第19話 美味しかった

 昼休みになり、海里は担任の先生と話をする為に職員室に来ていた。

 話す内容は、あの日の続きである。


「一週間ぶりだが、元気そうで良かったよ」


「色々と心配かけてすみませんでした。その、今現在何ですけど…」


「それは少しだが、話は聞いている。なんでも、寺本の事を支援してくれる人がいたらしいな」


「はい、その人の元で今は居候みたいな感じで暮らしています。他の人には内緒にしといてくださいよ」


 話を聞く限りだと先生は綾佳の事を知らないようだったが、居候の話は恥ずかしいので内緒にしてもらうことにした。

 仮に居候の事がバレたら「誰の家に住んでるの?」や「どうして?」など面倒くさいことになると海里は思った。


「安心しろ、この件は外部に漏らすなと校長からの指示がある。って言っても、校長以外は居候の事以外は何が秘密なのか知らないんだがな」


「そんな事になってたんですね。自分も気をつけてまた学校生活を送りたいと思ってます」


「休んでた分の課題も頑張ろうな」


「はい」


 一番聞きたくない言葉が出てきたので、海里は顔を引き攣らせながら返事をする。

 そして話は終わり、海里は挨拶をして職員室を出た。


(それにしても、国見社長って凄いな)


 海里は先程の先生の『校長以外は』という言葉を思い出していた。

 そして、この話をしていたであろう社長の事を想像していた。


(もしかして、社長と校長って知り合いなのか?)


 色んな事が思いつくが、正解がわからない。

 だけど、いずれ分かる気がしたので教室に戻り、残り少ない時間でお昼を食べることにした。



「海里、先生の話なんだった?」


 教室に戻り、颯斗が側に寄ってきた。

 どうやら職員室に呼ばれた理由が気になったらしい。

 

「うん?あー、課題があるからこれから頑張れよって言われたよ」


 真面目に答えられない海里は、話しても支障がない課題の話を持ち出した。

 これなら一週間休んでたことを合わせると、違和感もなく話し通せるからだ。


「課題か〜ずっと休んでたし、仕方がないよな」


「辛いけど、頑張りますわ」


「ノートが必要だったら貸すからさ!」


「助かるよ」


 話しながら海里は鞄の中から、お弁当を取り出した。

 このお弁当は学校に着き、教科書を取ろうと鞄を開けたら中に入っていたのだ。

 きっと、綾佳が入れたのだろうと海里は思った。


「なんだよ、海里お弁当持ってきてたのか」


「うん…まぁ、お弁当をね」


「俺、あと少しで食べ終わるけどちょっと待ってて、持ってくるわ」


 そう言って、颯斗は自席からお弁当を取りに一旦戻って行った。

 その間に海里はお弁当箱を開けることにした。


「綾香のことだから、何か詰めただけとかなんだろうな」


 そう呟きながら、恐る恐るお弁当箱を開けると中に入っていたのはちゃんとしたサンドウィッチだった。それと手紙があった。


『海里くん、お弁当の中身は適当に詰めたやつだと思ったでしょ?残念でした、サンドウィッチですよ!!しかも、私が手作りしたの偉くない?帰ってきたら褒めてね!』


 手紙の内容を読み、海里の顔は引き攣っていた。

 今にも怒りたいが、対象がいなくて怒りの矛先が定まらない感情。

 

「おいおい、そんな顔をしてどうしたんだよ」


「えっ?何でもないよ」


 お弁当を持って戻ってきた颯斗に、不思議な顔をして話しかけられた。

 海里は即座に手紙をブレザーのポケットにしまい、颯斗と横並びに座った。


「美味しそうだな。そのサンドウィッチ一口ください!」


「やだよ、これ食われたら俺のが足りなくなる」


「そう言わずに、ね!お願いします!」


「頑固拒否します」


 海里が拒否した理由はもう一つあった。

 ただ単純に綾佳が作ったサンドウィッチを、他人に食べられたくないという理由だ。


 そして物欲しそうな目で訴えてくる颯人を無視して、海里はサンドウィッチを食べる。


「あっ、美味しい」


 サンドウィッチはとても美味しかったので、海里は帰ったら褒めてあげることにした。

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