第9話 side 綾佳 社長と大事な話

 海里が部屋を出るのを確認すると、国見から先に口を開いた。


「早速だが、もう一つの件はいつ頃がいいかね?」


「そうですね。早ければいいのですが、こちらが急に頼んだ事なので先方の要望には乗るつもりです」


「分かった。ちょっと電話してくるから、少し待っててくれ」


「分かりました」


 国見は立ち上がり、近くにあった固定電話でどこかに電話を掛けた。


(これが上手くいったら、私は海里くんとずっと…)


 国見が電話している後ろで、綾佳は手で口を押さえながらニヤニヤした。

 

「———分かりました。ありがとうございます」


 電話が終わったらしく、国見が受話器を置いて綾佳の元へ戻ってきた。


「電話で確認したが、二月の始めからでも大丈夫らしい。今が一月中旬だから、あと半月だな。その間に、必要な物を揃えるといい」


「社長、私の我儘を叶えてくれてありがとうございます」


「その代わり、仕事もちゃんとこなしてもらうぞ」


「はい」


 きっと仕事を疎かにしたら同棲も無くなるだろう。そしたら海里くんは困ってしまう。

 綾佳は今一度、公私混同どちらも全力でやり切ると決めた。


「でだ、明日撮影があるのだがやるか?」


「やります!残り半月は仕事を増やして、二月に向けて体を慣らしていきたいと思います。もちろん、海里くんも同伴で」


「まだ慣れてないだろうから、程々にしてやれよ」


「はーい」


 国見の台詞に、綾佳は手を挙げて返事をする。

 その姿を見ながら、国見は「頑張れよ、海里くん」と言いたそうに頭を掻いていた。


「あっ、そうそう!」


 手を叩きながら急に何かを思い出した綾佳は、首を傾げた国見に続けて話し始める。


「海里くんが学校通う為に、少しだけ力貸して欲しいかな〜って」


「力を貸すにしても、何をだ?」


「まぁ、食費とかは私が何とかできるんだけど、偶に必要経費が出てくる時に…」


 恐る恐る国見の方を見ながら頼む。

 これで断られたら海里がお金貯まるまで、綾佳が全額負担する事になる。

 綾佳にとってはそこまで辛くはないのだが、事務所に力を貸してもらえるなら頼りたい気持ちもあった。


「そうだな…まぁ、その時の状況を見て考えてやるよ。こっちだってお金があまり無いから、必要に応じてだな。貸した時は、出世払いしてもらうか」


「ふふふ…海里くんには頑張ってもらわないとですね」


「マネージャーの仕事を身につけつつ、学業を頑張る…少し違うが、これもまた青春だな」


「ですね」


 少し照れ臭そうに言う国見に、綾佳は微笑みながら賛同した。


「さてと、もう一つやる事が出来たな。俺はまた電話するから、その間に海里くん達を呼んでくるといい」


「分かりました!」


 国見はまた固定電話の場所に行き、何処かに電話を掛ける。

 そして綾佳は、海里達がいる別室へと向かった。

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