第20話 お菓子作り

 昼休みに颯斗からサンドウィッチを死守し、そのあとの五、六時間目の授業を終えて家に戻ってきた。


「ただいま〜久しぶりの学校は疲れるよ」


「おかえり!お弁当のサンドウィッチどうだった?」


「美味しかったよ。いつの間に鞄に忍ばせていたんだよ」


 朝出る時まで側にいたはずだから鞄に入れる余裕もなかったのに、気づいたら入っていたのが不思議だったので綾佳に尋ねてみた。


「海里くんが一瞬目を離した隙に、私が急いで鞄にしまったのです!」


「それは気づかなかったな。とりあえず、ありがとう」


「いえいえ!リクエストしてくれれば、お弁当に詰めてあげるよ!」


「分かった。今度、リクエストするよ」


「待ってるよ!」


 そして海里は荷物を部屋へ置きに行き、またリビングへと戻ってきた。


「そう言えば、今日って何かお仕事あるの?」


 学校から帰ってきて、すでに時刻は五時を回っていた。海里は学校が終わった後にマネージャーの仕事をやる事になっていたので、綾佳に予定を聞いた。


「今日はお休みなんだけど、明後日にお菓子を作る撮影があって、それの練習をしようかなと思っているの」


「お菓子作りはやったことないけど、楽しそうだなっていつも思っていたな〜」


「なら、海里くんも一緒に作る?」


「綾佳さえ良ければ、お願いします」


「よし、じゃあ一緒にキッチンへゴー!」


 一緒にお菓子作りをするのが楽しみなのか、笑顔で海里の背中を押してキッチンへ向かった。


「では、本日作るお菓子を発表します!」


 そう言うと、綾佳は自分の口で効果音を出した後、続けて呟いた。


「じゃじゃん、クッキーです!」


「また、作るのに時間が掛かりそうなのを選んだな」


「チョコよりかはいいでしょ?」


「どっちもどっちだと思うけど」


 呆れながら言う海里に、綾佳は「まあまあ」と言いながら説明を読んでいた。


「1、バターをボウルに入れて、クリーム状になるまでゴムベラで練り、砂糖を加えてすり混ぜます。牛乳を混ぜ合わせ、クッキー専用の粉を加えて、さっくりと混ぜますだって」


 綾佳は説明を読み終えると「さぁ、海里くんやるのだ」と言いたそうな目をして海里を見た。


 その目を見て、海里は一言抗議をした。


「綾佳の練習だから俺が最初からやるのはダメだろ?」


「じゃあ、海里くんはボウルを押さえてて」


「分かった」


 綾佳は説明に書いてある通りに進めて、ボウルをかき混ぜる作業を始めた。

 その際にボウルが激しく動かないように、海里が両手で押さえている。


「ここで牛乳と粉を投入」


「綾佳もう少しゆっくり入れないと溢れるよ」


「私は上手なので大丈夫なのです!」


「実際、少しだけ跳ねてるけどね」


 そんな会話をしながらさっくりとなるまで丁寧にかき混ぜて生地を作っていった。

 そして一の説明の場所が出来たので、次の行程の説明へと進めた。


「①の生地を手でこねるようにしてまとめて、ラップ材に挟んでめん棒で約三〜五mmの厚さに均一に伸ばす。冷蔵庫に入れて型抜きができる硬さまで三十分以上冷やすこと」


「それじゃあ綾佳はまとめる作業を、俺はめん棒とラップを用意するよ。えっと、その二つはどこにある?」


「めん棒はこの引き出しの中で、ラップは後ろにあるよ」


 綾佳にそう言われて後ろを振り向くと、ラップは見える所にあった。

 海里は自分の目は節穴かなと一瞬思ってしまった。

 そのあとに引き出しを開けてめん棒を取り出した。


「まとめ終わったから海里くんはラップを伸ばして」


「分かった」


 綾佳がさっきまで混ぜていた所に、ラップを引きその上に生地を乗せてさらにラップをかける。

 そして、その上からめん棒で薄く引き伸ばしていき、説明通りに均一に整えた。


「よし出来た!このまま冷蔵庫に入れるよ」


「ほい、冷蔵庫開けたよ!」


「ありがとう!」


 綾佳は慎重に生地を持ち、あらかじめ開けていたであろうスペースに置いた。

 そしてまた説明を読み進めた。


「オーブンを170℃に予熱して、抜いた生地を用意した天板に間隔をあけて並べること。170℃のオーブンで約十五〜十八分で焼き色がつくまで焼くこと。そのあと、網にのせて冷ます」


「いよいよ最後の工程まで来たな」


「クッキー作りは大変だけど、何回かやってると楽しくなるんだよね」


「やったことあったのか?」


 綾佳の言い方だと、既に練習しなくても大丈夫そうな感じだったので海里は思わず聞き返してしまった。


「クッキーは何回か作ってるけど、撮影の前は必ず一回練習してから挑むようにしてるんだ」


「努力の賜物の結果が、今に繋がっているんだな」


 綾佳の説明を聞いて、今の彼女があるのは積み重ねた努力の結果だと、海里は首を縦に振りながら納得していた。

 その言葉を聞いて綾佳は少し顔を赤くして、小さく「ありがとう」と呟いた。



 四十分が経って、冷蔵庫から生地を取り出した。

 生地は型抜きが出来やすい硬さになっており、次の工程に進めることにした。


「海里くん、花とウサギどっちの型がいい?」


 両手に型抜きを持ち、海里に聞いてきた。


「じゃあ、花で」


「そこはウサギって言わないと〜はい、どうぞ」


「なんでだよ?!」


 花の型を受け取りながら、海里は言い返した。


「だって、ウサギぽいもん!!」


「どこがだよ…ほら、型抜き始めよ」


「もっと言い返してもよかったのに」


 構ってくれない海里に拗ねるも、すぐに生地と向き合い型抜きを始める。


 型抜きは二人でやるとかなり早く進み、僅か五分で全ての生地を切り終えた。

 そのまま抜き取った生地をオーブンに入れて、クッキーになる瞬間を小さい窓から眺めていた。

 

 そして遂に———


「クッキーの完成!!!」


「やっと出来たな。時間も七時になってるし、夕飯食べながら食べることになりそうだな」


「夕飯は後回し!いまは、このクッキーを食べよ!」


「まぁ、焼き立てが一番美味しいよな」


 海里は自分に言い聞かせて、綾佳と一緒にクッキーを一枚取り口へ運んだ。


「う〜ん!!サクサクしてて、美味しく出来てる!」


「おぉ!美味しいな」


 クッキーは大成功して、海里と綾佳はとても大満足していた。

 そして綾佳は数枚クッキーを取り、北島と国見にもお裾分けすることにした。


 海里はあげる人が思いつかなかったので、分けずに残りを綾佳と分け合いながら完食した。

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