第3話 生活

ここでの生活も3日目に入った。

基本的に日中は行う事がない。

時間の流れは、生前と同じく24時間で流れているのだが、小部屋には時計がないため時間の感覚がわからない。


わかったことは、このフロアにはいくつかの小部屋があり、そこに判決を待つ…魂と言うべきだろうか、とにかく自分と同じ存在がいるのである。

魂たちは、生前の名前ではなく、全員番号で呼ばれる。自分は11番。なんでも生前の名前であると、ごく稀に知り合い同士であったり、知り合いでなくても、生前の記憶から公平な取り調べに影響がでるかららしい。

過去にどんな事例があったのかわからないが、この業界も大変なんだろうと、他人事ながら感じてしまった。


死んだはずなのに、不思議と腹は減る。

毎時決まった時間に食事が運ばれてきて、時間内に食べ終える。

時間の感覚がわからないから、唯一この食事の時間が、1日を計るタイミングとなっている。


小部屋には、もう1人の同居人がいた。

番号は9番。

見る感じ50代くらいの、色黒の男性だ。

自分が来る前からいたのだから、少なくとも自分よりも早く判決が決まるに違いない。

何度か声をかけようかと思ったのだが、男性が全く応じなかったのと、入居前に案内人の女性に言われた言葉が引っかかり、会話するまでに至らなかった。


この3日間のうちに、男性は何度か呼ばれて部屋から出て行った。数分で戻って来る時もあれば、半日近く戻らない時もある。

呼ばれる際は、男性は心なしか明るい表情で出ていくが、戻って来る時は浮かない表情をして戻ってくる。


男性は、一体何が死因だったのか。

年齢からするに、老衰ではないだろう。

だとしたら、自分と同じく自殺?それとも事件に巻き込まれて他殺?

見るからに悪人面ではなかったから、裏社会の人間ではないだろうけれど…。


男性がいない間は、1人であったから、考える時間が増えた。

もっぱら考えるのは、生前の事。

第一に、仕事の事を考えていた。

自分が急に居なくなって、業務は回っているだろうか。鬼部長は癇癪を起こしていないだろうか。何も言わずに急に居なくなってしまった事に対して、残された同僚たちへ申し訳なさでいっぱいであった。


次に考えるのは、家族の事。

子煩悩で、いつまで経っても子離れ出来ない両親であった。実の息子が急に死んだとなったら、気が触れてしまうのではないかと心配だった。

けれど、自分には姉妹がいたから、きっと自分がいなくなっても、それなりに生きていくのだろうと、どこか決めつけていた。

もちろん、もう二度と会えない事への寂しさもあったけど。


これらの事をぐるぐる考えているうちに、やってしまった行いに対する反省と不安と心配で、気が滅入って仕方なかった。

一方で、ここでの暮らしは何の苦労もなく、誰から非難される訳でもなく、ある意味とても落ち着いた時間が流れていた。

これからどうなるかは分からないが、出来れば永遠にこの時間が過ぎないかと願ってしまう事さえあった。

緊張と安堵の波が繰り返し、生きた心地…否、死んだ心地がしなかった。


3日目の昼を過ぎた頃に、ようやく初めて俺は呼ばれた。

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