第94話 謎の友情が深まった気がする

「ドキドキしてきた… 俺、新しいクラスでやっていけるかな」


 教室の前に着くといきなり颯斗が呟いた。


「大丈夫だろ。俺や綾佳がいるし、一年の時のグループで固まれば何とかなる」


「そうそう!昼も一緒に食べようね!」


「ありがとな… 二人とも」


 颯斗は何とか宥めたので、改めて教室のドアに手を掛けた。

 扉を開けると既にグループが出来ており離していたが、綾佳が中に入ると視線は全て彼女の元に集まってきた。


 そして数人の女子がやってきた。


「綾佳ちゃんだ!また同じクラス嬉しい!!」

「んね!綾佳ちゃん、今年もよろしくね」


「綾佳さん、初めまして——」

「私も自己紹介してもいいかな?」


 それぞれ挨拶をして綾佳と楽しく話をした。

 離し終えた綾佳は、海里の方を向いて呟いた。


「それじゃあ、私たちも自分の席を確認して座ろうか」


「そうだな」


 海里、綾佳、颯斗は黒板に貼ってあるプリントを見に机の間を通って向かった。


「えーっと、俺は一番後ろだけど扉の側か…」


「でも私が隣だからプラマイゼロでしょ?」


 綾佳に言われて、海里はプリントを確認した。


「ほんとだ。綾佳のおかげでプラスよりのゼロになったわ」


「私も海里くんが隣にいるから、分からない問題があったらすぐ聞けるから安心した!」


「まぁ、分かる範囲でな」


「ありがとね!」


 綾佳の笑顔に、海里は少し恥ずかしくなって顔を逸らして頭を掻いていた。


 すると横から肩を叩きながら涙声で掛けてきた。


「海里、瀬倉さん… 俺… 二人とも離れてるし、辛いよ…」


 颯斗の席は海里と綾佳の席から少し離れていて、さらに周りの人が彼の知らない人だったので尚更辛いのであろう。


「頑張れ!休み時間になればすぐ俺たちの元へ来い!」


「それさっきも同じ事を言ってたよね(笑)」


「そうだったな。颯斗に言うことになると、大体同じ事ばかり言うな。俺」


「つまり颯斗くんに言うことが思いつかないってことだよね?」


「そうなるの… かな?」


「ならないだろ!!俺と海里は親友だろ?忘れてはないだろ?親友は助けてくれるものだろ?」


 海里が肯定しそうだったので、颯斗が横入りして否定してきた。

 

「確かに親友なんだけど、俺のこと助けてくれたか?颯斗は何もしていないような…?」


「うん、してないな。だって、海里の事を助けるにしても俺の力ではどうにもできなかったし」


「だろ?だから、思い付かないのは仕方がないのだよ」


「それは…」


 颯斗は海里の言葉を聞き、目線を下にずらして言い淀んだ。

 

 これ以上話すと段々ややこしくなりそうなので、海里は話を終わらせることにした。


「まぁ、颯斗が困った事があったらちゃんと助けるからそこは安心しろ。そしたら、颯斗の事色々と思い付くかもな」  


「ほんとだな?」


 颯斗の言葉に海里は頷いた。


「分かった。俺も今度は何かしら手伝うから、ちゃんと相談したかったらしろよ」


「分かったよ」


 海里が頷いたのを確認すると、颯斗は座席へと戻っていった。

 そんな二人を見ていた綾佳は微笑を浮かべて、海里に話し掛けた。


「二年生になって、いきなり友情が深まったね!」


「謎の友情だけどな(笑)」


「そーゆうのも偶にはいいじゃん!ほら、私たちも席に座ろっか」


「だな」


 席へと向かったタイミングで、教室に担任が入ってきた。

 二人は急いで着席をして、先生の話を聞き始めた。

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