第二章
私は足繁く劇場に通いつめた。
君に会えるわけではないのにそれでも必死に追いかけた。
劇場には毎日沢山の人が訪れる。中には私と同じような常連客もいた。
君に恋をしているのは私だけではない。
無論私が好いているのは君だけではないし、君が私を知らなくとも私を好いてくれる人は他にいる。
でも私は君に会いたい。会って君をもっと知りたい。君に私を知って欲しい。
私は、狂おしいほど君の青い光に心奪われてしまった。
君への恋心を悶々と募らせたある日、奇跡が舞い込んだ。
いつからか劇場でしか見られなくなった君が、またあの自動販売機の前に現れたのだ。
一方的に君と逢瀬を重ねたあの場所に君がまた戻ってきた。初めて見た日と同じ制服姿。右手に猫じゃらし、左手に煙草。変わらず曖昧なまま。
舞台から降りた君は空のように透き通った淡い青だった。新発見。帰りに似た色の絵の具を買って帰ろう。
私はただそれに気づいただけで浮かれ、君が歌ったあの歌を口ずさみながら君の背中を通り過ぎた。
すると後ろから声がした。
「待って」
君の声だ。ずっとずっとマイクロフォン越しに聞いていた君の声。機械も何も無い純粋無垢な君の声。
慌てて振り返ると君はまだ長い煙草を足で踏みつけ猫じゃらしをゆらゆら揺らした。じっと私を見つめて。
君は私と目が合うなり、ふわりと風が凪ぐように笑った。
今度は桜色だ。ほんのり青みがかった春の終わりに見る桜。君に出会ってから目が眩むほど沢山の青を教わってばかりだ。豊かな人。
「いつも見に来てくれてる人でしょ」
知ってるよ君のこと。と君は得意げに話す。
君が私を知っている。頭の中で何度反芻してもイマイチ理解ができなかった。
ずっと君に知られないまま死んでゆくのだと思っていたらまさか君が私を知っていたなんて。もう既に私達は会っていたなんて。
こんな胸の高鳴りを感じたのは初めてだ。そうだ。君に出会ってから初めてのことばかり。
初めての色。初めての高揚。初めての恋。
私はどうしようもないくらいに浮かれて聞かれてもいない気持ちを白状してしまった。
君しか見ていない。早口で伝えると君はありがとうと耳を赤らめた。
じゃあまたねと右手の猫じゃらしを渡される。猫じゃらしは君の体温でへなへなに崩れていた。
私に渡すためにずっと持っていたのだろうか。君はとてもいじらしい人なんだな。
嗚呼、やはり君のことが好きだ。
私の体温でより一層元気を失う猫じゃらしをゆらりゆらりと揺らしてみる。
狡い人。こんな素敵なプレゼントを貰ってしまったらお返しをしなくてはならないではないか。これを口実にまた君に会いたくなってしまうではないか。
より深く、君の青に恋焦がれてしまうではないか。
私は色を知った。
青に魅せられ色彩で泳ぐ魚になった。
死ぬまでずっと青い君に恋をしよう。
青いスパンコール 風鈴 @wind_bell
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