第100話 母親に報告

「ただいま!ママ、聞いた?私、ついに綾佳先輩とCM撮影で共演できるって!!」


 夜七時。綾香の家から帰宅した柚月は、部屋に入るなり大きな声で古都に報告した。


 古都は台所で晩御飯の準備をしながら、柚月の帰りを待っていた。

 そして柚月が部屋に入った時、少しだけ体をビクッとしてから彼女の方に顔を向けて話し掛けた。


「おかえり。話を聞く前に、貴方は女優なのだからもう少し静かに入りなさい」


「ごめんなさい。嬉しすぎて気持ちが先走って…」


「分かったから。ほら、夜ご飯もう少しで完成するから、先に着替えをしてきなさい。話はその時にちゃんと聞くから」


「分かりました」


 柚月は返事をして、自室へと向かった。


 部屋に着いた柚月はずっとニヤけていた。

 目線の先には机に立て掛けてある携帯の画面があり、先程綾佳と撮った写真が写っていた。


 それを見ながら柚月は制服から私服へと着替えた。


「もう最高すぎる… 憧れの綾佳先輩とツーショット… 夢みたい」


 ベッドに飛び込んで抱き枕を抱えてゴロゴロしていた。

 柚月は古都の言葉を忘れるほど、写真に夢中になっていた。


 コン コン コン


 ベッドに転がって数十分、ドアをノックする音がした。


「柚月、着替えたのなら早くリビングに来なさい。いつまで部屋に篭ってるの?」


 古都が痺れを切らして呼びに来た。


「ごめんなさい。今すぐに行きます」


 柚月はベッドから飛び降りて、急いでドアを開いた。ドアの外には笑顔の古都。だが、目に輝きはなく怒っているように見えた。


 部屋から出た柚月は古都と共に無言でリビングへと戻った。その道中はドキドキしていた。



 リビングに着き、対面で座った二人。

 机の上には古都が作った料理が数品あった。


 食事の挨拶をした後、古都が口を開いた。


「それでは話を聞きましょうか」


 古都は帰ってきた時に話していた事を、もう一度柚月から聞き直すことにした。

 

 それを聞いて柚月は、笑みを溢して頷き口を開いた。


「私、ついに綾佳先輩とCM撮影で共演する事になりました!」


「そう。柚月ちゃんはずっと綾佳ちゃんと共演したいって話してたもんね」


「うん!それで綾佳先輩もその場にいて握手した後、抱き合って〜」  


「その場に綾佳ちゃんがいた…?柚月、貴方は今日友達の家に行くと言っていたけど、綾佳ちゃんの家に行ったの?」


 問い詰められた柚月は「やばっ」という顔をしながら口に手を当てた。

 

 古都は彼女から"友達"とだけ聞いていたので、急に出てきた綾佳という言葉に反応していた。


「その… 何というか… はい。綾佳先輩のお家にお邪魔させていただきました…」


「はぁ…」


 その言葉を聞き、古都は溜息を吐いた。

 数日前に「困らせないように」や「愛想尽かされても知らないよ」と伝えたばかりなのに、柚月はそれらを忘れたように行動していたからだ。


「何も迷惑はかけていません…よ?」


「疑問系で返されたら余計に心配になるのだけど。ほんとに迷惑はかけてないのね?」


「もちろん!綾佳先輩には・・迷惑かけてません」


「そう、それならいいのだけど。今度、綾佳ちゃんにはお茶菓子でも持っていかないとだね」


 古都は綾佳のマネージャーに海里がいる事が知らない。例え、柚月が気になるような言い方をしたとしても、彼女は気にしないのだ。


「そうだね!」


 柚月は満面の笑みをして頷いた。


「それじゃあ、話はこれで終わりね。ほら、冷めてしまうからご飯に集中しましょう」


 話をしながら食事をしていたが、集中しすぎておかずが減らなかったので古都は話を終わらせた。

 そのおかげで十分後には食事を終わらせる事ができた。

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