第18話.ゴブリン
「ギィギャキャキャキャキャキャァ」
「ギッ―ギギッニンゲェン‥ギィキャキャキャア」
つばを飛ばしながら嘲笑うかの様に声を出すゴブリンを見て、ゴブリンの前に立ち剣と盾を構えるトガリだけでなく、茂みに控える明桜とユアの二人までもが、ゴブリンに対して強い嫌悪感を感じるのだった。
「来いよッゴブリン!」
トガリが声を絞り出し叫び、ゴブリンの気を引き、一瞬怖気づいた事を隠す様に叫ぶトガリを見て、2匹のゴブリンは更に笑いながらゆっくりと走り出す。
「ぅぁぁぁああああ!!!!!」
ゴブリンが走ってくるのを見てから、トガリが最速で身体を反転させ走り出した。
「行こう」
「うん」
スライムの時より慎重に後ろから後を追う、この時に見つかってしまえば前衛が居ない状況で襲われ、トガリが駆け付けるまでに、明桜かユアのどちらかが死ぬ事もあり得る為、明桜とユアは互いの命がお互いの些細なミスで脅かされる事を知りながら、トガリとゴブリンの後を無言で追っていた。
「おらおらぁあ、どうしたゴブリンッ遅せなぁあッ」
走り出したトガリが目的地まで後、半分という所で上半身を撚るようにして首を動かし、走った状態でゴブリン相手に叫び盛大に煽り、ゴブリンの意識がより明確にトガリに向き、ゴブリンは速度を保ったまま右手に持っていた木の棒を振り回して叫んでいた。
(よし、後少しで用意した場所に着く。これで後はゴブリンを、トガリどうした。なんで止まって――)
ゴブリンを引き連れ走っていたトガリが急に止まり、それに気づいた二人が直ぐに止まり近くの木に二人で身を隠しながら先に視線を移した。
「なんで、どうしてゴブリンが」
木に隠れた状態で小声で呟いたユアに遅れ、明桜もトガリの進行方向に居る3匹のゴブリンをハッキリと目視するのだった。
「嘘だろ‥」
(なんでだ、俺たちは罠をゴブリンとの遭遇が頻繁に起こる場所よりも、かなり手前に仕掛けた筈だ、だからこそ仕掛け終わった後その周りを重点的に探しもした、それで居なかったから少し奥に入り、ゴブリンを見つけた今、最短最速で戻ってる筈なのに、どうして‥‥)
「全部で5匹なんて、そんなの無理だよ..」
明桜は事前にトガリとユアに確認していた、1対1ならトガリは勝てるのかと、それで返ってきた答えは無理。それもその筈だ、スライムを倒せない者がたった1Lv上がったからと勝てる程ゴブリンもスライムも弱く無い。
だからこそ、単独行動しているゴブリンが稀な事を知っている為に、罠を用意してそこに誘導して倒そうと明桜は考えていたのだ。
「トガリを連れて逃げるぞ!」
「うんっでも、どうやって?」
「・・・・」
既に前後を5匹のゴブリンに挟まれてるトガリを、そこから引きずり出して逃げる、明桜は口で言うのは簡単でもそれが困難な事に気づき初めていた。
「トガリとの間に居る二匹の気を俺達が惹いて、その隙にトガリが後ろから攻撃してもらいながら逃げるしかない」
「待ってットガリがそうしなかったらどうすんのよっ」
木の陰から飛び出した明桜をユアが止めようとするが、明桜は止まらずそのままゴブリンに向かって行った。
(トガリがそうしなかったら?それはその可能性は無いな、現にユアは俺の後に付いて来ているそれだけで十分だ)
「トガリ逃げるぞッ!」
「おうッ」
明桜が走りながら叫び、ゴブリンが明桜の方を向き、それと同時にトガリが全力で走り出した。
「シールドクラッシュ」
左手に持った盾を前に構え、トガリがゴブリンに衝突する。
背後からの衝撃を受け、そのまま地面に押し付ける様にトガリが上から被さり、ゴブリンがうつ伏せになり、トガリは急いで起き上がろうとする。
「ギィイ!」
押し倒されたゴブリンの側に居たもう一匹が、右手に持っていた棍棒を振り上げ、
トガリに向かって全力で振り下ろした。
「せいッ」
短く力強い声と同時に、棍棒を振り下ろすゴブリンの喉元に蹴りが当たり、ゴブリンの体勢が変わり無造作にも棍棒が地面に打つかった。
「アオッ戦えたのか!?」
「んな訳ないだろ!痛えよ、それより早く立て逃げるぞ」
アオに急かされたトガリがゴブリンを踏みつけながら立ち上がり、明桜と同時にゴブリンに背中を向けたまま走り出し、それに気づいたユアが振り返り走り出したので、明桜とトガリがユアの後を追う形で三人は森の中を走った。
(やばい足が痛い‥)
蹴りを放った右足から感じる痛みに気づき、明桜がふと後ろを見る、5匹ゴブリンがしっかりと後を追って来ている状態だった。
「なんで剣で一匹ぐらい刺して倒さなかったのよっトガリの馬鹿!」
「そんな事したら剣抜いてる暇ないだろ」
「一匹倒せればまだ良いじゃない!」
「剣無くなったらもお戦えないじゃんかよ」
「有っても倒せないなら意味ないでしょ」
「俺もゴブリンを一匹倒し損なった。すまん」
明桜が落ち着いた口調で二人の会話に割り込んだ。
(頼むから今は喧嘩しないでくれ)
呆れながらも、明桜は喋り続けた。
「それにゴブリンがスライムと同じ扱いだなんて嘘だろ」
「仕方ないよ、アオはステータスが魔法よりだもんっ」
「アオもねえちゃんも前みて走ってくれ!追いつかれるってぇぇえッ!」
最後尾を走るトガリから急かされ、明桜とユアの二人は速度を上げた。しかし走れと走った所で後ろを見ればゴブリンの姿が常に見えるのだった。
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