第4話 面談

「初めまして。これから11番の取り調べを行う鈴木です。よろしくお願いします。」

『…死後の世界なのに、日本人なんですね。』

「死後の世界にも、管轄があるんですよ。案内人の女性も、日本人だったでしょう?」


…言われてみればそうである。

だが、最初に案内を受けていた時は、そんな事疑問にすら思わなかった。

やはり、死後直後は気が動転していたのだろうか。


俺は待機している3畳の小部屋から、最初に案内を受けた部屋…と似た別室に連れられていた。

机とパイプ椅子があり、机を挟んで鈴木さん?と言う取調官と会話している。


「ここでの生活はなれましたか?」

『……』


自分がこれからどうなるかもわからないのに、慣れるはずがない。

取調官も、わかった上で社交辞令を言っているに過ぎない。

その証拠に、取り調べはすぐに行われていった。


「さっそくですが11番、あなたは自殺によってここに来られました。天命を全うしなかったあなたには、これからより重い罪を受けて貰います。」


『ちょっと待って下さい!僕は生前悪いことなんてしていない!むしろ被害者はこっちなのに、なんで僕が罪を受けなきゃいけないんですか⁉︎』


「それを明らかにしていくための取り調べです。あなたは基本的に現世に存在しないので、もう何もする事が出来ません。我々は死に至る原因を淡々と確認していくだけです。その上で、今回の自殺がどれ程の罪にあたるか。判断は別の者が行います。」


『そんな事って、あるんですか。僕は毎日が辛くて辛くて仕方なかったから、死を選んだだけなのに。』


「どんな理由があっても、自殺は自殺です。それを許容してしまっては、命の意味がなくなってしまいます。全ての人が好きな時に死んでよければ、生きる意味さえ無くなってしまいますから。」


『そんな…。』


はっきり言ってその通りである。

自殺する事、ひいては命を奪う事が「仕方の無かった」で終わってしまうなら、現世は大混乱である。殺したい時に人を殺して、死にたい時に自殺する。そんな事が横行したら、今を懸命に生きる人に対しての冒涜でしかない。もちろん、情状酌量の余地はあるのかも知れないが、基本的に罪である事には変わりがない。


『より重い罪って…いわゆる地獄行きですよね。最初の案内の時に少し聞きました。』


「そうです。残念ながら11番、あなた自身もう何もする事ができません。しかしながら、あなたの代わりに天使を使役することができます。」


『天使???』


「そうです。生前の善行をもとに、天使に依頼しあなたの代わりに動いて貰えます。我々も、我々だけの一方的な見識で取り調べを進め、万一にも誤った結果を報告する訳にもいきませんから。」


なるほど、公平な取り調べとは案内の際に聞き覚えがあったし、やたらと案内人や取調官が業務的なのも、公平さを期すためであろう。

経緯は分からないが、反論させて貰える機会があるのなら願ったりもない。


『生前の善行って、いったい何ですか?』


「うーん…わかりやすく言えば、ポイントの様なものですね。他人に親切にする。相手の事を思いやる。生命を大事にする。と言った生前のの良い行いがポイントになって貯まっています。11番の場合は、40万ポイントありますね。」


『そのポイントって、いくらでどのくらいの事をして貰えるんですか?』


「それは天使によって異なります。例えば、この49日間の取り調べ期間の間に、タバコが吸いたい、お菓子が食べたいと思ったら、天使を通じて持って来て貰う事ができます。天使にもよりますが…1000ポイント前後ですかね。」


『そ…そんな事まで依頼できるんですね。』


「まあただ、人によってはポイントが全くない方もいますから。一応こちらが指定した天使なら0ポイントで依頼を受けてくれますが…それなりの動きしかしてくれませんよ。」


『僕の場合の天使って、どのくらいのポイントが必要なんですか?』


「11番の自殺の場合…30万ポイントからが相場ですね。どうされますか?」


『なら、すみませんが30万ポイントの天使に、僕の依頼をお願いしたいです!』


「わかりました。手配しますので、連絡をお待ち下さい。また、初回の取り調べはこの辺りの説明がメインでしたので、本日はこれで終了と致します。」

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