第2話
「え?私を見た?」
久遠は持っていたパンを取り落として聞き直した
目の前にいるのは紗奈の従者であり同じ仕事をする神楽坂翔と神楽坂莉琉
この2人は兄妹だ
「だぁかぁらぁ。昨日の夜お前が討伐に言った直後部屋に入ってきて手紙を置いてったんだってば。覚えがないのか?」
「まぁ確かに久遠にしては女の子って感じだったわ?女子力では負けてるわね」
「勝ちたくないなぁそのジャンル」
久遠は苦笑しながらテーブルに落ちたパンを拾い口に入れた
この店のパンは美味しいとネットで評価がたかく、流行に敏感な莉琉が行きたいと言って聞かなかったのだ
「つーかそうじゃなくても最近桜坂邸で久遠がフッと現れて、声をかけたら消えたなんて報告が後を絶たないぜ?」
「まぁ確かにねー。「頼まれてた物です」って言って女性服出された時はその人2時間説教したけどそういうことなのかなぁ」
「となると、おそらくドッペルゲンガーですね。兄様を真似する気概が知れませんけど」
「ちょっと舞莉どういうことかなぁそれ?」
一同に笑いが起きる
久遠はちょっと不服そうではあるが
「ただ、討伐依頼には上がってきてない。考えられるのは本来のドッペルゲンガーじゃないってことだ」
ドッペルゲンガーは大抵の場合、数多の人になりすまし情報を集め、人間関係を崩壊させるのを目的としている
その結果発生する絶望や悲壮を妖力へと変換し生き永らえるのだが
「久遠にしか化けないなんて有り得ない話だわ?」
「それもそうですね。ドッペルゲンガーとは別の怪異でしょうか」
「それ以外だとちょっと該当怪異がわかんないかなぁ。もう少し聞き込みが必要かも」
全員がパンを食べ終え、会計のためレジに移動する
そして応対した店員を見て驚きの声をあげかけた
「ありがとうございまーす。ってなんだ、お前らか」
「え…主…?」
「よう。今はアルバイトだ。天音の店でな」
天音というのは霊斗の幼馴染だ
とは言っても夜斗と霊斗も幼馴染であるため、かなりの付き合いがある
「え?天音ちゃん店長なの?」
「ああ。レイン•アカツキ•ブラドって覚えてるか?あいつの持ってる店の1つでな」
「レイン?霊斗の従姉の?」
「そうそうそいつ。天音に職場を紹介してもらったんだよ。依頼があっても
夜斗の今の立場は民間企業の社長、ということになっている
しかし実態としては公安部第零特務機関独立機動部隊というところの所属ではあるのだが、その部隊は基本的に夜斗が非常に暇になる
そのため夜斗はよくこうして街にバイトとして出てきて情報収集を行っている
「ほーらー夜斗!手が止まってるよ!」
「悪かったなコノヤロウ…。はい合計で2350円になります」
「あ…カードで」
「はーい。ってこれ公安部のカードだろ。経費につける気か?」
「一応会議だからね」
もう既に久遠以外は外に出ており、翔はタバコを吸い始めていた
入り口から少し離れたところに喫煙所があるのだ
「そーか。こちら領収書になりまーす」
「あ、ありがとうございます…。ってそんなことより!どっかで私見なかった?」
「…は?今目の前にいるが…」
「そうじゃなくて!」
「…見たぞ。グレイプニルの中で半透明のお前が何か呟いてた。声をかけたら消えたけどな」
「やっぱり…!ありがと!!」
走って出ていく久遠の背中を眺め、天音にまた怒られ動き出す夜斗
そして手の中に領収書を握ったままであることに気づき、それをポケットにねじ込んだ
「全く…落ち着きのない奴だな、相変わらず…」
「あれ?さっきの久遠?」
「ああ。なんかバタバタしてたな」
「昨日も来てたけどそんなにハマったのかな」
「…え?昨日は怪異討伐に行ってたはずだぞ?何時ごろだよ」
「えー…。15時くらいかなぁ。なんかフラフラしながら1人できて、結構な量一瞬で食べて満足そうに帰ってったけど」
「…どうやら一波乱ありそうだ」
夜斗はため息をついて喫煙所で興奮した様子で話をする久遠に目を向けた
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