おばけってチートだね

ロコロコキック

おばけってチートだね

くそ、くそ、くそ!

おかしいだろ?なんでだ?

理不尽じゃないか?

今目の前にいる奴はなんでこんなにも自然の摂理に反しているんだ

この世は理不尽に溢れている。分かりきってた事じゃないか

だけどこれはあんまりだ



小、中、高と真面目に学校に通い、家族の為に大学にも行かずに就職

高卒の癖にとバカにされながらも、必死に仕事に食らいつき25歳となった今ではそこそこのポジションに昇進

職場から離れた実家は先月から独り立ちし、今では駅から徒歩5分、6畳一間で家賃2万のアパートを借りてさぁこれから更に仕事に励もう……

と思った矢先にこれだ……

そう、安いのに好条件の物件には付き物のあれがしっかりとついていたんだ……


あれは引っ越した初日の夜だった

妹達の学費の為に普段から切り詰めていた俺にはテレビなんて娯楽も必要なく、明日の為にもさっさと寝ようと長年愛用の薄い布団に潜り込みながら目を閉じる


寝てからしばらく経った時だと思う。[奴]が現れたのは……

{こんばんはー……}

ガチャガチャ……ガチャガチャ……

{こんばんはー……}

ガチャガチャ……ガチャガチャ……

{こんばんはー……}

ガチャガチャ……ガチャガチャ……

…………………


ボーっとする頭で玄関を見るとガチャガチャとドアノブが捻られては外から[こんばんは]と声がする

しかも延々と繰り返されるその行為に段々と腹が立ち、文句の一つでも言おうと玄関をバッと開けた


しかし、今しがたついさっきまでガチャガチャとドアノブを捻っていたであろう人物の姿はそこにはなく、アパート二階部分の一番奥の俺の部屋から一階へと降りる唯一の階段方向を見ても誰もいない

念の為反対を見るけど、隣のマンションの壁があるだけで到底人など通れる隙間などないし、正面には転落防止の柵と、カラスよけのネットがある為ここからも人は通れない


ならばやはりアパート二階部分に登る唯一の階段の場所に目を向けるけどやはりそこには誰もいない

大家からは二階に住んでるのは俺だけだと聞いているから隣でもない…………


疲れてるんだろうか?そう思い扉を閉めてまた、薄い布団に潜り込み目を閉じようとすると……

ドンドンドン

{こんばんはー}

ガチャガチャガチャ

ドンドンドン

{こんばんはー}

ガチャガチャガチャ

ドンドンドン

{こんばんはー}

ガチャガチャガチャ


今度は扉を叩きながら部屋へと入ろうとする誰か……

まさかと思うがまさかなのか?…

その日は結局眠れぬ夜をなんとかやり過ごし、朝を迎えた

時間を見るともう6時。結局[奴]は4時頃までずっとドンドンやっていた

……………………眠れなかったせいもあるのか俺の中に少しだけ黒い感情が渦巻く……




とはいえ仕事には行かなくちゃいけない

こんな嫌がらせみたいな事くらいで俺の心は折れはしない

だけど…………

あれから数日経った頃、その日もいつものように[奴]は現れては俺に嫌がらせをする


俺も連日に渡る行為に疲れていたんだろう、その日は鍵をしめるのも忘れてそのまま眠ってしまった

再び目を覚ましたのはまたあの時間……

ふと玄関を見ると、タイミングを見計らったかのようにドアノブがゆっくりとまわり、そして扉がギギギとゆっくり開いていく


恐怖からくるものなのか不思議と目を離せないでいる僕の目には連日に渡り扉を開けようとしていた[奴]の正体が………

………しかし扉の向こうには誰の姿も見えない

ドクンドクンと素早く鼓動していた心臓も、この時ばかりは少し落ち着きを取り戻していく

なんだよ、やっぱり疲れていただけだ。自分にそう言い聞かせて、風で開いたであろう扉を閉めようと立ち上がろうとする俺








その背後から聞こえてきた

{こんばんはー}














この時俺は、今まで我慢していたものが一気に吹き出したのかもしれない







「⁉っざけんなボケがぁ!!」

{えぇ⁉}

俺は振り向きざまに声を出す[奴]に向けて拳を振るう

「何なんだお前は毎日毎日、起きてたら来ないくせに寝たら来やがってストーカーかよ?しかもドア開けても居ねぇじゃねえか!どんなスピードしてんだよ?あれか?テレポートでもしてんのか?もしくは一般人には見えませんてか?だったらなんで今は見えてんだよボケが!」

幽霊?妖怪?見たこともないし知らないけれど俺は目の前の相手に向けて連打を繰り出す


「⁉しかもさっきから攻撃が当たらねぇじゃねえか!どうなってやがる?お前あれだろ?ドアノブガチャガチャガチャガチャやってたよな?だったら触れるんだよな?なのになんで今は触れないんだよ?おかしいだろ?チートか?チート能力者なのか?」

{ひえぇぇぇ}

「逃げんなコラ!出て来やがれ!散々人の睡眠邪魔して楽しんだ挙げ句、怒鳴られたらすぐに逃げるたぁ人間の風上にも置けねぇ底辺野郎だなおめぇはよ!なんなんだお前は?人間なのか?生きてんのか?死んでるんだよな?だったら生きてる人間の邪魔すんじゃねえよ!見えねぇんだろ?触れねぇんだろ?だったらずっとそのままでいろよ!いいか?もう理不尽はうんざりだ!次何か物に触れてみろ!俺は必ずお前を殴るからな!お前にとっての理不尽に俺がなってやるからな!わかったか⁉」


{………ご…ごめんなさい〜………}

「喋んじゃねえボケがぁ!」

{ひえぇぇぇ〜…}

どこからか聞こえる情けない声。いる、[奴]は確実にこの部屋にいる


俺は玄関に向かい扉をしっかりと閉めて鍵をかける

{⁉}

「よぉ?ちょっと姿見せろよ?いるんだろ?壁抜けは出来ないのか?ガチャガチャガチャガチャやってたもんな?今なら部屋の中だ、開けて逃げれるぞ?どうするんだ幽霊コラ!ほら?早く開けなよ?ガチャガチャ鳴った瞬間俺の拳がお前に当たるかもしれんがな?」

俺は玄関横のキッチンから塩を取り出し拳にまぶす


もう我慢の限界だった。相手は超スピードなのかテレポートなのかわからん能力で人間を脅かし楽しむ悪の存在だ

おまけにステルススーツを自在に操り姿まで隠し、挙げ句にこちらの攻撃は当たらない

今まで学校でも、会社でも、家が裕福ではなかっただけで、学歴が低いというだけで、数々の理不尽を受けてきた

だけど今[奴]から受けた理不尽は許せない

[奴]から受ける理不尽はまさしく究極の[理不尽]どうしようもなさすぎる!できる事がなさすぎる!一般人は泣き寝入りしろってか?ふざけんじゃねえ!俺はこの理不尽に対してはもう一歩も引かねぇ




{許してください〜……}

ガチャガチャ……

{お助け〜}



「俺がそういえばお前は止めたのかくそ野郎が!喰らえ!」

鍵を開けようとしてるであろう[奴]に向けて塩まみれの拳を振るう。姿は見えないがきっと今目の前にいる!

俺は持てる力を全て振り絞った究極の一撃を扉に向かい振るった


{もう二度と来ませ〜ん……}













後に残ったのは塩にまみれた玄関と少しだけへこんだ鉄の扉に痛む拳……………

理不尽だ……………




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おばけってチートだね ロコロコキック @220819

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