第6話

席についてパンを注文する一樹と少女

数分後に届いたパンを美味しそうに頬張る少女を眺めながらコーヒーを飲む一樹



「で、お前誰なんだ?」


「私は天血てんけつ澪。吸血鬼と死神のハーフだけど、どちらかというと吸血鬼の血が濃いかな」


「…ああ」



吸血鬼…といっても霊斗のような擬似吸血鬼ではないホンモノは、あのような召喚獣を体内に飼っている

久遠に似たこの少女の話が本当なら、確かに保有しててもおかしくはない



「ひとつ聞いていい?」


「なんだ」


「久遠って人、そんなに似てるの?」


「…まぁな。体格はお前の方が色っぽいけど。そもそも久遠は男だしな」


「…私と間違われる男ってなんなの?」


「まぁ、今からくるから待ってろ」



ちなみにこの店は昨日久遠たちが入った天音の店だ

それから数分後、やってきたのは久遠と莉琉の2人

入ってくるなり驚きの声をあげる



「本当にそっくりね…」


「そう、だね…!」



久遠の視界はゆっくりと黒くなっていった

重力が消えたかのような感覚に陥り、急に体が軽くなったかのような身軽さを憶えた



「久遠?」


「…っ!その子、私のドッペルゲンガーで間違い無いよ」


「なんだ、死んだのか」


「一回ね…」



久遠の感覚は、不死者が一時的に殺された時の感覚だ

そしてそれ以降1分ごとにその感覚が久遠を襲う。それも澪を見てる間だけ

1度目を逸らせば死ななくなるのだが、また見てしまうとダメだ



「澪の方は?」


「えっ?なんともないよ。…そっか、こんなに似てるんだ。間違われるのも仕方ないね。鏡を見てるみたいだもん」



あはは、と小さく笑う澪



「…一樹、謹慎明けたのか?」


「…夜斗!?あ、ああ…昨日な」



声をかけてきたのはエプロンを外した夜斗だ

どうやら休憩時間に入ったらしい



「…む、お前…。鏡の国の久遠じゃないか。久しいな」


「あ、夜斗じゃん。こっちの人だったんだね」


「ああ。向こうの俺は元気か?」


「…ううん。なんか、向こうは消えちゃったみたい」



笑いながら言う澪と、状況が飲み込めない他3人

夜斗は席に座ってスマートフォンを机に置いた



「これは鏡の国。文字の向きだとかその辺はこっちと変わらないが、存在する生物が全て反転した世界だ。ちなみにこれは俺と俺の写真」



そこに映っていたのは夜斗と、夜斗に似た顔をした女性

そしてさらに澪が映っていた



「その写真まだ持ってたんだね」


「待て待て待て。夜斗、こいつと面識あるのか?」


「ああ。鏡の国の俺の従者だ。能力は久遠と同じだが種族的には澪は吸血鬼寄り、久遠は天使寄り。世界の法則として死神は反転しても変わらないけど吸血鬼と天使は相反するものとして扱われるんだよ」



鏡の国には冥府がないらしい

ならどうするのかと言うと、専門の死神が鏡の国から現世に連れ出し、そこから唯利に乗って如月に向かっていたという

今は直接門を繋げていると語った



「…そうか、それで昨日澪が幻獣を使えてたのか」


「ああ。で、法則で言うと鏡の国の同一人物はドッペルゲンガー扱いだから、会えば死ぬんだよ。俺は何故か死ななかったけど」


「死ななかったんだ…。私は今澪?を視認しただけで死ぬのに」


「一説によると、擬似死神は不死性が弱いかららしい。本式の死神3種類は全て完全な不死性を持つから死なないんじゃないか?ということだ」


「なるほどね…。桜坂家は全員、それぞれの主人から霊力を与えられて変異させた擬似死神だから死ぬんだ…」


「…待て。なら俺が昔あった時に死んだのは?」


「それは相手が鏡の国の住人じゃないからだな。あれは本当にドッペルゲンガーだからお前は世界の法則で死んだ」


「なんでこっちの原住民である私や一樹が死ぬのさ」


「それはまだ調査中…ではあるが、なんとなくで結論がある」



夜斗はタブレットパソコンをバックヤードから持ってきて開いた

1つのワードファイルを開き見せる。タイトルは「ドッペルゲンガー•鏡の国の住人に関するレポート」

それには久遠が予測していなかったことが記載されていた


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