第24話.

「うぅ終わりぃ」


「終わったぁ~」


 無心で手を動かし続け作業を終え、二人がギルドに行き報告を済ませたのは、日が落ち始めた、夕方頃だった。


「お疲れユア」


「アオもお疲れっ、アオが居てくれて良かったよ」


「そんなにか?」


「だってトガリってば、庭掃除なんて昔っからやらないんだもん、戦闘で強いのは分かるけど、こういう仕事もやってほしいよぉ」


 作業の疲れかトガリに対してなのか、上半身を前に曲げたユアが両手から力を抜き、だらけていた。


「まぁ何れやるだろ」


「だと良いんだけどね」


「そんなトガリに食べ物でも買って行くか?」


「きゃっか。それよりも今日の着替え買いに行きましょ、流石に着替えが無いと回せないもの」


(別に一着でも…‥だが言ったら‥終わりだ。女性が服が必要と言えば、必要なのだろう。うん、そう思わなきゃいけないんだ)


「分かった、行こうか」


 汗水垂らし稼いだお金が、服に変わる事を己に受け入れさせた明桜は、ユアの後に付いて行き、古着から高価な服まで取り揃えた、大通り沿いにある店に入っていった。


「いらっしゃいませお客様」


 従業員と思われる女性が、明桜とユアに対し、礼儀正しくお辞儀を行った事で、逆に二人が萎縮しかけていた。


(もっとラフな店で良かったんだがな‥)


「本日はどのういった物をお求めでしょうか」


「ひぁいッ」


 再度を声を掛けられたスアが、緊張の余り声色が飛び、呂律も回らない状態で返事をしていた。


「おやおや、これまた随分と、可愛らしいお客様が来て下さいましたね」


 スアと従業員のやり取りが目立ったのか、店の奥から執事服を着た白髪の男性が来て、ゆっくりとした口調で話し掛けていた。


「すいません、ご迷惑でしたか?」


「ご心配なさらずともよいですよ。来て下さる方は皆等しく、お客様なのですから。そしてお客様がお求めの物を正しく提供してこそ、一流と認知されると私は思っております」


「有難うございます」


「いえ構いませんよ。後は私が」


「はい。それではお客様、ごゆっくり」


 執事服の男性が女性従業員を下がらせ、明桜とユアの二人は、執事服の男性に先導され、店の端よりも少し中心付近の場所を点々と移動していた。


(なるほど、露骨に古着を一箇所には置かず、不明瞭にする事であの場所に居る客だからと、客が客を蔑む事を防いでいるのか。それに従業員も相手が誰であろうと礼儀正しく接客をしているし、日本の中途半端に高い店とは違うな…‥)


「アオ、これなんて良いんじゃない?」


 そういってユアが手に取っていたのは、上質な素材でも無く、くたびれてる訳でも無いがとても安い服だった。


(銅貨五枚って‥大丈夫か?まぁ一人で大銅貨五枚が日給だとして、それの十分の一なら、まぁ妥当か。日本で学生が500円の古着を買うと思えば…)


「悪く無いと思うけど、もう少し探して見よ、俺も選ぶからさ」


「うんっ分かった」


 ユアと分かれ自分が着る服は直ぐに決め、任せっきりの御礼を兼ねて私用で着れるユアの服を探していた。


「少しよろしいですかな?」


「はい、何でしょう」


 ユアに付いていた執事服の男性は、服を選んでいたアオに近寄り、一声掛けてから更に一歩近づき、小さな声で話し出した。


「お客様方は冒険者でいらっしゃいますね?」


「まだまだ駆け出しですが、それがどうかしましたか?」


「失礼致しました。お二人が一貫して安い服を探しておられたのに、貴方様が今は明らかに私用の、それも女物の服を探してましたので、声をかけたのです」


(あれ、俺って不審者扱いされてる奴か!?男が女物のコーナを彷徨いてるヤバい変質者扱いされてるのか!?)


「すいません、お礼にと何か渡したくて」


「そうでしたか」


(これで誤解は解けたはず)


「どうでしょう、一つ提案なのですが私からの依頼を受けませんか?」


「それはどういう事で…‥」


 唐突に提案され、はいと直ぐに明桜が頷く筈も無く、冷静に聞き返していた。


「失礼を承知で申し上げるのですが、お客様が使える資金は小額かと存じます」


「はい…かなりヤバいです」


「そこでどうでしょう、私の依頼を受けて頂き、報酬として金銭では無く。あちらの女性用に衣類で支払うと言う形で」


「魅力的な提案ですが、仕事内容と、報酬として渡される衣服の最値を教えて欲しいですね」


(面倒な仕事を押し付けられたのに、その辺のボロ服一着で終わらされたら堪ったもんじゃない)


「これまた失礼しました。仕事は簡単ですよ、ギルドの横にある武器屋の店主に手紙を届けて頂きたい。そして報酬ですが、そうですね銀貨一枚の値が付く衣類一着で、如何ですかな」


「待って下さい、内容と報酬が乖離し過ぎてて、怖いんですが、その服呪われてたりしませんよね?」


「ほっほっ、そんな事は有りませんよ。老骨の気まぐれですよ」


「それなら有り難く。受けさせて頂きます」


「依頼の件は私からは言いませんのでご自由に、では少々お待ち下さい。そちらの服も私が持って行きましょう」


 そう言って、執事服の男性は俺から服を取り、ユアの方にも立ち寄ってから、店の奥に消えていった。


「えっ、ちょっとアオ、どうなってるの?あの人急に、代金は要りませんから、お待ち下さいって言って、服持って行っちゃったんだけど」


(内緒ね、言うなって事じゃん。それにギルドを通さず、接点の薄い俺に運ばせる手紙って、かなりヤバい気がしてきた…‥)


「まぁ成るように成るって」


  



 

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