ラブレターの幽霊 〜頑張る君へのエール〜

夏まつり🎆「私の推しは魔王パパ」3巻発売

ラブレターの幽霊

 わたしはこの学校で、〝ラブレターの幽霊〟と呼ばれている。

 理由は、下駄箱の中や机の中に、こっそり手紙を入れるからだ。


 何十年も前に誰かがわたしのことをそう呼んで、先輩から後輩へ伝わり続けるうちに定着してしまった。

 わたしの手紙は〝Love〟じゃなくて〝Like〟を伝えるものだと思ってるんだけど、訂正しようとしても変わらなかったから、もう諦めちゃった。


 夜、生徒も先生もみんな帰ったのを確認して回ってから、目当ての下駄箱を開ける。

 あちこち絵の具がついて汚れた上履きの上に、書いてきたばかりの手紙をそっと乗せた。


 使った紙は、宛先の女の子の机にあったルーズリーフを一枚だけ拝借したものだ。

 人間だったら窃盗になるかもしれないけれど、わたしは幽霊だから捕まることはない。

 それに、幽霊には便箋なんて買えないからね。ノートから一ページを拝借するくらい許してほしい。


『こんにちは。

 君が毎日美術室に残って書いてた絵、すごく素敵だね。

 空も海も澄んでいて、とっても綺麗。

 絵の中の白い鳥はどこまで行くのかな。

 ずっとずっと先まで飛んでいけそうで、わたしもあの鳥になりたくなったよ』


 たったそれだけの短い手紙。

 ただの感想だけど、どうしても伝えたかった。


 この学校の敷地から出られず、いつも学内をうろうろしているわたしは知っている。

 あの子が、毎日遅くまで一生懸命絵を描いていたこと。

 何度も何度も描き直して、特に白い鳥の位置や羽根の向きを試行錯誤して、やっと仕上げた作品をコンクールに出したこと。

 そのコンクールに落選して、今日は泣きながら帰ったこと。


 全部知ってる。

 ずっと見てたから。


 コンクールは駄目だったかもしれないけど、わたしはあの絵が好きだよ。

 どうかこの気持ちが、あの子に伝わりますように。


 下駄箱を閉じて、念のためあたりを見回してみる。

 うん、大丈夫。誰も見てない。

 皆が帰ったのを確認してからここに来たから、学校内に人間がいないのはわかってるんだけど、幽霊仲間に見つかるのも恥ずかしいからね。


 さて、今日の手紙は出し終わったし、朝まで星でも見ようかな。





(終)




***


 カクヨムの自主企画「ラブレターをあげるお話、書いてみませんか?」参加作品。

 絵でも小説でも、作品に対する感想って、読者から作者へのラブレターみたいだなって、時々思います。


参加させていただいた自主企画:https://kakuyomu.jp/user_events/16816927859966483097


このお話のイメージで書いたイラスト:https://kakuyomu.jp/users/matsuri59/news/16816927860171527452

https://kakuyomu.jp/users/matsuri59/news/16816927863241608989

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