06話.[損はないでしょ]
「やっぱりそうだったんですか」
「なんかごめん、あんたが本気になったら勝てないと思って」
「何回も『勘違いしないでくださいね』と言っていたじゃないですか」
「ごめん……」
どう行動しようが結局ださい人間だった、真陽や璃香の方がよっぽど年上のように見える。
ちなみにださい人間は謝罪ができたことでスッキリできたわけだが、かわりにふたりは嫌そうな顔で見てきているだけだった。
一応、前にも言ったようにふたりのことを考えて行動したのにこれでは……。
「私にとって璃香ちゃんはお友達でありライバルなんです、そういう関係になったりは絶対にありませんよ」
「そんなの分からないじゃない、最初は友達だったのに、ライバルだったのに、となるかもしれないじゃない」
「そもそも私が璃香ちゃんを好きになっても璃香ちゃんの意識は島先輩に向かっているんですよ? 悲しい恋をしろと言いたいんですか?」
「……別にそんなことは言ってないけど……」
「同じです。はぁ、島先輩は悪く考えすぎなんですよ」
一年生の後輩にため息をつかれる三年生ってと、本気で傷ついた。
もう余計なことは言わずに黙っておこう、それこそ彼女と同級生である彼女が黙っているのだからそうするべきだ。
「何回も言うと本気にしますからね?」
「あ、それはちょっと……」
「じゃあ言わないでください」
やたらと冷たい顔だった、正直、怖くなったぐらいだ。
璃香には明るいままでいてもらいたい。
「まあまあ、そんなに怖い顔をしないでよ」
「……そうだね」
止める側ではなく止めてもらう側なのも問題だった、そういう暴走を止めるのは私と真陽の役目だろう。
なのにこの結果だから微妙な気持ちになる、多分、気にすれば気にするほど悪くなっていくことだから気にしないでおくことにした。
「それよりさ、そろそろお泊り会をしようと思っていたんだよね」
「「お泊り会?」」
GW初日にしたことは忘れてしまったのだろうか? まあ、泊まりたいということなら自由に泊まってくれればいいけど。
誰かがいてくれるとありがたい、特に食後なんかは一番寂しくなる時間だからそういうときにいてくれたらね。
「もう二ヶ月になるんだから私か真陽ちゃんの家で開催しようかなと思いまして」
「私はひとりで自由だからいいけど、あんた達のご両親的に大丈夫なの?」
「私の方は聞いてみないと分かりません、そう言うということは璃香ちゃんのお家は大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、そうじゃなかったら言わないよ」
それじゃあ初めて璃香の家に入るということか、あ、いや、それだけじゃなくて泊まることになるわけか。
ご両親と偶然会ってしまって気まずいなんてことがある以外はふたりがいるだけだから問題にはならない。
「じゃ、私の家でいいですか?」
「私は構わないわ」
「私も、仲間外れは嫌だから」
「分かった、じゃあそういう風に話しておきます」
話も終わったから今日もまた外を見ておくことにした。
もう六月になるというところまできているから青空というわけではなかった。
いつ雨が降ってきてもおかしくない灰色で、今回はまた濡れるのは勘弁という気持ちでいる。
「島先輩」
「ん? どうしたの?」
「私、いつも優しく相手をしてくれるので璃香ちゃんのことが好きです、できればずっと一緒にいたいと思っています」
「うん」
だけどお互いに少しずつ変わっていったらどうなるのかは分からない。
他に優先したいことができるかもしれないし、なんてことはないことで喧嘩をして別れることになるかもしれない。
「まあ、璃香ちゃんはすぐにどこかに行ってしまうんですけどね。いまだってほら、すやすや寝てしまっていますし」
窓の外に意識を向けてから全く時間も経過していないのにどんな能力だろうか? もしかしたらどう楽しもうかを一生懸命考えた結果、なのだろうか?
多分、私にも真陽にもできないことを彼女はした、真陽の複雑そうな顔を見せてやりたいぐらいだった。
「もう、璃香ちゃんったら……」
「邪魔者は去るわ、一緒にいたくなったら放課後にでも来てくれればいいから」
静かな空間がちょっと苦手になってしまっている、あとはまあ、真陽とふたりきりは微妙だというのがあった。
普通に過ごしていても気になってしまう、璃香と過ごすことは悪いことではないのに申し訳なく感じてしまう。
だから学校では完全に譲るというのも悪くはない気がした。
自分のために、璃香としては真陽も大切なのだからまあ璃香のために、ね。
「はぁ」
もっと色々なことを気にせずに璃香といたかった。
でも、上手くやれてしまう自分を想像したらちょっと気持ちが悪かったからこのままでいい気がする。
いつでもなんでも自分勝手に行動しているわけではないのだ、必要以上に悪く考えて自滅する必要なんかなかった。
「すぐにどこかに行くのは郁美先輩なんだよなあ」
「あ、あの子のために戻ったのよ」
これもなんだかなあという感じ、放課後になった途端に部屋で、ねえ。
これだったらもう分かりやすく「私から璃香を取らないで」と言ってしまった方が気が楽になる気がする。
「はぁ、郁美先輩が言えないなら私が言いますよ?」
「……そんなこと頼めるわけがないじゃない」
「そもそも、私はもう既に郁美先輩が好きだと言ってあるんですけどね」
手に入らない存在だからこそ欲しくなってしまう、ということもあるのだろう。
初恋はまだみたいだからなおさら璃香が魅力的に見えてしまう可能性がある。
ほら、恋をしている人間は美しいとかそういうのがあるし、同性だって変えてしまう力はあるはずなのだ。
「大体、こんなことしておきながら変なところで譲るとかありえないですよ」
「そうね……」
「哀れんでいるんですか?」
「違うわよっ」
「じゃあはっきりすることが大切です」
言われなくても分かっている、今日の放課後は一緒に帰れなかったから言えなかったというだけの話だった。
いまはもう自分のためにはっきりしよう、このまま曖昧な態度を続けると本当に側から彼女が消えかねないから。
「あんたを取られたくない」
「大丈夫ですよ、郁美先輩ひとりに頑張らせたりしませんから」
「はぁ……、……なんで年上の私が嬉しくなっちゃっているんでしょうね」
「年上とか年下とか関係ないですよ、あと、勝手にそうやって距離を作らないでください。私はいつだって近くにいられていると思っているんですから」
こんなことの繰り返しだった、きっとこの先も同じようになると思う。
すぐに自分は変わらないし、きっとそれは彼女も同じだからだ。
「私達って絶対にこうよね、なにかがあったら家でさ」
「私達らしくていいじゃないですか、それに家だからこそ郁美先輩が頑固にならずに済んでいると思うんですよ」
学校とは分かりやすく違うから彼女の言う通りかもしれない。
大抵自滅しているのは学校にいるときだ、でも、頑固とかそういう風に言われるのはなんか複雑だった。
彼女達と関わるようになってから駄目な自分ばかりを見ている気がする。
「もういいわ、開き直って生きていくわ」
これが私なのよ、嫌ならどこかに行きなさいと言って生きていく、変わる気はないのだからごちゃごちゃ考えたところで仕方がない話だから。
幸い、このままの私を求めてくれている子がいるから信じて行動しよう。
「送るわ、雨が降るかもしれないから早く帰りなさい」
「む、そうやってすぐに――」
「はいはい、ちゃんと明日も相手をするから今日は帰りなさい」
自然とそういう関係を求めたくなるその日まで私達は変わらない。
返事待ちみたいなものだから彼女としては微妙だろうが、適当に言われた好きよりは自然と出た好きという言葉の方が嬉しいはずだ。
「あ、ちょっとこの後、真陽に会ってくるから」
「分かりました」
はっきりすると決めたのだからはっきりするだけ、こういうときに大人しく見送ってくれる彼女が好きだった。
「はい――あ、島先輩でしたか」
「真陽、璃香を取られたくないの」
「別にその言葉を引き出すためにしていたわけではないですが、やっと私にもはっきりと言ってくれて嬉しいです」
露骨に態度を変えたりしないとか言っておきながら真陽にだけしなかったことというのは多かったか。
「ささ、上がってください」
「え? あ、ちょ」
言いたいことを終えたから今度は彼女の言いたいことを全て聞いてから帰るつもりだった自分だが、何故かそういうことになってしまった。
一応、こっちのところにも来てくれる子だから違和感というのはないけどね。
「前も言いましたけど璃香ちゃんはライバルなんです、私は璃香ちゃんにだけは負けたくないと思っています」
「うん」
「でも、テストの結果でも分かりやすく差を見せつけることができませんでした、私はなになら璃香ちゃんに勝てるでしょうか?」
「んー、いつでも慌てずに対応できる能力とか?」
「それにしたって璃香ちゃんも常に冷静ですよね、あなたの前でだけではなく私といるときだってそうです」
改めてそうやって聞くとなんかあの子ってすごいな、こっちは不安定になってばかりだからなおさらそのように感じる。
「分かった、あんたのいいところは常にフラットな状態でいられることよ。止めるだけじゃなくて積極的に意見だって出せるでしょ? そういうところいいと思うわ」
少し早口になってしまった、無理矢理感が出ていないだろうか?
聞くのは怖いから喋ってくれるまで待っていたら「はは、それは璃香ちゃんも同じですけどね」と言われてしまった。
「じゃあこう考えればいいじゃない、璃香と同じということは自分も負けていないんだとね」
「あ……」
「スポーツの試合じゃないんだからもう少し緩い感じでいいのよ」
「確かにそうかもしれません」
それか私を見て「この人みたいに負けてないからいいか」と終わらせるかだ。
まあ、それだったら前者の方がいいから真陽が選ぶことはないだろうな。
自由だからそれ以上偉そうに言うことはしなかった。
「島先輩っ、今日も私が来ましたよっ」
「璃香の真似? 無理しなくてもあんたはあんたでいいのよ」
「……どうせ璃香ちゃんには勝てませんよね」
「ああもう、そんなこと言わないの」
構ってあげたくなる存在だった。
こういうときは頭を撫でて戻そうとしているが、繰り返していく度に若干の申し訳無さというのを感じるのはちょっとはっきりした後だからなのだろうか?
「そろそろ郁美先輩と呼んでも――」
「それは駄目だよっ」
「なんだ、璃香ちゃん来ちゃったんだ……」
こういうことも増えた、煽る? ようなことをしてしまうのだ。
このふたりが仲悪くなったら嫌なので、その度に止めるという繰り返しだ。
これは止められる側だったちょっと前を考えればいいことではあるけど……。
「島先輩はちゃんと私の相手もしてくれているだけだよ? もしかしてこの時間すら取ろうとしているの?」
「うっ、わ、私はただ……」
「どうせ放課後になったらお家で抱きしめたりとかしているんでしょ?」
「そ、そんなの分からないじゃん」
「翌日のテンションで分かるんだよね、璃香ちゃんってちょっと分かりやすいから」
止めてもまた始めるからどうするべきかと悩むことになる、不満があるなら全部吐かせた方がいいと考える自分もいるからだ。
そのうえで一緒にいられるのであれば相性はいいということになるが、これもじゃれ合っているだけだと考えればいいのだろうか?
「いいなあ、頭を撫でてもらえるのも嬉しいけど抱きしめてもらいたいなあ」
「い、郁美先輩がいいならいいんじゃない?」
私としては満足できるのなら構わない、が、何故か受け入れたら璃香に怒られた、それなら嫌なら嫌とそこでもはっきり止めるべきだろう。
「こんな感じよ」
「え、いいんですか? 思い切り璃香ちゃんが怖い顔をしていますけど」
「私がいいならいいと言ったのはこの子でしょ、私としては全然構わないから」
止めていたらこっちだってわざとするようなことはしなかったが、まあ、実際はこうなのだから気にする必要はない。
……ぺちぺち攻撃してきて面倒くさいから今日も一旦離れることにした。
「最低です、郁美先輩は私を弄んでいるんです」
「はいはい」
「もう!」
今日は雨が降っているから彼女にはこのままハイテンションでいてほしかった。
静かになってしまうとどんよりとしてしまうから必要なことだと言える。
そうやって頑張ってくれたらこっちだってなにかをしようと行動できるからいい。
そういうのがないとなんか恥ずかしいから仕方がないのだ。
「結局まだご褒美もあげてないしね、あんた考えてあるの?」
「もう出ていますよ、でも、まだこれをぶつけるのは違うので」
「言ってみなさいよ、私にできることならするから」
「住みたいです、って、言わせておきながらそんな顔はやめてくださいよ!」
鏡がないからどんな顔をしているのかは分からない。
でもそうか、付き合うことよりもそれを彼女は望むのか。
実現させるためには私の両親と彼女のご両親と話し合う必要がある。
彼女に言わせるのは違うからこっちが全部しなければならない、はぁ……。
「分かったわ、じゃあ今日あんたの家に行くから」
「え、もう……ですか?」
「言っておいて損はないでしょ」
言っておけば急にそうしたくなってもすぐに動けるから、という考えだ。
仮に許可されたとして、住み始めるのは夏休みとかからでも構わない。
まあ、そんなに簡単にはいかないだろうが、聞いてみなくちゃ想像することしかできないのだから意味があるだろう。
「許可されなかったら悪いけどこの話はなしね、そのかわり他のしたいことを聞いてあげるから安心しなさい」
「え、そんなのルールを破ってしまっているじゃないですか」
「私とあんたの間で交わされたことなんだからそんなのどうでもいいの」
許可されなかったのにご褒美として終わらせてしまうのは駄目だ、私としても気になるからそんなことにはできない。
頑張った結果なのだからもっといい感じでなければ駄目なのだ。だからまあ彼女としてもそう不安にならなくて済むはずだった。
「真陽のところに戻るわよ、待たせて――今度はどうしたのよ?」
ふたりきりのときは分かりやすく甘えたりしているのだから焦る必要はない。
あまりするべきではないが、私は○○をしてもらっている、そういう風に考えて安心させるのもひとつの手かもしれない。
「……郁美先輩のせいですから、常に私の中の気持ちを煽っているようなものですからね? だから本当は、あなたは真陽ちゃんと同じなんですよ?」
「真陽と同じって、別にからかったりしているわけじゃないのになんでよ……」
「無自覚ならもっと質が悪いですよ」
難しい、同性が相手でもこうなのだから異性の相手をすることになったらきっと常に分からないと呟くことになりそうだ。
恋をしているからこそだということなら、彼女が特殊なだけで関係ないのかもしれないけどね。
「いいから戻るわよ」
「……ちゃんと相手をしてくださいよ?」
「するって、私があんたといたがっているんだから」
不安になってしまうということなら何度も言おう、言う度にこっちの中のそういう気持ちも大きくなるから悪くない。
できれば年上として不安にさせないように頑張れればいいが、頑張ろうとすると空回りして自滅しそうだから無理はしないことにした。
まあ、放課後はそんなことも言っていられないから頑張らないといけないけど。
「おかえりなさい」
「真陽が年上ならよかったのにと考えるときはあるわ」
「え、それだと甘えられなくなりますから嫌ですよ」
……毎日甘えている人間としてはいまの言葉で突き刺されることになった。
ま、まあいい、甘えたいのに素直になれないよりはマシだと考えておいた。
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