第10話由香と再会

計画の前日、こんな夢を見た。

由香と僕が付き合っているという夢だ。その時僕はとても幸せだったと思う。


夢は記憶を整理するためだからなのか、それともただ能力の影響なのかわからないが、夢の中で由香は


『私、強い人が好きなんだよね』とそう言っていた。


それは夢から覚めて気づいたのだが実際に、昔にもはそのセリフを言っていた。僕が見たのは夢の中の記憶だった。

由香が健二を好きになったのもそういう理由からなのかもしれない。


健二より強くなれば由香は僕を好きになってくれるのだろうか…そんなことを目が覚めてから思った。だがそんな感情は今はない。由香と今、顔を合わせて僕を健二と一緒に笑った由香を思い出した。そうか、僕はもう由香が好きじゃないんだな…


『あなたもしかして…加代陸?』


ハッとした。今僕はピンチだ。あと数秒で由香を追いかけた健二が駆けつけてくるだろう。そうしたらおしまいだ。さっきの話は嘘だったとバレるに決まっている。そして僕は健二に殴られるんだ…


能力も5分経った。さらに使ったら体に影響が出てしまうだろう。


『…うん。』


動揺してそのまま認めてしまった。由香と僕に気まずい時間が流れる。

マスクをして顔を隠していたのも大きいが、目が赤くて、口調も能力のおかげで変えることができた。それで気づかれなかったが、今はもう無理だ。


『加代陸がさっきの男だった…老人もこいつの仲間なの…?』


由香は少し思案し、計画の全てを悟ったようだった


『何しにきたわけ?仕返しのつもり?』


由香が強い口調でそう放つ。


『きついなぁこたえるよ。一度惚れた女にそんなこと言われると』


そう言うとちょうど、健二が来た


『お前、加代陸じゃねーか。さっきの若い男はお前だったのか…意味わかんねぇどう言うことだ…』


健二が少しの間迷う。こいつの脳みそではこの状況を理解するのに時間がかかるらしい


そうして由香が言った


『健二!こいつは私たちを騙して金を取ろうとしたのよ!』


『なにぃ?そう言うことか。へぇお前がそんなことするなんて生意気だな』


健二が拳を握りしめる。どうやら僕を殴るつもりらしい。


おわったな、何もかも…

手伝ってくれた東進や夏美に申し訳ない…


すると女性警官がこちらに近づいてきた。


警官は、女性用のポリス帽を深く被り、目元がよく見えない。

せめて今、ここで殴られたらこいつは警官に怒られるだろうな。そんなことを考えていると由香が警官に気づいたようだった。


『健二!あれを見て、今ここで殴ったら確実にめんどくさいことになるわ』


『そうか、あぶねぇな。それより警官がなんの用だ』


『君達、先程のやりとりを見たんだがペットを売買していたね?』


女性警官が高圧的な口調で言った。女性といえども、だいぶ怖い。相手に隙を見せない工夫のようなものを感じた。


『あぁ、それが何か問題か?』


健二は警官への対応に慣れているようだ。警官の圧にも全く怖気けづいていない


『君、動物営利資格はあるのか?無登録営業ではないのか?』


警官は僕に向かって言った


『い、いや持ってないです』


『それは違法だぞ!署まで来てもらおうか』


『え、そんな…』


完璧に終わった…まさかこんなことにまでなるなんて…


『警察官さん!私たちそんなこと知りませんでした!そんな人から買いたくありません。お金は戻ってきますか?』


違法という言葉を聞いて、知らなかったとは主張すれば買い手は罪に問われないと考えたのだろう。この短時間でその発想とは由香はなかなか頭が切れるな


『わかってる。そういうケースは多いからな、署にきてもらうのは君だけで結構。そして当然返金されるよ、違法な取引は無効になるからな。』


こうなれば僕も反論するしかない。


『警察官さん、僕だってそんな法律知らなかったんだ!初犯だし、見逃してくれよ』


『だめだ。話は署で聞こう。それに嘘をつくと、罪は重くなるぞ』


警官の言葉を聞いて健二が笑いなから言った


『お前ついに犯罪者になるのかよ。ざまぁねぇなちゃんと金は返せよ。』



『とにかく来てもらおうか。君達もう帰っていいよ』


『そんな、嫌だ!行きたくない!』


『お前の哀れな姿を見ていきたいが、俺らも帰るとするか。なぁ由香?』


『うん!あんなやつ放っておきましょ』


僕の時と比べ、由香は健二に対してはとても甘い口調で話していた。もうえっちはしたのかな。なんてことをこんな状況で考えてしまった…


『ほら、いくぞ』


警官が無理やり腕を引き、僕を連れて行こうとする。


もう諦めるしかないな、東進や夏美には悪いけどこの計画は失敗だ。


しばらく歩いて連れて行かれた。健二や、床とはかなり距離ができただろう。


『夏美…ごめんな…』


と呟いた


すると、警官がニッと笑ってこちらを向いた



『ぷっ何が夏美ごめんなってなに?そんなに私のこと思ってくれたの?』


そう言って警官が目元を隠していた帽子を外してこっちを見た。夏美だった


『夏美!助けてくれたの?』


『まぁこんなこともあろうかとね。それにあいつら馬鹿だよねぇ。警察手帳も見せてないのにしっかり信じちゃってさ』


『それは…僕も同じだよ。それよりそういうつもりだったんだったら早くて言ってよ。僕、めちゃくちゃ怖がっちゃったじゃん!』


笑いながらそう返した。


『だって、加代陸、演技力ないんだもん。私だって気づいたらきっとあいつらにも気づかれちゃってたよ?』


『確かに…夏美!すごいなぁ!』


そう言うと夏美はにんまりと笑った。


『まーねぇー。それじゃ東進と合流しようか。』



夏美は褒められたのが嬉しかったようで、終始機嫌が良い。


『夏美、なんでずっとニヤニヤしてるの?』


多分それを聞いた時の僕の顔はニヤニヤしていただろう。


『うるさいなぁー早く東進と合流しに行くよー!』


『っていうかその服どうしたの?』


『コスプレだよ。ドンキホーテで買ったの』


警官のコスプレ似合ってるなぁ…普通に可愛いかも。それを言おうかと思ったが、なんだがキモがられそうなのでやめておいた


頭身のところへ歩いてる途中、周りの人にチラチラ見られた。そりゃあそうだ。はたからみれば警官と一緒にいるのに楽しそうな男とその男と話している若い女性警官だもんな。

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