第21話.


(どうしてこうなった‥‥)


 まだ外が暗い真夜中に目を覚ました明桜は、頭が一瞬にして真っ白になり、どうにか冷静さを取り戻していた、悟られない様に動かず、ひたすら考え込んでいた。


(昨日俺達はゴブリンを倒そうとした結果、トガリが怪我を負い、クレアさんのおかげで詰所で夜ご飯も食べ、一人一つのベットを使い睡った。筈だ……)


 自分の記憶を鮮明に思い出した明桜が、今度は 身体の状況を確認しようとゆっくりと、指先から微かに力を入れた。


(良かった、ちゃんと動・・・・動いたら駄目な奴だ)


 金縛りの様な感覚の原因を、背中から伝わる柔らかい感触と共に気づいた明桜は、反射的に動かそうとした身体を停止させた。


(えっ?はぁ?!待て待て待て待てなんでだよッおかしいだろ、意地の悪い状態異常攻撃かと思ったのに、これユアだよな?‥‥いやいやいやいやそうだとしても全然理解できないわ!なんで俺が寝てる所に入り込んできてるんだッ)


 身体が動かない感覚を拉致られたなど考えていた明桜だったが、その原因がユアだと気づくと生殺与奪の可能性が消え去り一瞬安堵するが、直ぐに冷静さは消え失せ、思考を停止しさせたのだった。


「なんで私はこんなに弱いのかな..」


 首筋にそっと息が当たる程の近さから、小さな声が聞こえ、明桜は反射的に言葉を返そうと喉を動かした所で止めた。


「私が、トガリと同じぐらい戦えたら、今日だって」


 ユアが一度口を開き言葉を吐き出すと、次に話すまでに1分以上の間があり、寝ている間にもそれが起こっていた為に、目が覚めたのだろうと明桜は思い、いたたまれない気持ちで一杯一杯だった。


「私のせいでトガリに怪我させちゃったよ」


(ユアは悪く無い、俺がもっと想定しとけば違った筈だ‥)


 声に出してそう言いたい。その気持を自分の甘えた心と共に、自身の中で溜め込む事を明桜は決めた。


「私が道を間違えたから、」


「私がもっと早く気づけていれば落ちななくて、」


「怪我もしなかった」


(違う。俺達はどうあがいても下に水があるって分かったなら飛んだ筈だ。そうじゃなきゃゴブリンにやられていた‥)


「ほんとダメだな私.」


「いつも足引っ張って、」


 ユアが身体を動かし足が触れ合い、明桜の背中に置いていた手に力が入る。


「あの時だって、ずっとそう」


「私を助けてくれた母さんと父さんは私のせいで死んで」


「アオに一度助けれたね、でも」


「もう、助けないで」


「私を助けるとみんな不幸になっちゃうから‥」


 身を更に寄せたユアがそれから一言も言う事は無く、やがてユアは寝息を立てて眠りにつき、それから暫くしてから2つの寝息が重なり合い、時間は過ぎ去った。





「おはよう、アオ。やっと起きたわね」


「たくどんなけ寝るんだよ」


 明桜が起きるとユアは立っており、トガリは窓際の自分のベットに座ったまま、明桜が鮮明に聞き取れる声量で話しかけて来た。


「おはよう二人共、相変わらず早いな」


「アオがのんびりなんだよ」


「トガリ、あんたは今日たまたま早起きしただけでしょ、そんな威張らないの」


「それぐらい俺は元気っつう話だ、これなら戦えるぜ」


(やはりというか、トガリは馬鹿なのだろうか‥何処をどう頑張れば足を固定された状態で戦えると思えるのだろうか)


「はぁ..呆れたわ、どう見てもまだ動けないでしょ、治るまではちゃんと大人しくしてよねお願いだから」


「うん」


「良かった」


 ユアがトガリの方を向いていて明桜には横顔が本の少ししか見えていないが、トガリの発言から明桜は勝手に想像し、ユアが振り向きそうな気配を感じ目をそらす。


「おはよう。クレアだ入っても良いかな」


 ドアをノックする音と共に昨夜聞いたクレアの声が聞こえ、三人は一度目を合わせてから一番ドアに近い明桜が返事を返した。


「どうぞ」


「三人ともおはよう、昨日は眠れただろうか」


「おはようございます。はい、お陰様でしっかりと、眠れました」


「クレアさん、昨日は私達を泊めていただき、有難うございます」


「うん、休めた様で良かったよ。君も元気そうだね」


「見ての通り元気だぜ、痛ぁたたたた」


「もぉ何やってんのよあんたわ」


 調子に乗って立とうとしたトガリが、足の痛みを感じ、慌て寝転がる。


「そうか、そんなけ元気なら大丈夫だろう、だけど完全に治るまでは無理はしない方が良い。中途半端に治った時に無理をすると一生痛みが伴う場合だってあるからな」


「はい」


「うん、怪我を治すには食べないとだからな、朝食だよ」


「クレアさん何から何まで有難うございます」


「私達お金払ったほうが…」


「構わないよ、この都市は王国内でも裕福な都市だからな、そういった支援に充てがわれる資金も豊富なんだよ」


「この都市では何か高価な特産品でも扱ってるんですか?」


 台車で運んできた朝食を明桜とユアが取り、クレアがトガリに朝食を渡し入り口に戻ろうとする中、先に朝食を膝の上に置いたままベットに座った明桜が話しかける。


「そうだったな、君達は此処を目指して来た訳じゃ、ないんだったな、すまない。すっかり忘れていたよ」


「すいません」


「それで特産品が凄いのかと言うと実はそうでもなくてな、この都市では物の取引全般が盛んなんだよ」


「交易都市って事ですか?」


「それは今日君の目で見て決めると良い、怪我人はともかく、君達二人は街に入るんだろ?」


「はい、そのつもりです」


「なら、一人に言われて見るのではなく。何も知らない状態で私は見てほしいと思っているよ」


「分かりました、自分の目で見て探して見ようと思います。あ、でもクレアさん」


「何かね」


「ギルドの位置だけは教えてください。お願いします」


「お願いします」


「ギルドはどの街でも、大きい道を進んで行ったら在るものよ、それはこの街も変わらないわ、だから詰所を出て右側の大きな通路を街の中心に向かって進むと在るわよ」


「有難うございます」

「教えていただきありがとうございます」


「それじゃあ私は仕事に戻るわね、朝食は済ませたら入り口の台車にでも置いておいてね、後で回収させるから」


「分かりました」


 クレアが居なくなった部屋で三人は、話すでもなく。三人とも腹が減り、湯気を出しているスープが冷めないうちにと、一斉に朝食を取り始め、食べ終わってからが話しだしたのだった。







 




 


 


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る