第97話 彼女も変態なのか?

 海里が扉から出て行くのを見送ると、柚月は綾佳の隣に近寄って座った。


「あの… 柚月ちゃん。なんで隣に座ったのかな?」


「それはもちろん。綾佳先輩の全てを感じる為です」


「それは…」


 「変態だよね?」と言葉を続けて言いそうになったが、柚月の為に首を振って言葉を飲み込んだ。

 その様子に首を傾けている柚月に、綾佳は「それより」と言葉を続けた。


「私、柚月ちゃんも海里くんと仲良くしてほしいな。一応、私のマネージャーだし頼りになるから、今後の為にね」


「綾佳先輩の言いたいことは分かります。だけど、マネージャーの人と仲良くする必要はありませんよね?」


「そう言われるとそうなんだけど… 」


 柚月の言葉通り、他の女優やアイドル達も他人のマネージャーと仲良くする人はあまりいない。

 なので、正論を言われてしまい、綾佳はどうしようと顎に手を当てて考えていた。


 柚月は綾佳の言葉を待ちながら、海里が机に置いた紅茶を一口啜った。


「そうだ、海里くんは二年生!つまり柚月ちゃんの先輩になるよ。うん。仲良くなる必要があるね」


 一人納得しながら、柚月に説明した。


「熱心に説明していただきありがたかったのですが、先輩後輩の関係でも仲良くはする人いないと思います」


「そうなんだ…」


「あの、何故そこまで私とあの人を仲良くさせたいのですか?今後の為と言ったのも違いますよね?」


「そんなことはないよ。私は海里くんにもっと友達が増えて欲しいなって思っているんだ。まぁ、恋愛感情を持つのはダメだけどね!」


 人差し指を立てて、真剣な眼差しをしながら柚月に説明した。後者の方は忠告にも聞こえるが。 


 その言葉を聞き、柚月の眉が少し動いた。

 どうやら先程の綾佳の話に気になる部分があるようだ。


「綾佳先輩って、もしかしてあの人の事が好きなんですか?」


 突然の台詞に、綾佳は目を大きく見開いた。


「なっ、何言ってるの?!そんな事はないじゃん。マネージャーとアイドルだよ。ないない」


 綾佳は手を横に振りながら苦笑いしていた。


「綾佳先輩、顔赤いですよ?」


「そ、そんな事はないよ」


 綾佳はカップを手に取り、一気に紅茶を飲んだ。


「はぁ… 分かりました。仕事の時にもし会う事があれば話をする程度はしましょう。だけど、学校などプライベートでは敵意を出しますからね」


「あはは… そこがお互いの妥協点になりそうだね。うん、分かった。それでいいよ!」


「では、この話はここまででいいですよね?」


「そうだね。あまり長く話しても、柚月ちゃんがどんどん海里くんの事を嫌いになりそうだし」


 やっとの思いで妥協まで漕ぎ着けたのに、話を続けた無しにされたら困る。

 そう思い、綾佳も納得した。


 そして柚月も頷いたあと、「それで」と呟いた。


「先程は途中で遮られてしまいましたが、コスプレどれもほんと素敵でした。あの人のアイデアっていうのは一旦忘れて」


「柚月ちゃんの中で一番とかある?」


「そうですね… やはり、チャイナ服でしょうか?」


「やっぱり人気あるんだね〜 未だにSNSでも人気なんだよねそれ」


「当たり前ですよ!!チャイナ服のスリット部分が腰まで開いていて綾佳先輩の太腿が———」


 柚月は言いながら、目線を綾佳の太腿に移していた。それに気づいた綾佳は恐怖を感じたので距離を取った。それに、ここまでずっと隣にいたので、別に離れても問題ないだろうという魂胆だ。


「ちょっと、離れないでくださいよ!!私、綾佳先輩の隣にまだいたいです」


「ごめんね。きょ… ではなく、一旦離れて話そうかなって思いって」


 その台詞を聞き、柚月は頬を膨らませていた。


「それじゃあ、帰る時ハグしてあげるから、ね!」


「約束ですよ」


「もちろん!ちゃんと約束するよ」


「もう一つ、約束して欲しい事があります」


「なに?」


 ここで断るのも悪いと思い、綾佳は聞き返してしまった。


「今日は無理だと思いますが、今度私とコスプレして欲しいです。あと、ツーショットなど」


 綾佳は驚いた。

 彼女の約束事はもっと厳しいものなど考えていたが、聞いてみれば優しいお願いだった。


 それに綾佳はこの間の前哨戦でコスプレするのにハマっていたが時間が無く出来ていなかったので、このお願いは嬉しかった。


「それくらいお願いではなく、誘ってくれれば一緒にやるのに〜!!」


「ほんとですか!?」


「もちろん!私、柚月ちゃんがコスプレしてる姿見るの楽しみだな」


「私も綾佳先輩のコスプレを生で見れるのが楽しみです!!」


 二人は笑みを溢しながら、いつの日か遊びに行く時の事を話しながら海里が帰ってくるのを待った。


 それから三十分後。

 海里は片手にコーヒーショップの袋を持って帰ってきた。

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