10話.[楽しかったけど]

「はぁ、あんた達と海に行けば良かったわ」

「そんなに楽しくなかったんですか?」

「楽しかったけど、お母さんの相手をするのは大変なのよ」


 彼女達からすれば奇麗な状態の母しか見たことがないから分からないだろうが、あっちに行ったりこっちに行ったりととにかくじっとしていられないのだ。

 振り回されるのは家族である私だけ、もっと仲良くなれれば彼女には同じようにし始める可能性はゼロではない。


「つか、海に行ったのなら水着ぐらい着たのよね?」

「え、普通に私服でちょっと遊んだだけです」

「はぁ、若い女がそれでいいと思ってんの? なんか心配になるわ……」


 いつもハイテンションな彼女にしてはおかしな行動としか言いようがない。

 大体、遊びに行こうと真陽を誘っておきながら日焼けを気にするってどういうことなのよと文句を言いたくなる。

 行けなかったから嫉妬して面倒くさい絡み方をしているとかではない、むしろその内容に嫉妬できる人間がいるのなら見てみたいぐらいだった。


「わがままを言わなかった私を褒めてくださいよ」

「ん? もしかして私がいなかったからってこと?」

「はぁ、ため息をつきたいのはこっちですよ……」


 なんだそりゃ、毎日こうして家で一緒に過ごしているのにまだ足りないとは不思議な発言だ。

 普通は前よりも距離が近くなって、色々知って、これならこの前までの距離感の方が良かったなとなりそうだけどね。

 ちなみに彼女が家に住むようになってから特になにかが起きたとかそういうことではないため、私的にはこのままでいいというのが感想だ。


「あなたは私の彼女なんですよ? 最近は真陽ちゃんといすぎてそれを忘れていませんか?」

「忘れるわけがないでしょ、それにね、仮に私がいなくたって相手が真陽なら普通に楽しめるでしょうが」

「それはそうです、でも、あなたがいればもっと楽しめるんですよ」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど……」

「お世辞とかじゃありません、私も真陽ちゃんもあなたを求めているんです」


 本人がこう言ってくれているのだから違うとか勘違いとかそういうことは言わなかったものの、そこまで私のことを気にして楽しいのかと聞きたくなってしまった。

 だって全然自由に楽しめていないことになる、私はよくても相手がそんな状態であればそれは普通に嫌なことだと言える。


「分かった分かった、今度はちゃんと付き合うからその顔やめて」

「ふふ、分かりました」

「まあ、やっぱりあんたはその方がいいわ」

「はい、私もそう思っているのでこのままでいますね」


 これからもちゃんと吐かせていこうと決めた。

 こっちばかりが楽しめたってそれはいいことだとは言えないからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

100作品目 Nora @rianora_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説

104作品目

★0 恋愛 完結済 10話

101作品目

★0 恋愛 完結済 10話