第6話 朝シャンと変装

———ドスン


 カーテンから日差しが差し込む部屋の中、ソファーから転げ落ちた海里。

 激しい音を立てながら海里はその場で目を覚まし、そして起き上がる。


「ぐっ…ソファーはやはり寝にくいな…」


 起き上がった海里はぶつけた頭を摩りながら、欠伸をして辺りを見回した。


「あれ?綾佳はまだ部屋にいるのか…?でも、朝食は用意されてるし」


 疑問に思いながら机に準備されていた朝食を食べる事にした。

 朝食は温めたパン二つと麦茶で苦笑いしながら簡単だなっと思いながらも、海里は養ってもらう身として口に出さずに我慢することにした。


———ガチャ


 すると、ドアが開く音がした。

 音の方を向くと、綾佳がバスローブの姿で入ってきたのだった。

 

「はぁー、気持ちよかった。て、海里くん起きたんだ!朝食が簡単でごめんね。いつもそんな感じなんだ」


「俺は全然平気ですよ。家にいた時も、パン一つ食べて学校行ってましたし」


「そうなんだー!でもなにか食べたい物あったら言ってね!用意するから」


「うん」


 海里は普通に話しているが、綾佳とは逆の方を見て話している。

 そして、顔が赤くなっているのも隠している。


 (早く服着て欲しいよー!!!)


 そう思い、海里は綾佳に言うことにした。


「綾佳、俺男ってこと分かってる?」


「どこから見ても海里くんは男の子だよ」


「それならさ、どうしてバスローブで自然にいられるの?親しい人や同性ならわかるけど、あってまだ一日しか経ってない人に対して」


 最初は目を逸らしながら話していたが、最後の方は綾佳の方を少しだけ見ながら話す海里。

 その話を聞いた綾佳は段々と恥ずかしくなってきたのか、頬が赤くなってきていた。


「その…いつもの癖で、すぐ着替えてくるね」


「こちらこそ、言うの遅くなってごめん」


「…」「…」


 沈黙の後、綾佳はすぐに自室に行き着替えをしに行った。

 海里もパンを齧りながら、「綾佳、スタイル良かったな…でもまだ気を許すなよ」と色々と複雑な心境になっていた。


「お待たせ。先程は失礼しました」


「全然大丈夫だよ」


 綾佳は海里の対面に座るなり、謝ってきた。

 海里も気にしてないから平気だったが、自分で言った言葉に少しだけ疑問が浮かんでいた。


「あっ、海里くんも事務所行く前にシャワー浴びていきなよ!朝シャン気持ちいいよ〜」


「えっ!?それは悪いし、時間もあまないんじゃ…」


「時間?あー、今九時だし出掛けるなら十一時くらいだから、海里くんが長風呂してても間に合うよ!それにここはもう海里くんの家でもあるだから慣れないと!!だから、大丈夫!」


 近くにあった時計を見ながら伝えると、綾佳はサムズアップしながら海里の方を見る。

 一途な瞳で見つめてくる綾佳に海里は何も言い返せず、諦めて朝シャンする事にした。


「分かったよ。お風呂入るから服とか貸してくれる?」


「それはもちろん。あとで持っていくね!」


 海里は立ち上がり脱衣所へと歩いた。

 

 脱衣所へ着いた海里は服を脱いで、浴室へと入っていく。

 浴室に入ると先程まで綾佳が入っていたので、シャンプーの香りがした。


「なんか、恥ずかしいな。それになんか悪い事をしてる気がする…」


 そんな事を呟きながら生唾を飲み込みつつ、とりあえずシャワーを出して頭と体を濡らした。

 そして湯船に入る時も罪悪感を持ちながらも、彼女が進めてきたんだと言い聞かせた。


「海里くーん湯加減どう?ここに着替え置いといたよ」


「だ、大丈夫です。着替えもありがとうございます」


 湯船でゆっくり浸かっていると、ドアの向こうから綾佳が声を掛けてきた。

 どうやら海里の服を持ってきたついでに、湯船の温度が気になったらしい。

 咄嗟の反応に海里は、敬語で返答してしまった。


「ふふふ…ゆっくりしてね。時間はまだ大丈夫だから」


 そう言い残して、綾佳は脱衣所から離れていった。

 海里はそれを聞いて、「なるべく早く出るかもな…」と呟きながらゆったりした。

 


 早く出るかもなと呟いてから、三十分が経っていた。流石に長すぎるかなと思い、海里はお風呂から出て脱衣所からバスタオルを取った。

 バスタオルはふわふわで体に馴染み、拭きやすくて顔を埋めたくなった。


「綾佳、お風呂ありがとう。さっぱりしたよ」


「おっ、いいね!かっこいいよ〜!」


「お世辞はいらないから。それより何で、男の服があったの?」


「それはね、カモフラージュをする為なのです!」


 海里は用意されていた服が男性用で、綾佳が持っているのが不思議だった。

 そしてカモフラージュと言われて首を傾けた海里を見つつ、綾佳は話を続けた。


「一人暮らしの女の子が住んでいたら、ストーカーや変な人に狙われるかもしれないでしょ?それで男の服を掛けておけば、男がいるから諦めようってなるという理論なのです!」


 理由が分かったので納得した海里だったが、綾佳はドヤ顔で雄弁に物語っていた。「私、偉いでしょ」と。


「凄いな。とりあえず、少し早いが事務所に向かうか?」


「そうだね〜そろそろ行きますか」


 海里と綾佳は出掛ける準備を始めた。


 数分後…

 海里は特に持って行くものが無かったので、ソファーに座り綾佳を待っていた。


「海里くん、私の変装どう?」


 綾佳の方を見ると丸眼鏡にキャップ付きの帽子をしていて、普通に見たらアイドルの瀬倉綾佳には見えない。


「普通に見たら、綾佳だと全然分からないよ」


「なら、私の変装は完璧だね!」


「そうだな」


 軽く受け流しながら、準備が整ったので事務所がある渋谷に向けて家を出た。

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