第96話 生意気な奴(柚月)が家に来た
「ここが… 綾佳先輩ならマイホームなのですね!」
綾佳の提案で家にやってきた柚月。
彼女は入ってすぐに部屋の中を隅々まで見て興奮していた。
「柚月ちゃん、あまりジロジロ見るのはやめてほしいかな〜 少し汚れているし…」
「全然汚れていませんよ!寧ろ、掃除してないのにここまで綺麗なのに驚きです!!」
「ありがとね」
綾佳は笑みを溢しながら、柚月に伝えた。
それと同時に海里がキッチンから、紅茶をカップに入れて三つ持ってきた。
「えっと… 一ノ瀬さんも紅茶どうぞ」
トレイに乗せた三つのカップの内、お客様用のカップを柚月の前に置いた。
「ありがとうございます」
素っ気ない態度を取りながらも、持ってきてくれ事に一応お礼を伝えた柚月。
その後に、「だけど」と言葉を続けた。
「私はストレートより、レモンティーの方が好きなんですよ」
「すみませんね。この家には現在レモンティーと言うものが無くて」
「買ってくればいいのでは?」
「誰が我儘な人の為に買ってくると思いますかね?」
交互に言い合いをしていると、綾佳が突然「うふふ」と笑みを溢した。
「どうした?」
「あれだけ嫌悪していたのに、いざ話し出すと止まらないから兄妹喧嘩に見えてね」
「全然見えないよ!!」
「全然見えません!!」
同時に反論したので、綾佳は再度微笑み「ほらね」と呟いた。
紅茶を一口飲んで、綾佳はずっと気になっていたことを柚月に聞いた。
「それで柚月ちゃんはどうやって私があの高校にいると知ったの?私が転入した事を知っているのは、海里くんと事務所の人、麗音ちゃんだけのはずだけど」
「実は私、占いで見つけたのですよ」
「「えっ?」」
突然の意味不明な発言に、綾佳と海里は同時問い返した。
「ていうのは嘘で、学校近くで綾佳先輩を見かけた情報を仕入れたので、一度この目で確かめに行ったからです」
「要するに、綾佳のストーカーをしていたから学校も分かったようなものか」
「そうそう、ストーカーを… って、違う!!」
「何も違くないだろ」
「まあまあ。柚月ちゃんは一生懸命勉強して高校に入った訳だし、ストーカーって言うのは可哀想だよ」
二人の言い合いを見ながら楽しんでいた綾佳だったが、そろそろ話を進めたくなったのか横から割って入り話をまとめてきた。
「そうなんです!私、一生懸命頑張ったのです!褒めてください!!」
柚月は綾佳の側に近づくと、急に抱きついて頭を撫でてほしいと目線を送っていた。
綾佳は「仕方がないな」と言って、柚月の頭をなでなでして褒めていた。
一部始終を見ていた海里は紅茶を一口飲みながら、明日の授業について考えていた。
海里は目の前の光景を見ては行けないように思っていたからである。
「ありがとうございます!それで綾佳先輩に伝えたいことがありまして…」
「伝えたいこと?」
満足した柚月は元いた席へ戻り、ずっと伝えたかった事を切り出した。
「前哨戦の時のコスプレがとても可愛かったです!!今までの綾佳先輩とは何か違う気がしました」
「ほんと!?実は、あのコスプレの提案をしてくれたの海里くんなんだ。海里くんの提案のおかげで、私は前哨戦も勝てたし最終的に総合優勝もできたんだ」
綾佳の言葉を聞いた柚月は、首をゆっくりと海里の方に向けてきた。
彼女はドン引きした顔をしていた。
「なんだよ、俺が提案したらダメなのかよ?俺だって、綾佳のマネージャーだし別に変ではないだろ?」
「そうですね。バイトの貴方が提案してもおかしくはありませんね。バイトの貴方が」
「バイト、バイトって、協調しなくてもいいだろ。もしかしたら本採用される可能性だってあるんだし」
「ありませんよ〜!こんな変態がトップアイドルのマネージャーになるなんて」
柚月は笑いながら手を横に振って否定してきた。
「ずっと我慢していたけど俺、君の先輩だからね?一ノ瀬さんは一年生、俺は二年生。分かる?」
「馬鹿にしないでください。私だって勉強頑張ったおかげで、入試の成績よかったんですからね」
「あっ、そうなんだ。俺、入試の成績は見ない人だからそれで張り合ってもね〜」
海里は両手をひらひらさせながら笑みを溢した。
「やっぱり、貴方には———」
「はい、そこまで。その話はここで終わりね!」
柚月の話を遮り、綾佳が呟いた。
このままでは海里と柚月が仲良くなれないと思った綾佳は一旦話を終わらせて主導権を握ることにしたのだった。
その思惑は上手くいき、話を遮られた柚月と海里は綾佳の方を向いて言葉を待っていた。
「私、二人が仲良くして欲しくて家に柚月ちゃんを呼んだの。それなのに言い合いばかりで私つまらなくなりました。なので、海里くんにはコーヒー屋さんにてフラペチーノを二つ買ってきてください。種類は何でもいいので」
そう言って、綾佳は近くにあった鞄から財布を取り出すと、自分と柚月のお代を机の上に出した。
柚月は自分の分は出しますと言ったが、綾佳はそれを拒否した。
「俺の分は…」
「海里くんは今回はお預けです。問題ないよね?」
顔は笑っているが、目が笑っていなかった。
「問題ないです…ね」
一言呟き、海里は二人の為にフラペチーノのを買いに行った。
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