第103話 動物園 (前編)
花見を終えた五人は、そのまま近くの動物園へと移動した。
目の前にはチケット売り場があり、その内の一つの列に並んだ。
「皆んなは、何の動物を見るのが楽しみ?」
先頭にいた綾佳は後ろを振り向き質問してきた。
「私は何でもいいかな」
「私はパンダが見たいですわ!赤ちゃんパンダがちょうど見れるはずですし!」
「私はカワウソですね」
「俺はレッサーパンダかな」
麗音、レイナ、柚月、海里のそれぞれの答えを聞いた綾佳は微笑みながら一人頷いていた。
「そーゆう綾佳は何を見たいんだ?」
「そうだね〜 見たい所が多すぎて決められないや」
「綾佳らしいな」
その様子を見ていた他の二人は「やれやれ」という感じに二人の事を見ていた。
だが、柚月だけは睨んでいた。
「次の方どうぞ〜」
すると、順番が回って来たようで係の人から声を掛けられた。
綾佳が代表してチケットを五枚買い、それぞれ渡して入場した。
「皆さん!早速ですがパンダに行きましょう!すぐそこですし、列も並んでるので!!」
中に入って最初に口を開いたのはレイナだった。
レイナは入場口で貰ったパンフレットを見たあと、指を指して誘導しようとした。
「落ち着けよ。急いで行ったら転ぶぞ」
「それじゃあ、レイナちゃんがうずうずしているし、パンダに向かおうか」
綾佳の言葉に全員が頷き、一行はパンダの列へと並んだ。
「あぁ… パンダ見るの楽しみですわ〜!」
「レイナちゃんって撮影とかでパンダ見に来た事ないの?」
「ありませんわ。私、室内での撮影とか多かったですし、基本遊びに行く事も少なかったので」
「そうなのか?!よく、今日集まったな」
話を聞いて、麗音は驚きながら言った。
「それは綾佳さんからの誘いですし、偶にはいいかなーっと思いまして」
「レイナちゃん可愛い〜!!」
もじもじしながら話すレイナに、綾佳は突然抱きついて来た。
その様子を見て、麗音は綾佳の服の襟を掴み無理矢理レイナから離した。
柚月はその様子を見て羨ましそうに見ていた。
周りの視線が痛い。
(やはり女子四人の中で男一人はなかなか辛いな…)
海里はそんな事を思いながら列に並んでいた。
列に並んでから十分が経ち、パンダがいる場所まであと少しとなった。
「あっ!皆んな、パンダもうすぐで見えるよ!」
「ほんとですわ!」
「やっとか。まだ来たばかりだが、私は色々と疲れたぞ」
「お疲れ様です。麗音先輩」
「ありがとな。一ノ瀬」
綾佳、レイナはもうすぐで見れるパンダにワクワクしていた。
麗音はそんな二人の暴走を止めるのに体力を使い、すでに疲れた顔をしていた。
その様子を見ていた柚月は、麗音に労いの言葉を送っていた。
「さっきから無言だが海里、楽しんでいるか?」
「……えっ?!」
ここまでずっと空気として並んでいた海里だったが、突然話し掛けられて驚いてしまった。
「何でそんなに驚くんだよ」
「いや、突然話し掛けられたら誰だってびっくりしますよ。パンダの列に並んでから俺、ずっと空気でいましたし」
「空気って… 海里だって楽しむ権利はあるだろ?」
「まぁ、折角来たので楽しみますけど」
「ダメだよ海里くん!!楽しまないと!!」
数秒前までレイナとパンダについて話いた綾佳が、いきなり海里の元に来た。
「綾佳、それなりには楽しむぞ?」
「う〜ん… それなら私が海里くんに命令します!」
「命令って… ほんといきなりだな」
海里は苦笑いしながら、綾佳の続きの言葉を待った。
「で、その命令って言うのはなんだ?」
「何だか面白そうだな」という顔をして麗音が聞いた。
「海里くんには撮影係を任命します。もちろん、撮影出来る場所だけどね!」
「……それなら。でも、楽しむになるのか?」
「なりますわよ!!写真一枚一枚が思い出として残ります。そして、これを撮ったのが私なんだよな〜って思い出せるのです。ほら、楽しい思い出になってるでしょ?」
海里が首を傾げながら聞くと、今度はレイナが呟いた。そして彼女は海里の疑問に答えた。
「な、なるほど」
「レイナちゃんの力説、心に響いたのかな〜?」
「———なっ?!綾佳、急に何言ってるんだよ」
「う〜ん… ヤキモチになるのかな?」
綾佳の一言に、麗音とレイナはニヤニヤした。
海里は突然の台詞に、顔が赤くなった。
その時に柚月が別の事に集中していたのが、唯一の救いだろう。
「ヤキモチって… 俺と綾佳は…」
「ダメだよ。今は、動物園に遊びに来た仲の良い友達同士なんだから」
綾佳は海里の口元に指を添えて微笑んできた。
「おいおい、見せてくれるじゃねーか。私もそんな青春したいぜ」
「あら、麗音さん意見が合いますね」
「もう何言ってるの〜!恥ずかしいからやめてよ」
綾佳が海里の腕を叩きながら呟いた。
「ちょっと、海里が痛そうな顔をしているからその辺で」
「ですわね。それに、パンダが見えてきましたわ」
「ほんとだ!!」
二人の声に綾佳は叩くのをやめて、パンダの方を見た。それと同時に柚月もパンダに気づき、嬉しそうにしながら携帯を構えていた。
「私も写真を撮る準備をしますわ」
「私は別に写真は撮らなくていいや」
「ほら、海里くん。私の持ってきたカメラでパンダの写真よろしくね!」
「分かった。上手く撮れるかは分からないけど、任務を遂行したいと思います」
海里はカメラを受け取り、ゆっくり列を進みながら構えた。
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