第4話
北区に到着した一樹は、ゆっくりと深く息を吐き出した
そしてかけてあった霊術を解除する
「…ったく人使いが荒いなうちの部隊は…。アサルトに転属出そうかな」
ここは商店街…だった場所だ
今では数多のシャッターが降り、かつて一樹が毎日のように通っていた肉屋はもう閉業している
「寂れちまったな…。まぁ、50年もあればこんなもんか」
ため息をつきながら一樹は顔馴染みのところへと向かう
それは一樹が幼い頃世話をした子ども…の、孫が経営する店だ
「ちわっす。久しぶりだな」
「一樹さん!お久しぶりですね、お茶出しますよお菓子ありますよ上がってください。あそういえば僕も娘を授かりましてね、一樹さんに名付けをお願いしたいんですよ。それと父さんが一樹さんに会いたいと言ってましたので暇がありましたら2階にお願いします。あと爺ちゃんが一樹さんにって遺したものも2階にあるのでよければそれをお持ち帰りいただいて…」
「待て待て待て。相変わらずテンポが早いな。って妻がいたのか」
「ええ、素晴らしい女性と縁がありまして…これもある意味では一樹さんのおかげですね。爺ちゃんを助けてもらったからこの命があるわけですから」
「なんでも俺にするなよ…」
一樹は家に上がり出された茶を飲んだ
どうやら妻も一樹を知っているらしく、フレンドリーに接してきている
「もったいない奥さんだなぁ」
「はは、まさにおっしゃる通りです。でもそんな人を妻に迎えたのですし、僕がしっかりしなければと活力になってますよ」
「あーやめやめ、惚気に発展したら150年彼女がいない俺が悲しくなるわ。つか今日きたのはそれのためじゃなくてな」
一樹はポケットから久遠の写真を出して机に置いた
「こいつどこかで見なかったか?」
「たまぁに歩いてるのを見かけますね。少し前…といっても1週間前に、5分後に同じ方向に向かっていきましたよ」
「それはこいつが北から南に行ったあと、また北から南に行くこいつを見た…と?」
「えぇ。そんなすぐに引き返したとは思えませんし、双子かなぁと思っていたところです。特徴的な子でしたからね」
「特徴的…?」
「1人目はなんというか、ぼんやり歩いていたんですよ。暇そうというか、何かを探すように。2人目はなんか、この町が珍しい…というか、全てのものを知らないかのような様子で、道を聞きに向こうの店に入って行きましたね」
「……そうか。ありがとう」
「父に会ってもらっていいですか?もう今際なんです」
「あいつが…?」
一樹は2階に上がり、目の前の部屋に入った
ベッドに横になり、点滴を繋がれた男の横に立つ
「…まだ若かろう」
「……いつ、き…様…?」
「久しぶりだな。やつれたじゃないか」
「はは…歳には、勝てませぬ…な」
「殺しても死ななそうだったというのに」
「それも、そうやも…しれませぬ」
無理に笑い体を起こそうとしたのを静止した一樹は、ベッドの端に座った
「妻はどうした」
「一昨年、死にました…。冬風、という者に…魂葬を…頼んで…」
「…夜斗が?あいつは魂を司る死神だが、魂葬できたのか…」
正確には形だけの儀式をしただけであり、送ったのは唯利だ
その頃はまだ唯利は唯利ではなかったため、夜斗はただ電車として呼んだのだが
「…一樹、さま…。最後に、願いを…聞いてください、ませんか…」
「……聞いてやろう」
「私を、貴方様の手で…送って、ください…」
「…殺せというのか。息子同然の付き合いを持つお前を、この手で」
「唯一、最後の…。ああ、一生の願い、です」
「……そうか。お前の望み、なんだな」
「はい…。これ以上、手間をかける…わけにも、いきますまい…」
「いいだろう」
一樹は下に降りて息子とその妻を2階に行かせた
そして電話をかける
「俺だ、
『なんだ?調査はどうした?』
「…いや。顔馴染みが死にたいと言っててな。生きるのも苦しそうで、俺に魂葬しろっていうから…」
『…夜桜一樹の謹慎を解除する。神機の使用許可を復帰とし、死神化を許可する』
「ありがとう」
『礼を言われたのは随分と久しいな』
「…かもな」
一樹は手を握り締め、開いた
「こい、
手の中に現れた青い焔から桜の花びらが飛び散り、一樹の手の中に刀を具現化させた
柄を握り締め、死神化を実行する
見た目はほとんど変わらない。変わるのは服装
今までの白いパーカーから一転し、黒いフード付きのコートへと変化していた
そして少し浮いている
「…仕方がないことだというのは理解している。長く生きればそれだけ、死を見ることも…俺がこの手で送ることもある」
「一樹さん…?」
「お前の親父は死を選んだ。最後に礼の1つでも言ってやれ」
「そんな…!…いえ、父が貴方に言ったのなら心からの望みということです。親父、今まで…今まで本当に、ありがとう…!」
「お義父さん…。お世話になりました。向こうから見守っててください」
「…あり、が…とう」
一樹は鎌へと変化した神機を構える
「これより死にゆく者への敬意を称し、王による魂葬を実行する」
涙を流す夫婦と父親を見ていられず、少し目を閉ざした
それでも際は見てやろうと目を開き、鎌に霊力を流し込んだ
青い焔が神機を包み、門が開き始める
冥府への門が、ゆっくりと
「…さらばだ。またいつか、この世界で会おう。カイトよ」
「はい…。その、ときは…必ず…」
「ああ。その時は、友人として」
振りかぶった鎌で男を斬りつける
それは、肉体と魂を切り離す作業だ
これが終わると門の中から、死を司る死神が現れ魂を回収し、冥府へと輸送する
魂は非常に不安定だ。そのため、専門の技術者が持っていく
これが、唯利と如月に代わる魂の輸送方法である
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