第5話 天使

とんでもない事になってしまった。

まさか、自殺によってさらに辛い場所に行く事になろうとは。

地獄とは、一体どれ程の場所なのだろう。

これまで以上の苦痛を受ける事になるのだろうか?

しかし、現世では毎日が辛過ぎたのも事実だ。

どこかで、後悔していない自分がいる事にも気づいている…。



最初の取り調べが終わった夜、俺に面会人が現れた。


「あなたが11番さんですね?今回依頼を受けさせて頂く天使、羽根ノ西です。よろしくお願いします。」


羽根ノ西…??どこかで聞いた様な名前であったが、思い出せない。

それより、見た目10歳前後の少女なのだが、本当に大丈夫なのだろうか?

俺の善行ポイントは40万。このポイントで何とか情状酌量をお願いしたいところなのだが、果たして貴重な30万ポイントをこの少女に投資して大丈夫なのだろうか?


「こちらに来て、おそらく誰にも相談が出来なくて辛かったですよね。」


俺は、魂だけの存在になって、初めて泣いた。

案内人に業務的に説明されて、同居人とも会話がなく、取調官からは罪を言い渡されて、まともに相談できる相手がいなかったからである。

年甲斐もなく、10歳前後の少女に泣き散らかした。


『そうなんですよ…俺。ただ毎日が辛かっただけなのに、こんな事になってしまって…。現世の家族の事考えたり仕事の責任を考えると…もう気が気でなくって。』


「わかりますよ。きっと生前はいろいろ悩みがあったのですよね。今この時間は、11番さんがゆっくり自分と向き合う時間だと思って過ごしてほしいです。」


『もう気持ちがぐっしゃぐしゃで…。辛い現世から逃れたかった事、残して来た人たちへの申し訳なさ、けれどどこか解放されたように安心してしまう今、そしてこれから待ち受ける更なる罪。もうどうして良いかわからないです…どうする事も出来ないんですけど。』


「これからどうなるかは、私にお任せ下さい!とりあえず今晩はもう遅いですから、ゆっくり眠って、気持ちに整理をつけて下さいね。」


時間にして、30分もあるかないかの会話であった。おそらく、何の解決にもならなかったが、初めて自分の本心をさらけ出す事が出来て、すっきりはした。

俺は、羽根ノ西と名乗る天使にすがる思いで、9番の待つ小部屋へと戻って行った。

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