第2話 案内人
気がつくと、パイプ椅子と机が並べてある部屋に座らされていた。
「お気づきになりましたか?すぐに状況が把握出来ないかも知れませんが…残念ながら、あなたはもう現世にはおられません。」
小柄でそばかすまじりの女性が言う。
上下黒のスーツを着こなしており、胸のネームプレートには「占部」と記載してある。
「ここに来られて、状況を理解出来ない方も多いんです。これから先、然るべき判断が下され、各々が進むべき場所へ進んで行って貰わなければならないのですが…ご自身の状態を受け入れられない方もたくさん見えて…」
俺はすぐに自身の置かれている状況が分かった。生前の事もしっかり覚えている。
全て納得のいく事だ。
『大丈夫です。自分が行った事、全て理解出来ています。』
「そうですか。ならよかったです。なかには納得出来ずに、ずーっと居座って…いわゆる地縛霊になってしまう方も見えるので。」
なるほど、自分が死んだ事を受け止められない人もいるんだろうな。
自分の場合は、希死念慮があったせいか、いまこの状況にそれほど違和感もないが、当然ここに連れてこられた人の中には、パニックになる人もいるだろう。
「それでは、これから先の処遇についてご説明させて頂きますね。」
「あなたはこれから先、ご自身の経緯について、公平な取り調べを受けます。期間は人間の時間でいう49日間。その結果によって、あなたの今後の行き先が決まります。」
「期間中は、ご案内するお部屋で過ごして頂きます。基本的に2人一部屋となっていますが、私語は厳禁です。ここでの生活態度も、判決に関わってきますから、極力品行方正に過ごして下さい。」
『一つ、質問してもいいですか?49日後の行き先って言うのは…具体的にどんな所なんですか?』
「人によって様々ですが、いわゆる天国や地獄と思って下さい。ちなみに天国や地獄にも細かく種類が分けられていまして、その細かい行き先を決めるための49日間と思って下さい。」
女性の説明はとてもわかりやすくて丁寧だ。
しかしどこか業務的で、こちらをお客様扱いする訳でもなく、かと言って邪険に扱う事もなく、淡々とした口調で説明をしてくる。
『わかりました。説明はもう大丈夫です。案内の程、よろしくお願いします』
「では、ご案内します。」
女性に連れられるまま、俺は椅子から立ち上がり、最初の部屋を出た。
部屋を出ると、薄暗く細長い廊下が続いている。
所々に別の部屋らしきものもあるのだが、あまりに暗い為はっきりわからない。
そうこうしているうちに、廊下の突き当たりまできて、一つの扉が見えてきた。
「最後に一つだけ、これは私個人の意見ですが…ここから先、あなたは他の人と一切話さない事をお勧めします。それが、あなたの為になりますから。」
おそらく女性は業務として、この案内人をしているのだろう。
まして、故人の今後に関わる事であるから、個人的な感情をあえて押し殺しているのだと思う。
しかしながら、最後の別れ際に、もはや死人である自分の事を気遣ってアドバイスをくれた事には、好感を持つと共に感謝の念しかない。
これから49日間、何が待っているのかわからないし、女性の言葉の本当の意味を知るとしたら、いささかの恐怖もあるが、とりあえずは優しい気配りに対し誠実であるため、頂いた言葉は決して忘れないようにしようと決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます