第7話 輪廻
ここに来てから14日目、ついに3畳の小部屋を出ることとなった。
同じ時間を過ごした9番とは、最後まで会話をする事がなかった。
もうお互い出会う事もないだろうが、それでも最後は『お元気で』と声をかけた。
9番も力強い眼差しで応えてくれた。
ここに来た魂は、善人であれ罪人であれ、自分では行き先をどうする事も出来ない。
唯一の方法は、生前の善行を元に天使に依頼して、自分の代わりに動いて貰う事だ。
そしてそれすらも限界がある。まさか生前の行いが、死後に必要になってくるなんて、誰も信じないだろう。善行が足りない人、善行があってもどうしようもない人、状況は魂それぞれなんだから、他人に干渉しても、無力さのせいで余計に虚しさが残ってしまうだけなんだろう。
ここに来た魂は、49日間の内にそれを嫌でも思い知らされる。
そして、その後にどこへ向かうかは、進んだ先の本人にしか分からない。
だからこそ、会話は必要ないのだ。
共に過ごした相手を、強く願う心さえあれば。
俺はと言うと、結局羽根ノ西さんの取り計らいで、生き返る事が出来た。具体的な方法は…天使ならではの奇跡を教えて貰ったが、それもここを出る際には忘れてしまうのだろう。
取調官の鈴木さんからは、「現世での活躍に期待します。」とエールを頂いた。
もちろん、彼らの仕事は死因を明らかにして、然るべき処置を下す事であるのだろうが、なにも罪人全てを憎んでいる訳ではない。
それゆえの公平な取り調べであると、今は信じている。
最後に、天使の羽根ノ西さんと挨拶をした。
俺の気持ちが揺らいでいた事、これからも過ちを繰り返すかも知れない事、それでも現世での命を続けたい事、羽根ノ西さんは全てわかっている様だった。
「こんな所にきても、案外いい場所じゃなかった…でしょ?」
はにかみながら笑う彼女を、きっと俺は覚えている事が出来ない。
俺は結局のところ、弱い人間のままであったし、それに気付けた事すらも、きっと忘れてしまう。
けれど、本当の意味で理解してくれた人がいた事を、忘れたくない。
…こうして、俺は現世に戻ってきた。
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