第3話 3LDK
「さぁ、ここが今日から一緒に住む部屋だよ」
海里は綾佳が住んでいるマンションへと案内されていた。
綾佳のマンションは昼食を取っていたファミレスから歩いて三十分の所にあり、ここまで来るのに歩くのは疲れるからとバスで最寄りまで乗って来た。
中に入ると部屋の間取りは3LDKで、一人暮らしするには広すぎる間取りであった。
「広いですね。ここで一人暮らし…凄い」
「羨ましいでしょ〜海里くんと同い年の子が広々と部屋を使っていて」
綾佳はニヤニヤしながら、海里の方を向いて呟いた。
海里は少しイラッとしたが、これからお世話になるから気持ちを抑えて口を開く。
「そうですね。広くて羨ましいですが、俺もここに住めると思うと嬉しいですね」
「海里くん、少し怒ってる?」
「怒ってませんよ?」
実際に海里は顔には出さず、言葉にも怒りを込めてなかったが、綾佳には怒っているように聞こえたようだ。
「そうだよね。あっ、そこのソファーに座っていいよ。テレビも見たければ付けていいからね!私はマネージャーに電話してくるから少し待ってて」
「あ、はい」
綾佳はそう言って、別の部屋に移動した。
残された海里はとりあえずソファーに座り、テレビを付けて眺めていた。
「それにしても、地獄から天国に行ったのかと言うくらいこの一週間は濃かったな…」
独り言を呟きながら、海里は一週間に起こった事を思い出していた。
急な事故で身内を失い、家も追い出され親戚もいなく頼れる人がいないので彷徨った後、公園のベンチでトップアイドルに拾われる。
そして疲れが一気にきたのか、海里はそのままソファーに凭れ掛かり眠ってしまった。
◇
綾佳は海里をリビングに案内した後、ゆっくりしてもらう為にソファーに座らせる事にした。
ソファーに座った海里を見届けると、綾佳はマネージャーに海里の事を話す為自室に移動して携帯を取り出した。
電話を掛けると呼び出し音が、聞こえてきた。
「はい。北島ですが、どうしました瀬倉さん?」
ガチャという音がした後、女性の声が聞こえて来た。電話に出たのは、瀬倉綾佳のマネージャーの北島絢美だ。
「北島さん、あの急に変な事言うんですが私同棲する事になりました。そして同棲する子が私の専属マネ(バイト)をする事になりました。北島さんの補佐ですね!アイドルは辞めないので安心してください!!」
「…………えっ?」
綾佳の怒涛の台詞に、マネージャーは長い沈黙の後変な声を出しながら困惑していた。
そして続けて話始めたが、取り乱していたので話し方が少しおかしくなっていた。
「ちょ、えっ?…はっ!?もう一回、一語一句ゆっくり話してくれない?」
綾佳は電話の向こうで慌てているマネージャーを想像しながら、ニヤニヤしていた。
「だーかーら、私は同棲する事になりました」
「うん。それがちょっと分からないんだけど、更に意味が分からない事を言ったよね?」
「私の専属マネ(バイト)ですか?」
「それだね。どーゆう経緯でそうゆう事になったのかな?私、今頭が痛いよ」
「説明が面倒臭いので、省略して了承してくれませんかね〜?」
「分かった。私、今から瀬倉さんの家に行きますので家にいてくださいよ」
「分かりましたよ。夜ご飯のお使い行きたかったのに〜」
綾佳は口をとんがらせながら、マネージャーに愚痴をこぼした。
そのあと「絶対にいてくださいよ」と念を押されながら、マネージャーは電話を切った。
「マネージャー来るのか〜少し面倒さいけど、海里くんの為に頑張るぞ」
綾佳はガッツポーズをして、海里が待つリビングへと戻って行った。
◇
「海里くんお待たせ。突然だけど、今からマネージャー来るこ——って寝てる。それにしても寝顔可愛いね〜」
綾佳は寝顔を見ながら、悪戯に海里の頬をツンツンと人差し指で突いた。
「う〜ん…あっ、瀬倉さんすみません。寝てしまい」
「気にしないで。それと突然だけどマネージャーが来る事になったから」
「そうですか」
「あれ?なんか落ち着いてるね。私はもう少し、「えっ、何で電話してマネージャーが来る事になるのですか!?」って感じに慌てると思ったんだけど」
綾佳は予想してた感じにならなくて、少し残念そうな顔をした。
「もう慣れましたから。瀬倉さんの性格?何となく分かって来ましたし」
「なんか複雑だな…まぁ、いいか。それと私の事を瀬倉さんじゃなくて綾佳と呼んで、タメ口で話すこと!!」
ずっと苗字で呼ばれていたのが嫌だったらしく、不満そうな顔をして海里に命令した。
「分かり…わかったよ、あ、綾佳…」
海里は頬を赤く染めながら、綾佳の顔を見て言われた通りに話した。
綾佳はそれに満足したようで、首を縦に振ったあとサムズアップした。
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