第6話 糸
天使との面談後、俺は取り調べと自戒を繰り返していた。
取り調べに関しては、不定期に鈴木さんと面談する。
これまでの人生、自殺の動機、当日の行動などを読み上げられては、間違いがないか確認されていく。
もし、違った場合は訂正する事が出来たが、あくまで本人の主張であった為、さほど重要視されなかった。
大事なのは、取調官の記述に対して、本人が合意しているか…と言った事であった。
そんな取り調べであったから、俺の状況は良くなる事がなかった。
経緯はわかるけど、自殺だね。地獄で償うしかないね。そんな流れにされているのを、自分でも感じていた。
9番はと言うと、俺と同じく相変わらず取り調べを受けている。
取り調べ期間が長いように思われるが…きっと9番は善行ポイントが少なかった為、天使に十分な依頼を出来なかったのだろう。
同じフロアの別室の魂たちは…たまに会話の声が聞こえる。
天寿を全うして、善行ポイントが余っているのか、それとも地獄行きが確定してヤケになっているのか分からないが、毎日お菓子や嗜好品を頼む声も聞こえる。
俺はと言うと、半ば諦めていた。
こうなってしまったのも、全て自分の責任。
努力をしてこなかった事か、人に心を許す事が出来なかった事か、それとも生きる勇気が足りなかったのか、自身への甘えがあったのか。
全てが原因の様に思えて、悔しさはあるものの、潔く罪を受け止めよう、そんな気持ちになっていった。
そんな中、9日目にして天使が俺に面会にやって来る。
「11番さん!朗報です!」
面談室へ移動し、天使の羽根ノ西さんに事情を尋ねる。
「実は、あれから現世に行って11番さんの様子を見て来たんですよ!そしたら…11番さん、まだ完全に亡くなっていないんです!」
『え⁉︎それってどう言う事ですか?』
「大変危ない状態なのは間違いありませんが、奇跡的にまだ延命措置を受けています。ただ、これ以上延命措置を続けるか、ご家族も迷ってまして…。」
「ここから先は、11番さん次第です。あなたがもう一度現世に戻りたいと思うなら、私が蘇生出来るよう現世で掛け合ってきます。ですが、このままこの人生を終わりにしたいのであれば、現世での関与は終わりに致します。もちろんその場合でも、地獄の最下層へ行かないよう、引き続き依頼を受けさせて頂きますが…。」
「どうされますか?もう一度今の人生を続けますか?それとも罪を受けて、その先へ進みますか?ちなみに、現世へ戻られた場合でも、ここでの記憶や経験は消えてなくなりますよ。」
…少しだけ考えた。
天命を全うしなければ、天国へ行けない事。
現世で善行を積まなければ、あの世に行くにも不自由する事。
ここで反省した事も、全て忘れてしまうなら、現世へ戻っても、また同じ事の繰り返しになってしまうかも知れない事。
いろんな想定をした。良い事も、悪い事も。
…それでも俺は、結局弱い人間だったから、羽根ノ西さんにこう依頼した。
『現世に戻りたいです』
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