第2話 Mysteryの女剣士

両親の帰宅後、ライブに出かけた茜抜きで夕飯を食べ終え時刻は8時を回っていた、夕飯の後片付けをするため、キッチンに立つ女性、得意料理はハンバーグでアピールポイントは、味噌を賞味期限内に使いきれること、料理は基本なんでも手作り♪農家さんにはいつも感謝してます。がモットーの星魔の母、召王理恵(しょうおうりえ)がエプロン姿でいた。




 きっとスキル表にすれば料理人に関わるスキルが多分に見られるだろうが職業は専業主婦だ。




 そしてリビングにはテレビを見ながら晩酌中で、少なめながら無精ひげを生やし、服の上から見ても分かるほどの筋骨隆々とした体を持ち合わせ、身長は180cm越えダンディという言葉がお似合いの、万人受けしそうな優しい顔の持ち主の父、召王黒臣(しょうおうくろおみ)が星魔と一緒にソファに座っていた。




 そんな中星魔は、テレビとその上にある壁掛け型の時計を交互に見ていた。


 それに気づいた黒臣が声をかけた。




「どうした星魔?」




「父上、現代科学の果て選ばれしものが現れる、水面に映りし桃源郷をみたいのですがよろしいでしょうか?」




 そう告げるも普段仕事であまり家にいないのもあって、言葉の強さに圧倒され、言っている意味を理解できない黒臣をよそに、まだキッチンで洗い物をしていた理恵が口を出した。




「リピートアフターミー、お父さん見たいテレビがあるのでチャンネルを変えてもいいですか?」




 補足する理恵。けれどどうしても我を通したいようで。




「ふふふ、何をおっしゃいますか母上。私はただ父上に水面に映りし、桃源郷を」




 洗い物を終えたのか手を拭きながら星魔の発言を遮る理恵。




「あらやだわ、こんなところに【夫のいない人妻の休日】なんて本が落ちていたわ、誰のかしら?」




 茜と同じやり口で薄い本を見せられる、これには白旗を上げるしかないようで。




「お父さん見たいテレビがあるのでチャンネルを変えてもいいですか?」




 若干棒読みで理恵の言うことを聞くしかない様子の星魔。




「星魔、お前も苦労しているな。いいぞチャンネルを変えても」




 唯一の理解者である黒臣も脅される星魔を見て同情心が芽生えたのであろうか、優しく言葉を返す。




「ありがとうございます、父(ちち)・・・うっ、お父さん」




 理恵の鷹のような鋭い眼光に気後れしたのか言い直す。とてもぎこちない言葉になっているのは気にしないでおいてあげよう。




 少々ためらいながらもチャンネルを変えた。


 洗い物を終えた理恵も黒臣の隣に腰を下ろした。




 そしてテレビの画面に映し出されたのはやはりというべきか、アニメだった。


 だが、そのアニメを見る星魔は、興奮冷めやらぬ少年。と言ってもまだ高校1年生。15歳でまだ少年なわけなのだが、年相応という言葉を感じさせられないほどのはしゃぎっぷり、だが今に始まったことではないのであろう、理恵だけがすこし訝しむ目を向けながら2人もテレビに注目していた。




「いやー、最近のアニメってのは凄いもんだな、躍動感があってキャラクターが本当に生きてるみたいだ」




「そうねぇ子供のころはこんなに動いていなかった気がするわ、星(せい)ちゃんが」とアニメを見る星魔の姿勢を少しでも正そうとする理恵だったが外界との遮断を行っているようで、星魔の耳にはテレビの音しか届いていないようだ。




 しばらくしてテレビ画面ではコマーシャルが始まっていた。


 この瞬間を待ってました! と言わんばかりに背中に隠し持っていた何かを取り出した。


 それは、先ほど茜との激戦? の上に獲得した戦利品・・・である【召喚の魔法陣】だった。




「父上。母上。ご覧ください、この幾星霜の時を経て私が書き上げたこの魔法陣を!」




 アニメを見ていた時の興奮状態のまま、机の上にその魔法陣とやらが書かれた紙を出し、両親に向けて幾星霜という言葉を使うとは、それほど嬉しかったのであろう魔法陣の完成。


 理恵はやれやれという顔で、もう何を言っても、こうなったら止められないと分かっているので今更口出しはしなかった。




「ふっふっふ、それではご覧いただきましょう、これからこの魔法陣で魔界から使い魔を召喚して差し上げましょう!」




 自分の世界にどっぷり入ってしまっている星魔は、2人の意見など、はなから聞く耳を持っていないかのような勢いで話していた。


 星魔は突然立ち上がり、独特と言ってもいいであろうポーズと呪文? を唱え始めた。




 まずは両手を自分の顔の前でクロスさせ、手を握り「この世の理を脱し」ここでクロスさせていた手を広げ「次元の狭間から今目覚めん」そして何かに祈るかのように手と手を合わせ「その姿を我が前に現わさん!」と叫ぶ星魔。




 魔法陣が突然神々しい光を放ち、その光が宙に浮き、嵐が吹き荒れるかのような激しい風が魔法陣のあたりで巻き起こり、何者かが机の上に姿を現す。




 わけもなく、机に置かれていた紙は何事もなく静寂を貫いていた。




「っく、何が足りないというのだ・・・」




 いつも通りの出来事にやれやれといった雰囲気の理恵に対し、黒臣は言う。




「おお! 星魔なんださっきのは! お父さん感心したぞ! その調子で頑張れ!」




「何がその調子ですか、お父さん! ちょっとは注意してあげてください、高校生になってもちっとも成長してないんですから!」




 もはやこりごりといった感じの理恵であった。




「そこまで言うのであれば仕方ない。父上の頼み、もう一度試さねば!」




 今まで賛同してくれる人が少なかったためか、先ほどよりも上機嫌で再び呪文の詠唱を始める星魔。




 さきほどの工程を再び繰り返す。




 理恵はどうせまた失敗するであろうと、やれやれ顔でその場を立ち去ろうとしたのだが、今度はいろいろな意味で期待を裏切られる羽目になった。




 ◇◇◇




 とある国のとある王宮。


 王宮の一室と呼ぶにはそこは華やかさの欠ける場所だった。


 客間ではなく、兵士用のその部屋は一般の兵が貸し出されるような部屋ではなく、騎士団長や、副騎士団長、王直属の近衛兵が寝泊まりする王の寝室の近くに存在するその部屋には、まるで飾り気がなく、星魔の部屋と呼んでも大差のないほど殺風景な部屋だった。


 その部屋の主が男であるならまだしも、この部屋の主は女性だ。


 その主は、毎晩の日課である剣の手入れをしていた。


 仕事終わりの鎧姿のまま手入れをするその女性は、歳が14程度。


 だが彼女の手入れしている剣を初めて見るものからすると、「そんな馬鹿な」と重厚感のある大剣をさも平然と片手で持ち上げている。


 見掛け倒しの大剣なのかもしれないが、そんなものを手入れしても何の意味があるのだの一言でその意見は消え失せてしまう。


 だからと言って外見が粗野で男の子らしい風貌の女性なのかと問われると、そんなことはなく。


 淡い緑できれいな髪を頭の前頭部から後頭部にかけて三つ編みにし、編み下ろしにしている。


 これだけでも女性の手間を考えればたいしたものだと、拍手喝さいを貰ってもいいだろう。


 顔立ちは妖艶、一目見れば心を奪われてしまいそうで、もし戦場に赴けば男性兵は篭絡され自国に攻め込んでしまうのではないかというほど、その女性は美しかった。




「ガタッ」




 そんな女性のいる部屋のベランダ、椅子と机が備え付けでおいてあるのだがそのどちらかが動く音がした。


 その瞬間女性は剣を構え、警戒態勢に入り、恐る恐るベランダへと赴いた。




「おやおや、これはこれは、可愛いお人形さんだこと」




 突然現れた侵入者は女性を見るなりそう呟き。


 次の瞬間、彼女の喉元へ手を近づけ。


「叫んではなりませんよ」


 脅し、いや警告だろうか。


 刹那女性の喉元へ手が伸びるのを捕らえられず、目を見開いた女性は、首を縦に振り、おとなしく剣を床へ置いた。


「ありがとうございます、私の今の立場をご理解していただき誠に感謝しています。多少強引かとは思いましたが、叫ばれては私、何もできなくなってしまいますゆえ、このような行為に至ってしまった所存。ご無礼をお許しください」と言いながらその侵入者は、女性の喉元から手をどけた。




「本日は何用ですか? 魔族のあなたがこの地に来るだけでただ事ではないとは思いますが。ですが相対されるのは私ではなく陛下や騎士団長のほうがよろしいのではないでしょうか?」




「いえ、今宵あなたに会わなければいけなかったのです。今あなたの周りの魔力が蠢きすさまじいエネルギーへと変化しているのです。いつあなたのもとへ私のような魔物が襲い掛かってきてもおかしくないほどに」




「それは助言ですか?」




「えぇ・・・」




 お互いの会話はどこかぎこちなく、腹の内を探りあっているかのような、だがお互いの気遣いだけは忘れぬような。




「魔物の目、ですか」




「私の目が特別と言いましょうか、他の魔物は大気に流れる魔力を肌でしか知覚出来ませんが、私の目には薄い魔力の道がここまで繋がっているのが見えましたので、もしかしたらと思いまして」




「そうですか、ご忠告感謝します。ですがなぜそのようなことに?」




 その時、すさまじい光に身を包まれる女性。


 その光を食い止めるべく魔法のようなものを放つ侵入者。


 女性は足元の大剣を取り。ただただ何もすることができなかった。


 光とともにその女性はどこかへ消えていった。




 彼女の消失後、月を覆っていた雲が風によって少し動いた後、凪いだ。


 侵入者が月光によって照らされ、その物は胸元まで黒い毛でおおわれており、腕や肩や胸、顔は人のような肌をしていて、頭の側頭部から前頭部にかけ両端に前方へ突き出すような角が生えており、背中にはカラスのような黒い羽毛がびっしりと詰まった翼がついていた。




 そしてそのものはその黒い翼をはためかせながら宙を舞い


 「お子がお目覚めになられた! ああなんてすばらしい日なんだ! 私ではなかったがあの痕跡を追えば必ずや! 待っていてください! すぐそちらに参りますゆえ!」




 狂気に満ちた笑みを浮かべ、これでもかというぐらい大きな声で、夜空を駆け巡る姿は魔物。


 いや、悪魔そのものだった。




 ◇◇◇




 星魔が叫び終えた瞬間、突然紙に書かれた魔法陣が光だし、紙が消滅した。


 そしてその魔法陣は宙に浮き、2つに増えたかと思うと球体を作るように魔法陣は回りはじめ、その中に何かが生成されるのが3人の目にははっきりと見えた。


 それを見た星魔は、自分が望んだ結果にもかかわらず腰を抜かし、床にしりもちをついていた。理恵も同様に自分の目を疑うかのように目を大きく見開いていた。


 けれどその中で黒臣だけは険しい表情で魔法陣ではなく、星魔のほうを見ていたのは、ここにいる2人には気づかれていなかった。




 そして魔法陣の中に徐々に生成されていく1つの何か。その何かが姿を現すのにそう時間はかからなかった。人型に形成されていく魔法陣の中の光、その光が一瞬にして部屋中に飛び散ると、両手に大剣を構えた少女が姿を現した!


 淡い緑できれいな髪を頭の前頭部から後頭部にかけて三つ編みにし、編み下ろしにしている。鎧を身にまとい身長は150cm程度でそれに似合わぬほどの大剣を持っていた。そして何より幼い。年齢は14と言ったところだろうか。




 驚きを隠せない星魔。


 それは他の2人も同じようで誰とも付かずその時だけは言葉という概念がその場から消失していたようにも思う。




 突如現れたその少女はあたりを見渡し、状況を飲み込めないまま目についた情報だけが季節外れの花火でも打ち上げられるかのような勢いで口から発射されていた。




「で、殿下!?」




 その言葉は星魔に向けられたものではなく、父である黒臣に向かられているものだと彼女の目線から把握できた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る