第99話 共演者

「ただいま。フラペチーノの二つ買ってきたよ」

「お邪魔します」


 海里は部屋の中にいる二人に声を掛けて、北島は挨拶をして入ってきた。


「お疲れ様!海里くん、何を買ってきてくれたのかな?」


「新作のいちごフラペチーノを買ってきたよ。何を買えばいいのか聞くのを忘れたから、困ったら新作にしようってことで」


「確かに私種類は言わなかったね。ごめんね。新作は飲みたかったから嬉しいよ。ね、柚月ちゃん」


 綾佳は後ろを振り向き柚月に聞いた。

 柚月は一言も発さず、一つ頷いただけだった。


「ね!だから、海里くんお買い物お疲れ様!」


 海里の肩を叩いて労ってきた。

 すると、横にいた北島が口を開いた。


「あの… 私の事を無視しないでくれませんか?」


「無視はしてないよ。ただ、フラペチーノが先に目に入ってしまったから」


「という事は、フラペチーノに私は負けたのですね…」


 袋の中にあるフラペチーノに目線を送りながら、北島は溜息を吐いた。

 そして、綾佳の方に目線を移して「それでは」と言葉を続けた。


「中に入らせていただきますね。話したい事があるので」


「どうぞ、お客さんがいますけど」


「一ノ瀬さんでしょ?寺本さんから聞きましたし、綾佳さんが先程話していたのも見てましたので」  


「そ、そうでしたね。あはは…」


 綾佳は頬を掻きながら苦笑いしていた。



 部屋の中に入ると、海里と綾佳は隣同士に座り、北島と柚月は少し間を空けて座っていた。

 そして綾佳は新作のフラペチーノを一口飲んで、「美味しい!」や「果肉が入っている!」と楽しんだあと、「それで」と北島の方に顔を向けて話を続けた。


「北島さんの話したい事とは何ですか?」


「実はCM撮影の共演者が決まりました」


「共演者?」


 綾佳は首を傾げて聞き返した。

 CM撮影は一人でやるものとずっと考えていた綾佳。そこに北島から共演者という言葉が出たので敏感に反応したのだ。


「はい。今回は二人でやる飲料水のCMなのですが、ずっと製作側が共演者選びに迷っていたらしいのですよ。それが先程、急に連絡が来て名前を伝えてきました」


「その共演者は誰になるのですか?」

「確かに気になるな」


 海里はここまでずっと口を閉じていたが、綾佳の言葉に合いの手を入れた。


 二人の質問に対して、北島は柚月の方を見た。


「こちらにいる一ノ瀬柚月さんです」  


「………嘘でしょ?!」


「マジ!?これって凄くない!!」


「こんな偶然があるのかよ」


 柚月は信じられないような顔をしながら口に手を当て、綾佳は両手を振りながら喜び、海里は苦笑いしながら頬を掻き、三者三様の驚き方をしていた。


「ほんとですよ。多分ですけど、柚月さんの方にもすぐに連絡が来るはずです」


 北島の言う通り、柚月の携帯にメールが届いた。


「ほんとだ!?北島さん、いつから未来予知使えるようになったの!!」


「綾佳、それは未来予知ではなくて、タイミングさえ考えれば誰でも出来るぞ」


「えぇ、寺本さんの言う通り、タイミングですよ綾佳さん」


 三人が話をしている間に、柚月は携帯を開きメールを見た。

 メールの内容は見た柚月は、急に立ち上がり大きな声で「やったー!!」と叫んだ。


「どうしたんだ?」


 突然の発狂に海里はドン引きしながら、柚月に聞いた。


「何ですか?別に嬉しかったから叫んだだけですけど?何か悪いですか?」


「何も悪くないですよ」


 海里は柚月の態度にイライラしながら、すぐに話を終わらせた。

 それに見ていた綾佳は溜息を吐き、柚月の方を見て口を開いた。


「柚月ちゃん、仕事ではちゃんとね」


 満面の笑みで柚月に声を掛けた。

 だけど、その笑みには圧力があるように感じた。


「はい。分かって、います…」


「うん、よろしい!で、何を喜んでいたのかな?」


「CMです!綾佳先輩のマネージャーさんの言う通り、私共演者でした」


「おぉ!!それじゃあ、一緒に頑張っていいCMを作ろうね!」


 綾佳は柚月に右手を出した。

 柚月はそれに対して左手を出し握手をした。


「では、諸々の内容は後々来るらしいので、私はこれで失礼しますね」


 そう言って、北島は立ち上がり玄関に向かった。


「ほんとにそれだけ話に来たのですね」


 お見送りで海里だけ玄関まで着いてきた。

 綾佳と柚月の二人は、後ろで握手したあと抱き合っていたので無視した。


「えぇ、私これでも忙しいので。寺本さんにも早く事務仕事をしてもらいたいですね」


「それは無理ですね。学生なので」


 両手を腰に当てながら胸を張り、海里は自信満々に言った。

 その様子を見ながら北島は、「そうでしたね」と笑みを溢しながら呟いた。


「では、またメールしますので、ちゃんと返信くださいよ」


「分かってますよ」


 海里は手を振って北島を見送った。


 見送った後、後ろを振り向くと綾佳と柚月はフラペチーノを持ちながら写真撮っていた。


「北島さん帰ったよ。今度メールするからちゃんと返信してください、だとよ」


 海里はリビングに戻り、綾佳に北島から言われた言葉を伝えた。

 それを聞き綾佳は海里の方に振り向き、口を開いた。


「北島さん心配しすぎだよ〜 私、いつメールを既読スルーしたかな?」


「していたと思うけどな〜?」


「まぁ、次来たらちゃんと返信すればいいだけの話だね!」


「そうゆう事にしとくよ」


 海里は今すぐに話を終わらせたかった。

 自分から話し掛けたが、横にいる柚月からの視線が物凄く怖かったからだ。


 その視線は、まるで獲物を狙うような目だった。


 話を終えた綾佳は、また柚月との話を続けた。

 そのおかげで、海里は視線から解放されたので二人の少し離れた所に座り、座る前に準備した飲み物を一口飲んで虚空を眺めていた。

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