第5話 対戦ゲームは馬鹿にしてると痛い目に合う
海里は今、綾佳とゲームをしていた。
ただのゲームではない。運動しながら敵を倒す、ハードな(体力的にきつい)ゲームだった。
何故こんな事になっているのか、それは綾佳の日課に付き合わされていたからだ。
「海里くん、食後の運動は大事だよ!そうすれば、理想の体が手に入る!」
「はぁ…はぁ…綾佳、体力ありすぎる。それに、ジムトレーナーみたいな台詞言わないで…」
「海里くんの事をまだ知らないから、このゲームで語り合おうぜ!的な事をしようとしたんだけど、間違ってた?」
「間違ってはないとは思うけど、それなら遠回しに言わずに率直に話してくれればよかったのに。てか、俺もう無理」
海里も綾佳の事を知るのに丁度いいと思っていたが、思った以上に体力が無くなり海里は先にダウンした。
「海里くんそれじゃあ私はいつまで経っても、貴方のことを知る事が出来ないよ?」
綾佳はゲーム画面を向きながら海里に話しかけ、ボスまで倒したらしく呼吸を整えてその場に座った。
「他に落ち着いてやれる所ないの?」
「ちょっと待ってね。え〜っと…」
海里に言われて綾佳はコントローラーでミニゲームエリアに行き、ハードではないのを選んでいた。
そして見つけたらしく、一人で頷きながら選んで海里の方を向いた。
「これがいいね!これはスゴロクなんだけど、途中途中でミッションがあって下手したらスタート地点に戻されるの!」
「それは怖いな。だけど、面白そうだからやろうか」
「よし!じゃあ、始めるよー!」
綾佳の掛け声と共にコントローラーでスタートボタンを押して、ゲーム画面が変わる。
海里も体力を使うゲームではなかったので、さっきよりもやる気はあった。
「ではでは、僭越ながら私が先行をやらせてもらいます」
「どうぞ。俺はゆっくり進んで安全にゴールを目指しますよ」
「私が勝っても泣かないでよね〜」
「途中で抜かして勝つし!」
ニヤニヤ顔をした綾佳に、絶対こいつに負けたくないと誓った海里。
二人の勝負が今、始まる…
◇
「えー、また三じゃん!!って、五マス戻るだって!?」
「これは俺の勝ちが見えてきたかな」
勝負が始まってから、三十分が経っていた。
今現在の二人の位置は、綾佳がゴールまであと四十マス、海里があと三十五マスと海里が優勢であった。
ここまで来る途中で位置が交代されたり行ったり来たりして綾佳がかなり戻る中、海里は順調にプラスになるマスに止まりついに綾佳を抜いたのであった。
そして今の綾佳の戻りで、海里は勝ちを確信していたのであった。
「では俺がここでいい所を決めて、更に進ませていただきます」
「ふふふ…海里くんそんな事言ってると痛い目にあうよ」
不気味に笑っている綾佳を無視しながら、海里はサイコロを回した。
サイコロの目は四が出て、進んだ先にあったのは———
『スタートに戻る』
と書いてあった。
「なっ…振り出しだと…」
「ほらほら〜痛い目に遭ったでしょ〜」
その文字を見た海里は絶望した。
そんな海里を見ながら、綾佳は口に手を当てながらニヤニヤしている。
「綾佳だって、俺のこと馬鹿にしてると痛い目に合うからな」
「そんな事ないから〜では私のターン!」
綾佳はサイコロを回す。出た目は六。
六マス進むとそのマスは普通の課題だった。
「何もありませんでした。ほんと何も」
「なんでこーゆう時に限って普通のが出るんだよ!!!俺、逆転できるのか…?」
「出来ないね〜さっきどんな顔をしてたっけ?勝ちを確信したような顔をしてたと思うんだけど」
綾佳はくすくす笑いながら、海里の腕をツンツンしている。流石に腹が立ってきた海里は、次の綾佳のターンで悪い事が起きろと願っていた。
「とりあえず、俺のターンだから回すか」
「どうぞ〜」
サイコロの目は一。
特に何も起こらず、ステイする形に終わった。
そして綾佳のターンが来て、サイコロを回す。
「ここまで来たら優勝したい!!いい目が出てくれー!!!」
叫びながらサイコロを回すと出た目は五。
綾佳は「やったー」と叫びながら、五マス進めたがそのマスは——
『最前列と最後尾の交代』
つまり二人しかいないので、綾佳と海里は場所を交換する事になった。
「う…嘘でしょ…私、勝ち目ないじゃん…」
「降参する?」
「もう辞めよう…海里くんの事、何となくだけど分かった気がするから、私は満足した」
「あれで分かったのか」
綾佳の言葉に苦笑いしながら海里は答えて、コントローラを綾佳に返した。
そのあと綾佳はスゴロクを強制的に消して、ゲーム本体の電源も消した。
「てか、もうこんな時間じゃん!!海里くん、今日は部屋がまだ出来てないからソファーでもいい?」
「大丈夫だよ」
「明日、事務所から帰ってきたら一緒に部屋作ろうね!」
海里は首を縦に振って返事をした。
その後、綾佳は自室に行き、海里はソファーで横になって目を瞑った。
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