04話.[ずっと待ちます]
「誘っておきながら、受け入れておきながらあれだけど、GW全部いたけどご両親になにかを言われたりしていないの?」
「はい、むしろ『お友達と過ごせた方がいいから』と母は言ってくれています。父はなにも言ってきませんので分かりませんけど、多分、母と同意見だと思います」
彼女は頬を掻きつつ「文句があるなら黙ってはいないと思いますから」とも重ねてきたが、確かにと納得することしかできなかった。
父親がわざわざ母親経由で頼むわけがない、というのは偏見だろうか? 私の父はそんな遠回りのことはしないからどうしても父像というのは父基準になってしまう。
「真陽はもう帰っちゃったけど、あんたがいてくれるから寂しくならずに済んでいるわ。だからありがと、まあ、なにか我慢しているということならやめてほしいけど」
「我慢していますよ? 郁美先輩の首筋を見ていると噛みつき――あ、ちゃんと相手をしてくださいよー」
彼女はともかくとして、GWは勉強をいっぱいすることができたから珍しく満足感や達成感が得られた時間となった。
私と同じように始めてたった三十分ぐらいで「もう休憩でいいですか?」とか言っていた彼女的にはどうなのだろうか?
別にこの間だからこそできたことというのはない、彼女だってこんなことを言っておきながら抱きついてきたりまではしないから分からない。
「はい」
「え? 両手なんて広げてどうしたんですか?」
「ふふ、あんたを試しているの、あんたは抱きしめたりとか――早いわね……」
「我慢しているんですよー、勘違いしないでください」
そういうことらしいからこの話は終わらせた。
もう自分がそういう風に動いていようが全く構わなかった、私は璃香や真陽とこれからも一緒にいたい。
こうしてさせたいことをさせておけば彼女が来てくれるということなら、誰かがいるところで以外はしてきたってよかった。
拒んでいないのだからできるだろう、もしできないとか言い出したら言い訳をするなと言わせてもらうつもりでいる。
「それにしても、本当に帰ってこないんですね」
「無理よ、ちゃんとGWがあるような会社でもないから」
母は父のことが大好きすぎるから離れて帰ってきたりはしない。
まあ、専業主婦だからこそできることだ、そうでもなければ他県で働き場所を探すなんて大変すぎる。
「どうですか? 私が仮にここで住んでも大丈夫そうですか?」
「泊まったのは初日だけじゃない、まだまだ分からないわよ」
「今回はどうでした? ちなみに私は早く住みたいという感想になりましたけど」
「……あんたなら悪くないかもね、一緒に転んで適当に話すだけでも楽しいし」
言ってしまえばもう裸だって見られているわけだから情けないところを見られたとしても恥ずかしくな――いやまあ恥ずかしいが、まあ裸に比べればという話だった。
私らしくいるということがちゃんとできている、仲良くするために無理をしているとかではないからこれからも続けられる。
不安になりがちな私でもこういう風に自信を持って行動できるのだから相性というのは悪くないのかなと考えていた。
「でも、頑張って我慢します、あなたから誘ってもらえるまではずっと待ちます」
「もし誘わなかったら?」
「友達ではいさせてもらいますから」
「はは、それならよかったわ」
断ったら去ると分かっていたら断ることなんてできない。
ああ、彼女としてもそれだと私の意思でしているとは思えないからか。
馬鹿なことを聞いたことになる、もうちょっとこういうところはなんとかしたい。
「とりあえずテストを頑張りましょう、テストが終わったらまたお泊りしたいです」
「分かった」
「あとご褒美、ちゃんとくださいね」
「それは前も言ったようにあんたが考えなければいけないことよ」
「はい、それじゃあいっぱい考えておきます」
それにばかり集中されても嫌だから勉強を頑張った後にしてと言っておいた。
まあ、理由がどうであれそのために努力できるのだからいいだろう。
連絡先を交換するのもそのときでいいと終わらせておく。
いまそういうのを得てしまうと絶対に集中できなくなってしまうから駄目だった、今回の件であんまり集中力がないということも分かってしまったからなおさらだ。
「それじゃあこれで帰ります」
「送るわ」
「ありがとうございます」
もう夕方だから早い解散時間というわけでもなかった。
彼女の家に着いて「それじゃあまた明日からもよろしくお願いします」と言われたときに止めたくなったが言うことはしなかった。
風邪を引かないでとかそんな普通のことだけを残して帰路に就く。
多分あれだ、どういうつもりでいてくれるのかが他者と比べて分かっているからこそなのかもしれない。
だから私も不安にならずに「璃香」と呼んで近づけるのかもしれない。
だけど一緒にいることが当たり前になったせいで当たり前のようにひとりになったときに物凄く寂しくなるようになってしまった。
その点だけはいいことだとは言えなかった。
「ん……」
今日は体調が微妙だった、ずっと頭の奥辺りが痛かった。
体温計の場所も忘れたから熱も計らずに出てきたものの、大人しく休めばよかったと後悔している。
ごほごほしているわけではないから他者に分かりやすく迷惑をかけるというわけではないが、他者からしたらテストも近いんだから休んでくれという話だろう。
「郁美先輩、黙って付いてきてください」
「……もしかしてばれた?」
「はい、見ていれば分かりますよ」
残念、鋭い後輩にあっという間にばれてしまった。
ただ、もう五時間目が終わった後の休み時間だから頑張らせてもらうことにする。
いま指摘してきたのは彼女が今日初めてこのタイミングで来たからだった。
なんか不安になってしまって休み時間も勉強を頑張っていたみたいだ。
「さ、今度こそ言うことを聞いてもらいますよ」
「でも、運べないでしょ?」
「舐めないでください、じっとしていてくださいね」
お……っと、何気に力があるんだな。
奇麗な見た目をしているくせに話しやすい存在だし、こういうところでも頼れるというのはかなり大きいなんて偉そうに考えた。
でも、自分で歩かなくていいのはかなり楽だった、目と閉じておけるというのがいまの私にはありがたいことだから。
「鍵は……あ、いま開けますね」
彼女はベッド前まで運ぶと静かにそこに寝転ばせてくれた。
布団も掛けてくれて、いますぐにでも寝られる状態になった。
「なんで無理して来たんですか?」
「朝はそうでもなかったのよ、それにこれまで一度も休んだことがなかったから」
最後に皆勤賞を得られれば頑張ったってことが目に見えて分かっていい気がした。
卒業証書だけを貰ってもなんか頑張れたって感じはしないからその方が絶対にいいだろう。
今回は症状もそこまで悪くないからいいが、これ以上酷いようなら休むべきだとは私でも思うけどさ……。
「……あと、あんたに今日も会いたかったから」
「気持ちは嬉しいですが、それで辛い気持ちを味わうのは郁美先輩自身なんですよ」
「……分かっているわよ」
もう寝てしまおう、早く寝ないと今日頑張った意味がなくなる。
だから再びお礼を言って帰ってもらうことにした。
今日は彼女も「分かりました」とあっさりと納得して行動してくれたが、助けてもらっておきながら追い出すような形になってしまったことが気になって寝られなかった……。
「大丈夫よ」
ちゃんと目を閉じていれば寝られる、まだ夜なんだから時間はある。
だが、そう考えれば考えるほど悪い方に傾き、残念ながら徹夜みたいな状態になってしまったのだ。
幸い、頭が痛いのは治ったがこれでは……。
それでも調子が悪いわけではないから必要なことを済ませて家を出た。
朝日が眩しい、ずっと目を酷使し続けていたわけでもないのになんか痛む。
というわけで朝から無駄にダメージを負ったものの、時間の方は特に問題もなく登校することができた。
「問題と言えば授業中に眠たくなるのが辛かったわ」
「当たり前ですよ、なんでいちいち気にするんですか」
「だって、……あんたは優しくしてくれたのに可愛げがない対応をしたから」
「あれだったら私は帰るのが普通です、あのまま残っていても私はなにもできませんでしたから」
「ごめん、いまは休むわ」
頭痛みたいに痛くはないからマシとはいえ、寝てしまうようなら学校に来ている意味なんかなくなってしまうから。
汚れるとか一切考えずに屋上の中央に寝転がって寝ていた。
ぽかぽかで暖かくて、すぐにでも夢の世界に旅立てる――そんなときだった。
「私の足を使ってください」
「痛いでしょ」
「だからベンチのところに戻りましょう、郁美先輩は寝てくれればいいですから」
駄目だ、こういうことを言われるとあっという間に甘えてしまう自分がいる。
目を閉じていられれば今日も楽だったから柔らかさはあまり関係ない、でも、やっぱり突っ伏したりしていたときとは違って安心できるというか……。
「大丈夫ですよ、放課後もちゃんと付き合いますから」
「……放課後はいいわ、あんたは自分のしたいことをしなさい」
「嫌です、今日は絶対に郁美先輩といます」
「なに意地になっているのよ、そんなに焦らなくたって私はあんたとだったらいつだって一緒に過ごすわよ」
今日意地になって一緒にいても寝ている私しか見られないのだから。
元気なときなら優先すると誓おう、そもそもあの約束だってあるのだから離れることなんてできないのだ。
が、全部言ってみても「今日は一緒にいます」と聞いてくれなかった。
「……まあいいわ、受け入れておかないと矛盾しているからね」
「そうですよ、だから郁美先輩こそ意地を張らずに受け入れてください」
「分かった分かった、じゃあいまは本当に眠たいから」
「はい、ちゃんと起こしますから安心して寝てください」
ごちゃごちゃ考えずに目を閉じた。
そうした結果、今日も最後の授業まではちゃんと頑張ることができた。
「「じゃーん、えっ、そんなに高得点っ?」」
平均点を大幅に超えている、ふたりが頑張った証拠がそこにあった。
私の方は平均八十点ぐらいだからそこそこという感じだ。
だけどもうどうでもいい、今回も赤点にならなかったというだけで、テストが終わったというだけでかなり楽になった。
これでまた家に帰った瞬間にゆっくりのんびりできるというものだ、いやまあ、受験生なんだから頑張らなければいけないわけだけど。
「くっそう、真陽ちゃんには勝てると思ったのにい」
「私は璃香ちゃんにこれでは勝ちたいと思っていたよ、それなのにこんな結果で残念だよ」
友達でありライバルか、そういうところも悪くはない気がする。
ふたりからしたら私はただの先輩だし、璃香からしたらそういう目で見ている相手だからライバルではないだろう。
「待って、どういう感じなのが理想的だったの?」
「圧倒的な差を見せつけて島先輩に褒めてもらいたかったの」
「えぇ、別に私に圧倒的な差を見せつけなくても郁美先輩なら褒めてくれるよ」
「いいよね、一緒にいるだけで当たり前のようにしてもらえるんだから」
「うっ、か、顔が怖いよ……」
難しさの差があるとはいえ、頑張ったことには変わらないから頭を撫でて偉いわねと褒めておいた。
褒めてくださいと言われた後に口にしているわけではないから適当感というのは出ていないと思いたい。
「嬉しいです、口にしてよかった」
「あんたも珍しい存在よね、私に褒められて嬉しいなんて」
「だって分かりやすくお姉さんじゃないですか、私はひとりっ子なのでお姉ちゃんとして見てしまっているというか……」
「お姉ちゃんか、まあ、別に嫌な気持ちにはならないから好きにしてくれればいいけどね」
分かりやすく嫉妬……はしていなかった、無表情でこっちを見てきているだけだ。
逆に怖いから一旦真陽と別れて璃香とふたりきりになることにした。
「あれはご褒美ですか?」
「んー、似たようなものかもね」
「私には……」
こっちが考えてしなくてはいけないということではないから黙って待つ。
ずっと動こうとしないから壁に背を預けて待っていたら正面から抱きついてきた。
こんなことでいいんだと考えてしまったのはいいのかどうか分からない。
「あ、これはいつものスキンシップですからね? ご褒美には該当しませんから」
「えぇ、なにそのわがまま……」
色々理由を話してものすごいことを要求してきそうだった、ルールブレイカーと言っても過言ではない気がする。
「当たり前じゃないですか、だってこれはこの前だってしましたし……」
「はぁ、だけどまああんたらしくていいわ、こんなことでいいのかって考えてしまったぐらいだし」
「ん? もしかして……郁美先輩も求めているんじゃないですか?」
「調子に乗らない」
「あいたっ、うぅ……」
自業自得だ、我慢をしすぎても駄目だが調子に乗っても駄目なのだ。
相手の協力がなければできないことなのだから勘違いしてはいけない。
……それにしてもどんなことを求められるのだろうか? 「キスしてください」とか言われる可能性だってこの子なら……。
「もういいです、テストも終わったからずっと郁美先輩にべったりですよ」
「好きにしなさい、私の家にもあんまり来ないで頑張ったんだからね」
あの日以外は本当にそうだった、だから寂しい気持ちを勉強にぶつけるしかなかったことになる。
つまり、この子の言っていることもあまり間違いではないのだ。
またなにかをしなければならない状態ではなく、なにもしなくていい状態で彼女といられることを嬉しく感じてしまっている。
「……っと、転んでしまうかと思ったわ」
「ちょちょっ、だ、大丈夫ですか?」
「あー、テストで頑張りすぎて疲れちゃったかも、このままあんたに寄りかかっていてもいい?」
もちろんわざとだ、転んだ先で偶然、みたいなことが起きるわけがない。
彼女ならきっと「それなら仕方がないですね」とか言ってくれるはず、いや、彼女であれば言うはずだ。
「でも、今回は真陽ちゃんを待たせてしまっているわけですからね」
「そ、そう、なら仕方がないわね」
私とやらないかわりに真陽とはやっていたことは知っていた、ふたりから毎日報告されていたから聞かないということができなかった。
だが、これはもしかしたら真陽の方に気持ちがいってしまったのかもしれない。
だって仲良くしながらも競い合ってレベルアップしていける存在というのはいいだろう、同級生で同じクラスというのも絶対にいいはずなのだ。
胸が大きくて身長が大きいだけの私とは違う、内面まで見られてしまったらこちらが勝てるわけがない。
「ふっ、まあいいわ」
「え? なにか言いましたか?」
「なんでもないわ、真陽のところに戻るわよ」
こういう思考をすぐにしてしまう時点で私は璃香寄りになっているわけだが、本人がこうだとどうにもならないことだった。
私が本気でそういうつもりになったときに離れられるのは嫌だからちゃんと言っておく、ということもしなかった。
信用しているから、彼女なら絶対に来てくれるから、そういう考えでもない、ただただ二学年も離れている先輩として後輩を困らせたくなかったというだけだ。
「あ、そのまま帰ってこないかと思ったけど違かったね」
「そもそもまだ午前中だから」
「なんだ、そういう理由でだけ?」
「郁美先輩に誘われて一旦離れただけだから、だからちゃんと戻ってくるよ」
むしろここから彼女を好きになるように行動していけばいい、来年で卒業という人間よりはまだまだ一緒にいられるのだからその方がいい。
喧嘩をしたり、楽しいことをしたりしていればきっと親友になれる。
私は友達でよかった、そして、先輩だからこそできることというのがあった。
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