ケツァルコアトル

 ケツァルコアトル(quetzalcoatl)は、アステカ神話の創造神で、風や農耕を司ります。名前は「羽毛の生えた蛇」という意味を持ちます。チョルーラの主神です。

 ユカタンのククルカン、グアテマラのグクマッツと同一視されています。同一の存在かどうかは断言できませんが、テオティワカン遺跡でも羽毛のある蛇の神殿がありました。大規模に生贄が捧げられていたことから、この時代には多くの信仰を集めていたことが伺えます。


 他の神々同様よく世界を滅ぼします。しかし、人類再創造のためにミクトラン(冥界)に骨を拾いに行くエピソードや、人間の体も持っていたという逸話により、現代だと色々と設定が付加されてほぼ別物になっている神として有名です。


 外見は、太い縦縞模様に塗られていることが多いです。色は黒、緑。黄色など様々です。口の周りを赤く塗っていたり、灰で顔を含めた全身を塗っていたりすることもあります。髪色は黒髪と金髪どちらも見られ、アステカの神にしてはそこそこ珍しく髭が生えています。同一視されるケツァルコアトル王は、複数の資料で化物じみた容姿をしていたという記録があります。

 怪力設定あり。しかしどこの資料だったのか忘れました。

 人間形態の他にも羽毛の生えた蛇の姿もあり、その場合は人間を丸呑みしています。絵文書では人間形態が頻出ですが、彫像やレリーフの場合は蛇の姿で描かれていることがほとんどです。


 円錐形の帽子と嘴のような仮面(風を象徴)を身に着け、先端が渦巻いている杖エエカウィクトリを持ち、盾には首飾りと同じ輪切りの貝があしらわれています。上半身の衣服は人間の肋骨を連ねて作られ、他の神々との識別は容易です。


 金星の神トラウィスカルパンテクトリ、トルテカの神官王セ・アカトル・トピルツィン・ケツァルコアトルと同一視されます。アステカではないウィーン絵文書にも似たような神が存在しています。


 

 ケツァルコアトル王は同一視されると書きましたが、必ずしもそうとは限りません。別存在であることもあります。そして、必ずしもテスカトリポカなど他の神と対立しているとも言えず、関係性は資料によってばらばらといえます。セ・アカトル・トピルツィン・ケツァルコアトル王の他にもウェマクという王もケツァルコアトルの称号を持ちますが、こちらは同一視されることはないようです。


 チマルポポカ文書という資料ではケツァルコアトル王は狩猟の神ミシュコアトルとチマルマンの間に生まれます。出産の際にチマルマンは亡くなってしまい、ミシュコアトルもその兄達に殺害されます。復讐として伯父達を殺して生贄にしたケツァルコアトルは各地を旅し、最終的にトラパランという土地で病死します。

 チマルパイン文書だとチマルマンは翡翠を飲み込んだことによってケツァルコアトルを産んだことになっています。ウィツィロポチトリと同じ(というかこっちが元ネタ)処女懐胎ということですね。


 一昔前までは、テスカトリポカによって呪いの酒を勧められ、酔った勢いで妹のケツァルペトラトルと同衾したことで「一の葦の年に帰ってくる」という予言を残し、トルテカを去って焼身自殺したという話が主流だったようです。

 実際のところ、それは複数の伝承を繋げたものです。


 クアウティトラン年代記では、二人の神に勧められ、姉のケツァルペトラトルとともに酒を飲んでいたところ、神官の義務を果たさずに朝になってしまったようです。アステカでは酔っぱらうのは恥ずべき行為だとされていました。

 フィレンツェ絵文書の場合も大体は同じなのですが、酒を勧めるのが老人に変身したテスカトリポカであることと、ケツァルペトラトルが出てこないことに違いがあります。

 アルバ・イシュトリルショチトルの記録によるとキリスト教徒という設定で、キリスト教を広めることに失敗したためアステカの地を去ります。その際に、一の葦の年に帰還するという予言を残しました。

 綺麗にまとめるために資料を混ぜたのでしょうか?


 絵によるメキシコ人の歴史では人間のケツァルコアトルと神のケツァルコアトルは明確に別存在とされています。

 ケツァルコアトルは、ウィツィロポチトリに神話上の役割を奪われていて創造神の一柱におさまっています。ウィツィロポチトリと原初の太陽を共同で創造した以外に目立った活躍はありません。原初神であるトナカテクトリとトナカシワトルの間に生まれた四兄弟の三男で、ミシュコアトル、テスカトリポカ、ウィツィロポチトリの兄弟です。


 アステカ神話上の重要なエピソードとして、太陽の座を神々が交代する伝説があります。

 第一の太陽となったテスカトリポカを棒で殴って水に落としケツァルコアトルは第二の太陽になりますが、怒ったテスカトリポカはジャガーに変身して住んでいた巨人を全員食い殺しました。雨の神トラロックが第三の太陽となった際に、ケツァルコアトルは火の雨を降らせてその世界を終わらせています。第四の太陽はトラロックの妻チャルチウトリクエで、洪水によって滅びます。現在の人類が暮らすのが第五の太陽ですが、いずれ滅ぶ定めにあります。


 フィレンツェ絵文書では五番目の太陽を創造する際に他の神を生贄にする役割をこなします。ショロトルという神が生贄になりたくないと目玉が飛び出すほど泣いて逃走しましたが、結局捕まって生贄になりました。別資料なので他の資料でどうなったかは分かりません。混ぜると神々の系図がややこしいことになります。

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