第16話.
早く季音葉を探さないと…
明桜がそう考えていても現実的な問題として、微々たる稼ぎでも稼がなければ数日で食べる物すら買えなくなる為、明桜は今日もトガリとユアと一緒に冒険者ギルドに朝食を済ませ訪れていた。
「今日もスライムを沢山倒すぜ!」
依頼が貼られている掲示板を一通り見て、戻ってきたトガリが元気よく声を出して気合を入れていた。
「その様子だと今日も良さそうな依頼は無かったんだな」
「おうっ」
「う~ん、下水掃除とか庭の手入れの仕事ならあるんだけどね‥」
ユアが苦笑い気味にそう言い、それにトガリが一瞬で反応する。
「嫌だぜ、冒険者になったのにそんなのやってられっかよ」
「だよね‥」
「なるほどな、ユアも大変だな」
「ほんとだよ、お金無かったらご飯も食べられないのに」
「そんなの魔物を倒せば良いじゃんか」
「私達そんなに強くないでしょ!何回言えば良いの、だいたいいつもいつもそう簡単に言うけどね、生活ギリギリなんだからね!?リガさんの所追い出されたら私達終わりなの分かってるのっ?」
「まぁまぁ、ユア落ち着いて、此処ギルドだから、周りね?」
「あ、うん。ごめん。トガリもごめん、少し言い過ぎちゃった」
「気にしてねぇよ、良しご飯を一杯食べる為にも今日は沢山倒すぞ!行こうぜ」
ユアのお小言を最初から聞いて無かったかの様な、切り替えの速さにユアは呆れ、明桜も笑いをこらえる事しか出来ず、三人がギルドに出ようと歩き出した時だった。
「アオさん、皆さん待ってください」
背後から聞き覚えのある声が聞こえ、明桜達三人が声のした方に振り返ると、小走りで走り寄ってくるスアさんが居た。
「あ、おはようございます。どうかしましたか?」
「おはようございます。アオさん、ユアさん、トガリさん」
「おっす」
「おはようございます、スアさん。それで私達に何か?」
「はい、実は先程失礼ながら会話が少し聞こえてしまい‥」
「あ。お騒がせしてすいません」
「いえいえ、別に怒りに来たとかじゃないんです。それで皆さんはこれからまたスライムを倒しに行かれるのですよね」
「はい、そのつもりです」
「理由は皆さんが一番知ってると思うのですが、今現在あの森は立入禁止なんですよ」
「「あ・・」」
「まじか!?」
ユアと明桜が同時に失念していた事を自覚させられ、粗同時に声が出てしまう。そして理由を知ってる筈のトガリは何でっといった工合に素で驚くのだった。
「ですから、森に行かれても無駄足になってしまうので声をかけた次第です」
「スアさん、ありがとうございます。すっかり忘れてました」
(昨日それよりも衝撃的事があったからなんだが‥)
「なら今日は庭の手入れの依頼を受けるしか無いわね」
「えぇ嫌だよ、そんなの。俺やりたくねぇー」
「トガリまたそんな事言って――」
「それであの、皆さんに提案なのですが、ゴブリンの討伐に挑まれてみてはどうでしょうか」
「ゴブリン!?いくいく行くぜ!」
「ちょっとまってトガリ。あのスアさん、私達にゴブリンはまだ早いと思うのですが私の勘違いでしょうか?いくらゴブリンの知性低からと言っても、スライムよりはありますし、スライムより多種多彩な戦闘をしてくるゴブリン相手に私達が対応出来るとはとても思えません」
スアさんの提案に食いつくトガリをユアが慌てて止め、自分たちの強さを微塵も過信しないユアがハッキリと否定的に言いきる。
「確かに早いと思われるかもしれませんが、ゴブリンはスライムより倒しやすいのは事実です、刃物も通りやすいですしHPも低いですからね」
「だからと言って、ゴブリンが必ずしも一匹とは限りません、そもそも単体のゴブリンの方が稀だと認知していますが違いますかっ?」
「ユアさんの言う通りです、ですから私は貴方達に勧めているのです」
「その理由をお伺いしても?」
「ユアさんとトガリさんは最初二人では、スライムを倒せていませんでしたね」
「はい」
「そしてアオさんも1人では勝てなかったのに、パーティーを組んだその日には倒せた、そしてスライムから回収してくるのは魔石だけ。これだけ分かれば皆さんが純粋に力押しに倒して無い事は推察出来ます、恐らく貴方達のパーティーは初心者ながら慢心せずにちゃんと作戦があると思いました。そういう人達ならゴブリン相手でも問題ないと私は判断しています」
「スアさん」
「はい、何でしょうかアオさん」
「・・・・」
「あのアオさん・・」
明桜はスアに呼びかけた後、目を合わせたまま無言で数秒ほどスアさんを見て、スアさん身動ぎ出してから再び話しだした。
「分かりました、今日はゴブリンを倒そうと思います。まぁ初日で倒せるなんて思ってませんが、良いよな二人共」
「勿論だぜ!」
「アオが良いって言うなら、仕方ないわね」
「何だよ、ねえちゃんさっきまでダメダメ言ってたのに」
「それこそ仕方無いでしょ、パーティーの三人の内二人が行きたいって言ってるのに、いつまでも合わせないなんてパーティーとして機能しないもの」
「でもユアさん、仲間の事を心配して止めようとするのはとても良い事です。どうかこれからもその気持を忘れないでください」
「はい。といっても、私の場合そうしないとトガリは直ぐに無茶しますから」
「それじゃ準備してから行こうか、スアさんゴブリンが居るのは何処らへんですか?」
「皆さんがスライムを倒しに行ってたのが南の森で、ゴブリンが居るのは東の森です」
「だったら、ギルドから出て左に進めば良いんですよね?」
「はい、南側同様進むと門がありますが、東の門からゴブリンが居る地点までは、草原の道を1時間程進み、森に入ってから更に1時間程進むとゴブリンを発見出来ると思います」
「ありがとうございます」
会話を終えた明桜達は、いつもより多めに食料を買い込んでから東の森に向かった。
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