第23話.掃除
ゴーラが建物に入って行くのを見届けた明桜とユアは、片手に短剣を持ち、もう片方の手で雑草を掴み、地面から数センチの位置から切り取っていた。
(引き抜こうと思えば簡単に引き抜けるのに、引き抜けないのが辛いぞこれ)
「先に壁沿いを切って、少しずつ内側に寄りながら切って、切ったのは全部近くの壁に投げようか」
「それなら最初に壁の近く、切る意味あるの?」
「切らないと後で片付ける時、絡まって取るのが大変なんだよ」
「アオはお母さんとかに言われて家では、庭の手入れ沢山やっててだから、庭の手入れが良いって言ったの?」
「そういう訳じゃないんだ、ただやった事があってな」
(家じゃなく学校だったんだがな、まぁそんな事どうでも良いか)
「余り話してると、今日中に終わらなさそうだ。ユア頑張ろうな」
「頑張るぅ」
明桜とユアはそれから黙々と作業を行い、果てしない作業が終わる事を想像しない様に無心であった。
「はぁ、やっぱり、帰って来てないよね..」
「どうしたのスア、まだ昼なのにそんなため息ついてさ」
王都の冒険者ギルドの地下、そこに受付嬢用に用意された一室でスアは同僚のリリアナと、他の受付嬢に仕事を任せ一足先に昼間の休息を取っていた。
「スアがそんなに落ち込むなんて珍しいじゃん」
暗く下を見て落ち込んでいるスアとは対照的に、リリアナ無邪気にショートカットの髪が揺れ動く程に上半身を動かし、スアの表情を見る様に覗き込もうとしていた。
「もぉ、どうしたら良いのよこんなの」
「だから、どうしたのって」
「ゴブリン討伐に行かせた子達が、ギルドに来てないのよ」
スアが話し出した事で、覗き込む様に立っていたリリアナが、スアと肩を並べるように座った。
「別にスアが気にする事じゃないんじゃないの、だってその子達も冒険者なんだよね?」
「うん」
「なら、自己責任ってやつだよ」
一向に声を出さないスアにリリアナは、スアが気にしてる事を払ってやろうと言葉を続けた。
「冒険者は危険もあるけど、一攫千金や、時には名誉を得られるだから皆やるんだよ、それは子供でも一緒。それにゴブリン倒しに行かせたって事は基準は満たしてたんでしょ?それこそ仕方ないよ」
「満たして、なかったの」
「え?‥‥嘘だよねスア」
黙るスアを見てリリアナが無言とは、肯定と確信するにはそう時間はかからなかった。
「何やってんのあんたッ頭でも打ったか、新人を‥‥新人を、殺したいのかッ」
「そんな訳ないじゃんッ!」
「なら何でだ、私達受付嬢は、冒険者が成功しやすい為にサポートするのが仕事だ、それを規定を無視して死地に追いやって何してんだよスア」
「言うべきじゃなかった。行かせるべきじゃなかった。止めるべきだった。だけどねリリアナ、私達、受付嬢は冒険者の手助けする事が役目でも、それは仕事何だから、命令に従うしかないんだよ..」
「何よそれ、どういう意味」
「ギルドマスターからの指示だったの、あの子達をゴブリン討伐に行かせろって」
「はいっ?」
間の抜けた声を出したリリアナが、首を傾げながらスアに目を向けていた。
「リリアナに嘘を言っても、仕方ないよね?」
「私に聞かないでよ、分からないわよ」
「うん、ごめん」
「本当なの?ギルマスの指示ってのは」
「うん…」
スアが消え入りそうに弱く肯定し、リリアナが静かに目を瞑り、目を開いた時には表情が変わり、先程までとは打って変わって真剣味が増していた。
「それって理由はどうであれ、その子達を消そうとしたって事よね。ギルマスは‥」
「その理由が分からないの。確かに、アオくん達は稀に見る期待の新人だよ?だけど、常識の範疇に収まってるぐらいだし、逆に凄いならギルドは今まで通り、大切に育てて行くべきなのに」
「どうして急に、無理難題のゴブリンを、押し付けたかって話ね」
「うん」
「ギルマスが何かしたんなら、あの子達が普通じゃ無いか、貴族とかが関わってるんじゃないの?そうなったら私達受付嬢じゃどうしようも無いじゃん」
「私、ギルドマスターの所にいっ――」
「止めときなよ、スア」
刺すような視線をリリアナがスアに向け、席を立ち上がろうとしたスアが、浮かせた腰をゆっくりと下ろす。
「もし本当に、まぁ高確率でそうなんだろうけどね。ギルマスがその子達の力量を見誤った以外の要因があるなら、首を突っ込むもんじゃないよ。これはあんたの為に言ってるんだからね」
座っていたスアの拳は強く握られ、無意識に込めらた力は強く、その拳は震えていた。
「でもまぁ、あんたはきっと後悔するんだろうね、だからもし馬鹿やるにしても上手くやりなよ?ちょっとなら手伝って上げなくも無いんだから」
「リリアナ‥」
「別にあんたの為じゃ無いわよ、巻き添え喰らうのが嫌だから言ってあげてるのっ、分かった?」
「うん、有難う」
「なら先に戻るわね」
「うん」
リリアナが地下室から出ていき、一人になったスアはいつもの様な明るさを取り戻してから上に上がり、受付嬢としての仕事を変わらずに行っていた。
しかし誰が見てもスアからは、いつもとは違う印象を皆が受けていたのは、本人だけが知らないままだった。
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