第3話

「…で?お前が言いたいのはそれだけか?」


「それだけ…って、なんでそんな雑なのさ隊長!」



久遠と翔、舞莉と莉琉は自分たちの直属の上司の元へ来ていた

つまりは怪異討伐の隊長であり、夜斗の部下の部下でもある



「はぁ…。怪異なら殺せばいいし、違うなら原因を探ればいい。そんなことわかってんだろ」


「わかってて来てるの!足取り掴めないし、もし本当にドッペルゲンガーなら私のせいになって第零特務機関の評価が落ちるでしょ!!」


「まぁ、な。つってもアサルトに依頼出すわけにもいかないしなぁ」



第零特務機関強襲部隊──通称アサルト

主に犯人確保を役目としており、怪異が関わらないテロの対応をしている部隊だ



「応援が欲しいって言ってるの!いるでしょ暇そうなのが!」



久遠が指差したのは灰色のパーカーを着てソファーに寝そべる男だ

フードを被っており、本を開いたまま顔に乗せている



「…別にそいつ使ってもいいけど、神機のない死神はただの人間と変わんねぇぞ」


「いないよりマシでしょ。暇ならついて来なさい、一樹いつき


「痛い痛い痛い!やめろよお前さぁ!」



耳を引っ張られて飛び起きたフードの男が本を退けて抗議の声を上げる



「つーか俺今謹慎中なんだけど?」


「構わん。行け」


「えー…神機は?」


「ダメだ」


「死神化できねぇじゃん!」



かつて如月が言っていたことは間違っている

死神には3種類いる。そのうち2つは如月が言っていた、「死を司る死神」と「魂を司る死神」

そしてもう1つは、「ただの死神」

ただの死神は神機を用いて死神化し、怪異や死神•魔族を狩ることに特化した能力を持つ



「死神化なしで戦え」


「無茶言うなよ!ただでさえ神格制限されてんのに!」



ただの死神には神格という、神が持つ力が備わっている

それは元々死神というのが「ただの死神」しか存在しなかったということを示すのだ

ただの死神は神の中の1柱である

だからただの死神には神の力•神格が備わっているのだ



「神格は好きに使えばいい」


「だからー!俺の意思でどうこうできるもんじゃねぇんだって!」


「行け」


「えー…」


「深夜勤務手当」


「行きます」


「「「「現金な…」」」」



呆れたようにため息をつく久遠たち4人

普段はこの4人で「桜坂四重奏」と呼称されるが、ここに一樹が加わると「夜桜五重奏」と呼ばれるようになる



「で、具体的にどうすんの?」


「とりあえず私を探す感じかな。目撃情報探る感じで。私は上から探すから、一樹が北区、莉琉が西区、翔が南区、舞莉が東区を聞き込んできて欲しいの」


「なんで謹慎中に呼び出された俺が何気に大変な北区なんだよ!」


「私が私見ませんでしたかって聞くのおかしいでしょうが!私も霊術で探すんだから頑張ってよ!」



霊術はほとんどの人間がやり方さえわかれば使えるものだ

死神は3種類全てがよく使っているものでもある



「ったく…。見つけたら無線でいいんだな」


「うん。一回オープンラインで報告して。そのあと気合いでそっちに集合して捕まえる」


「お前来ちゃダメだろ。ドッペルゲンガーなら死ぬぞ」


「死神だからね、こんなんでも。死にはしないよ」


「…知らないんだな」



全員が出撃の準備を終え、一樹以外は神機を持って外に出た

翔、莉琉、舞莉がそれぞれ指定された方角に足を運ぶ中、一樹は久遠を呼び止めた



「久遠」


「なにさ」


「一応言っておくが、ドッペルゲンガーに会えば死ぬぞ」


「だから私は死神で───」


「俺も昔それで死んだ。不死性のおかげで蘇ることはできたが、死ぬ時の苦しみは夜斗のフルスイング金属バットを腹部に食らった時より辛い」


「え、あれより酷いの?」



一樹と久遠が遠い過去に喧嘩した時、夜斗がキレて金属バットを持ち出した

それをそれぞれの腹部に向けてフルスイングして臓器をことごとく破壊したことがある

その時の苦痛でさえ当時の久遠には絶叫ものたったのだが…



「あんなもんじゃない。本当に蘇れるのか不安になるんだ。例えば腕を切られても俺たちは再生する。けどドッペルゲンガーに会った時に起こる死は、重力で圧殺されるような感覚に近しい。気をつけるんだな」


「…おっけー。ありがとう」



久遠は高所へ、一樹は北区に向けて走り出した

一樹は神機がない分ほとんど人間レベルのスペックしか出ないが、それでもギネス記録は狙える速度が出ている

久遠は肉体はほとんど母親譲りであり、死神化できるのは半身といっても過言ではない

その分空は飛べても走るのは遅い

これが2人の力の違いだ

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