかして、一枚もピントが合っている写真がないとか…?」


 綾佳は恐る恐る聞いてきた。


「いやいや、そんなことはないよ」


「………?」


「二十枚中、九枚でした」


「九枚か〜 それで子パンダの写真はその内何枚?」


 怒られるのではと思いながら、海里は肩を竦めて話した。

 だけど、帰ってきた台詞は予想外にも子パンダ優先の写真についてだった。

 

(子パンダの写真が多ければ大丈夫な的な…?)


 もし親パンダの写真が優先されていたら怒られた可能性があったが、子パンダだったので海里は少し希望が見えて少し元気が出てきた。


「五枚です」


 さっきまで歯切れが悪い言い方をしていた時と違い、ハッキリと海里は答えた。


「………」


「綾佳…さん?」


「もし、子パンダの写真が少なかったら罰ゲームでもしてもらおうかなと考えていたんだけど、命拾いしたね」


「ば、罰ゲームですか…」


 笑顔で呟く綾佳に、海里は苦笑いすることしか出来なかった。

 

「それで、早く写真を見せてくれませんか?」


 すると、レイナが手を伸ばしながら声を掛けてきた。


 レイナの顔を見るに、ずっと割り込むタイミングを見計らっていたのであろう。

 それほどパンダの写真を見るのを楽しみにしていた。


「あっ、はい。今、見せますね」


 海里は綾佳と確認しながらブレた写真を消していき、レイナに手渡した。


「うわ〜!可愛いですわ!綾佳さん、この写真を現像して欲しいです」


 レイナは頬に手を当てながらうっとりと写真を見ていた。

 その様子を見ていた麗音と柚月も左右から顔を覗き込んだ。

 

「確かに可愛く撮れているな」


「先輩にしてはよく撮れてますね。先輩のくせに」


「柚月ちゃん、それは酷くない?!」


「それで、綾佳先輩はどれがお気に入りなんですか?」


「………」


 言い返す気力が出ず、溜息を吐いた。

 そんな二人の様子を近くで見ていた麗音とレイナは、小声で話していた。


「(麗音さん。なんか後輩に負けてますよね?)」


「(そう言うな。海里だって頑張っているんだ。見たところ、一ノ瀬も悪い所があるし)」


「(そうですわね。だけど、見ていて面白いから綾佳さんも止めないのでしょうね)」


「(だろうな)」


 そして再び二人は三人の方を見た。


「私はね、全部かな〜」


「なるほど… 綾佳先輩が全部なら私、お金払ってでも買いたいですね」


「気持ちだけ受け取っておくね!」


「綾佳先輩…!」


 祈りのポーズをしながら綾佳を見つめていた。


「………あの、そろそろ次の場所に行きませんか?」


 海里の言葉に麗音とレイナが「そうだな」と頷いた。



◇◆◇◆



 一行は次の場所へ移動した。

 パンダの展示場所から一番近かかった、カワウソの展示場所へ。


「柚月ちゃんのリクエストのカワウソです!」


 綾佳は柚月に向けて呟いた。


「んっっ!!可愛いよ!!!」


 カワウソの場所に着くと、柚月はパンダ以上の喜びを見せて目の前まで近づいて行った。

 

「一ノ瀬のテンションの上がり方が全然違うんだが」


「私もそれ思いましたわ。パンダの時以上ですよ」


「それを言ったら、レイナちゃんもさっきこんな感じになっていたよ?」


 一歩後ろで見ていた三人がレイナを見ながら呟いた。


「嘘でしょ…」

 

 レイナは信じられない顔をして海里、綾佳、麗音の顔を一人ずつ見た。


「確かにそうだな」


「まぁ、滅多に見ないレイナを見た気がするな」


「嘘でしょ…」


「癒されていたって事でいいじゃん!目撃者は私たちだけなんだしさ!」


「うう…」


 手で顔を隠しながら首を大きく振った。

 だけど、手の隙間から顔が赤く染まっているのが見て分かる。


「皆さん、どうしたのですか?レイナ先輩に至っては謎に首を振っていますし…」


 カワウソエネルギーを満タンにした柚月が、四人のいる元へ戻ってきた。


「気にするな。それがレイナの為になる」


「そ、そうですか。麗音先輩がそう言うなら、私はもう気にしません」


「そうしてあげてくれ」


 麗音はレイナを見ながら言った。


「もう、カワウソは満足したのですか!」


 二人の会話が耳に入ったのか、レイナは少し怒り目に聞いてきた。

 

「はい!それはもう、完璧です!」


「それなら、次のレッサーパンダに行きますわよ。海里さんも早く見たいですよね?」


「そ、そうですね」


 突然、話を振られて海里は戸惑いながら返事をした。


「では、行きますわよ!」


 レイナはパンフレットを見た後、行き先を指差しながら歩き出した。

 綾佳、海里、麗音、柚月はそれぞれ顔を見合わせた後、頷いてレイナの後ろに着いて行った。

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