第8話 仕事内容

「君が寺本海里くんかな?君の事は綾佳のマネージャーからある程度の事は聞いてるよ」


「初めまして、寺本海里と言います。本日はお時間をいただきありがとうございます」


「いや、こちらが呼びたてたんだ、そんな畏まらなくていい。早速だが、事務所の方で話そうか」


「はい」


 国見は先に事務所に戻り、海里と綾佳はマネージャーと共に中へと入っていく。


「寺本さん機密事項が多いので、まだ部外者の貴方はなるべく前だけを見ていてください。それか、目を瞑って瀬倉さんに引っ張ってもらうかです」


「あはは…そう言っても、すぐ目の前だから大丈夫だと思うけど。海里くんはどっちがいい?」


 芸能事務所という新鮮な場所に辺りを見回していたが、マネージャーの一言で海里はすぐに首を動かすのをやめて、前だけを見て歩いた。


「さあ、瀬倉は海里くんと一緒に座りたまえ。北島、お茶を頼んでもいいか?」


「分かりました」


 応接室に着いた海里と綾佳は国見に促され、一緒にソファーに座る。

 北島はすぐ側にあったカップにお茶のティーパックを入れてお湯を注いだあと、机の上に四つ並べた。


「では早速、本題に入ろうか」


「はい」


 国見の目付きが急に変わったので、海里も背筋を伸ばし真剣に話を聞く体勢をした。


「まず専属マネージャーのバイトだが、海里くんはやる気があるのかね?」


「あります。少しでもお金が欲しいですし、綾佳にお世話になってるので手伝える事があったら手伝いたいので」


「なるほど…海里くんの気持ちは伝わった。では、これを受け取るがよい」


 そう言って国見はポケットから携帯を取り出して、机の上に置いた。


「携帯…本当に受け取ってもいいのですか?」


「寧ろ受け取ってくれないと困る。マネージャー業で、かなり使う事になるだろう」


「分かりました。有り難く使わせてもらいます。その、昔の携帯に登録してた友達…一人なんですが登録しても良いでしょうか?」


 疑心暗鬼になりながらも、国見が渡して来た理由を聞いて納得した海里。

 そしてずっと使ってた携帯の契約が切れて以降、連絡を取れてなかったので私用で使う許可を得ることにした。


「うーん…まぁ一人ならいいが、それ以上は認めない。だが必ず、芸能関係の人とは仕事先で連絡先交換はしとけよ」


「寛大な御心に感謝します」


「最後にだが、情報漏洩は気をつけろよ」


「はい」


 今日一、元気な声で返事をして国見に言われた事を心に刻んだ。


「で、次は瀬倉だが…二人だけで話したい事があるから、北島は海里くんを別室に連れて行ってくれないか?」


「分かりました。別室にて、仕事内容の話などをしてますね」


「そうしてくれると助かる」


「では、海里さんこちらへどうぞ」


 北島に促されるまま、海里は立ち上がり後ろをついて行った。

 移動する時に綾佳の方を見ると、国見と真剣な話し合いを始める雰囲気になっていた。



 先程の話をしていた部屋から、すぐの所にある別室へと着いた。

 着いてすぐに椅子に座る様に言われて、海里は椅子に座った。

 

「では海里くんが行う仕事についてお話しますね。それと、メモする様にペンと手帳を差し上げます」


「はい。お願いします」


 正式にバイトとして採用された海里に、マネージャーの仕事を話し始める。


「一つ目が現場同行です。打ち合わせの同席やオーディションに立ち会ったりして、タレントが全力を出せる様に支え、導いていきます。又はタレントの身代わり…つまり汚れ役になる場合もあるので覚悟しといてください」


 海里は真剣に北島の話を聞きながら、手帳に一字一句丁寧に書いていく。


「二つ目が精神的に支える事です。現場で明るく振る舞っていたとしても、ストレスは溜まります。ストレスのはけ口となり、相談に乗る事も大事な仕事です。こちらに関しては海里さんは同棲しているので、瀬倉が困ってる時は助けていただけたらと思っています」


「分かりました。綾佳に公私に渡って相談される様に、頑張っていきたいと思います」


「頼みましたよ。それ以外にも仕事はあるのですが、今の所私一人で大丈夫なのでこれで仕事内容は終わりですね。辛い仕事になりそうですが、お互いに綾佳を更に輝かせましょう!」


「はい!全身全霊で取り組みたいと思います!」


 海里と北島は立ち上がり握手をして、仕事の話は終わった。

 そのあと、また椅子に座ると北島は口を開いた。


「そー言えば、学校には通うんでしたね?」


「出来たらそうしたいですね。綾佳も学校に通っていいと言っていたので」


「多分、社長と瀬倉の話が終わった後にその事について何か話があると思います。まとめてお話しなくて、すみませんが」


「全然、そんな事気にしてませんから」


 北島は申し訳無さそうに、海里に伝えた。

 海里は手を振りながら呟いた。


———ガチャ


「お待たせ。海里くん、あと一つだけ話があるからこっちにまた来てくれるかな?」


「分かった」


 ドアが開くと同時に、綾佳が声を掛けてきた。

 海里は返事をして、北島と綾佳と共に社長の元へと向かった。

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